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4.プロローグⅣ

 小鳥の囀りが聞えてくる。
 太陽の暖かな日差しが窓から差し込む。

「うっ……う~ん」

 フランは大きく背伸びをした。
 そして自分の頬をパンっと両手で叩いて気合を入れる。

「よし!」

 清清しい朝だ。
 なんて気持ちの良い朝なんだ。
 これまで何度も経験した朝、同じ朝なのにこうも違うものなのか。
 身体が軽い。
 綿毛のように飛んでいけそうなくらい軽いぞ。
 こんな事今まで一度も無かった。
 誰かに期待されるというのは、これほどまでに人を自由にするものなのか。

 フランは弾むように身支度をして、そのままの勢いで宿屋を出た。
 ギルド会館までの道のりを歩く。
 長い長い道のりを歩く。
 途中雑貨屋に立ち寄った。
 出てきた時には大量のポーションを袋に入れていた。
 そして意気揚々と駆け出す。
 ギルド会館が見えてきた。
 今日は立ち止まる事無く扉を開ける。
 いつも一人の会館に―――誰も待っていないこの場所に、今日は待っている人達がいる。

「おはようございます!」

 元気良く挨拶をする。
 声の先には昨日の男性冒険者。
 その後ろに仲間の冒険者がいる。

「やぁフラン君、待っていたよ」

 男性冒険者はさわやかに返事をする。
 フランは後ろの仲間達に視線を向けた。

「ああ、紹介するよ。彼らが私のパーティーメンバーだ」

 右から順に弓使い、槍使い、神官。
 全員男で皆優しい顔で笑っている。
 ちなみに昨日の男性冒険者は戦士である。

「あの、今日はよろしくお願いします!」

 個々に「よろしく」と返すパーティーメンバー達。
 全員の準備が出来た事を確認すると、戦士が号令をかける。

「それじゃ出発しよう!」

 おーと掛け声を上げ、フラン達一行はギルド会館を、次に町を出た。

「迷宮はグレブスの町からずっと北にあります。馬車を使って1時間って所でしょう」

 ギルド会館を出る前に、行き先である新迷宮の場所を確認する。
 大きな世界地図を開き、一番西にある大きな町のマークが、ここ始りの町グレブスである。
 今回向かうのは、グレブスの町から北へ進んだ森の奥。
 そこに新しい迷宮を発見した。
 馬車に揺られる事1時間。
 予想通りの時間で予定通りの時刻に到着する。
 一行は迷宮入り口の手前で馬車を降りる。

「どうして入り口まで行かないんですか?」

 フランが疑問を投げかけると――――

「入り口付近はモンスターが出るんですよ。だからこの辺りで降りないと、帰りの手段がなくなります」

「なるほど~」

 戦士が快く答えた。
 普段なら無視されるか馬鹿にされるかの二択だったフラン。
 返答が帰ってきた事に感激している。
 そんなこんなで歩く事10分。
 目的の迷宮入り口まで到着した。

「こ、ここが入り口……」

 石レンガで出来た鳥居のような門。
 その後ろに四角い建物と、地下へ通じている階段が見える。

「さぁ、行きますよ」

 戦士が先陣を切る。
 続いて槍使い、神官、弓使いの順に続く。
 フランはごくりとつばを飲み込み、心の中で気合を入れて後に続いた。
 迷宮の中は真っ暗で何も見えない。
 それでは困るので、神官が【ホーリーライト】の魔法で光源を作った。

 魔法って便利だな~
 僕もいつか使える様にならないかな~

 フランは羨ましそうに神官を見つめた。
 そのまま歩いていくと、途中何かが接近する気配を察知する。

「皆構えて!」

 戦士が指示を出す。
 フランも腰から剣を抜いた。
 暗闇から足音が聞える。
 足音はどんどん近寄ってくる。

 だ、大丈夫!
 僕だって少しは戦えるんだ!
 せっかく期待してもらってるんだから、しっかり働かないと―――

 暗闇からモンスターが飛び出す。
 現れたのは『ウルフ』4匹。
 フランは雄叫びをあげながら突っ込む。

「はぁ……ごめんなさい」

 戦闘は終了した。
 傷を負っているのはフランだけの様子。
 ポーションを飲んで回復する。

 やっぱり駄目だった……
 僕ってなんて弱いんだ……知ってたけどさ。
 また足を引っ張っちゃったよ。

「気にしないでください。それより大丈夫ですか? わざわざポーションなんて使わなくても、神官に治してもらえば……」

「だ、大丈夫です! ポーションたくさん持ってきたので!」

「そうですか? 羨ましいですね~ ポーションって結構高いですから」

「あっ、あはははは……」

 このクエストのために、貯金全部使って買い込んだんだ。
 正直馬鹿なお金の使い方だけど、戦闘で役に立てないなら道具で役に立つしかない!
 皆さんが傷を負ったらあるだけポーションを渡そう。

 フラン達はさらに奥へ向かう。
 道中いろいろな話をしながら。

「それにしても、こんな立派な迷宮よく見つかってませんでしたね?」

「はい。私も驚きましたよ。はじまりの町周辺の迷宮は、ほとんど全て探索されてしまってますからね? 今回は奇跡みたいなものですよ」

「そうですね。一体どんな宝が隠されてるんでしょうか」

 期待に胸躍らせるフランは思う。

 僕は今日、初めて冒険をしているのかもしれない。
 恐怖よりもワクワクの方が大きいなんて初めてだ!

 ピクニック気分でクエストを続ける。
 そうして一行は、大きな広間に出た。

「ひ、広いですね……」

 四角形の部屋。
 天井も奥行きも横幅も、桁外れに大きい。
 地上でもこれだけの部屋はほとんど無い。
 青く光る石の壁に覆われた空間の先には、一箇所だけ扉がある。
 黄金の装飾が施された扉。
 いかにもという感じで閉じている。

「あれってもしかして……」

「おそらく宝物庫ですね」

 期待をさらに膨らませた一行は、扉に向かって一歩を踏み出す。
 そう一歩、その一歩が命取りだった。

「汝ら―――誰の許しを得てここへ来たのじゃ?」

 空間に響いた声。
 神秘的で高い女性の声。
 その声が聞えた瞬間、目の前に突如として影が生まれる。
 影は大きくなり形を変え、やがて巨大な……

 蛇になった。
 

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