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66話 勇者を造る。業の深き事。(前編)

「……そろそろ話を進めてもいいかな?」

 空気を読まないのかわざとなのか、メッサーさんがイチャつく二人に釘を刺す。あたしとお姉ちゃんはニヤニヤ。

「はっ!? これは醜態を……申し訳ございません」
「す、済まない。えーと、俺達がお尋ね者かって話だな?」

 雰囲気がピンク色になりそうだったところを強制的に修正された二人の頬は、未だに薄っすらピンク色。でも、ふざけてばかりもいられない状況なのは分かっているのか、表情を引き締めて話し始める黒髪の少年。

「お尋ね者かどうかで言えば、お察しの通り俺達はお尋ね者だ。俺は帝国がやらかそうとしている事に反発して、宮殿から逃げて来たんだ。その時に俺を助けようとして、ついでにお尋ね者になっちまったのがコイツだ」
 
 そう言って、女の子の方に視線を移す黒髪君。

「ついでだなんて……あの、あなた方は、見た所冒険者なのですよね? 今から私達の語る事実を王国へ伝えては頂けませんか? 帝国が……父がやろうとしている事は非常に危うい事なのです」

 あ、これ厄介事ね、間違いなく。しかも、さらっと自分がお姫様って。

「これは皇女殿下であらせられましたか。存ぜぬ事とは言えご無礼を」

 逃亡中とはいえ、相手は一国の皇女様。メッサーさんの言葉と共に、あたし達は居住まいを正して頭を下げた。

「いえ。もはや追われる身ですので身分など……」

 どうやら、身分の事は気にしないらしい。この黒髪君も、かなりフランクに接しているし、堅苦しい話し方はしなくてよさそうね。あたしもお姉ちゃんもそういうの苦手だし。

「姫様。確かに我々は冒険者です。王国へ情報を持ち帰れと言うのは依頼ですか? 依頼であれば報酬を求めるのが冒険者というものです。しかも我々は特級パーティ『フォートレス』。少々お高く付く事になりますが?」
 
 うん? メッサーさん、らしくないな。非情というかドライというか。

「な!? お前ら! 俺達が命懸けで伝えようとしている事は、金なんかじゃ――」
「お止めなさい」

 メッサーさんの言葉を聞いて、激昂しそうになった黒髪君をお姫様が制する。こういう時は、皇女らしい威厳が出るのね。黒髪君は押し黙った。

「レン。私達は命を救われ、食事を施して頂いたのにも関わらず、何の対価もお支払いしていないのですよ?」
「だけどよ、これは……」
「少し、黙っててくれるかな? 少年。ボクらが欲しいのは、別にお金じゃないんだよ」

 ふうん? 男の子の名前はレンって言うのね。そう言えばお互い自己紹介もしてないや。よし! ここは一発あたしが!

「あのっ! あたしはシルト! 1級冒険者です! あたし、本当のお父さんの手掛かりを探して帝国に来たんです。手掛かりは帝国風の服装をしてたって事と黒髪だったって事。それから多くの魔物を倒せるくらいには腕利きだったであろう事。レン君でしたっけ? あなた、心当たりありませんか!?」

 はぁはぁ、一気に捲し立てちゃった……メッサーさん、後お願い……

「あー、補足するとだね、今言った、シルトの父親に関する情報。それが提供出来るなら交渉の余地がある」

 それを聞いたお姫様は、顎に指をあてて、しばし考え込む。なに、この子カワイイ!

「シルトさんのお父様が黒髪……もしや、レンの腕を再生させたのは、シルトさんなのですか?」

 姫様の問いにあたしはコクリと頷く。なんだろう? すっごくドキドキするわね……
 今の頷きが、今後の人生を左右するみたいな。

「我が帝国には、古来より魔王伝説というものがあります。いつの日か、魔王が復活し国土を蹂躙する。そして異国の勇者が魔王を打ち倒し平和を取り戻す。まあ、よくある御伽噺ですね。ですが――」

 そこまで言って、お姫様はチラリとレン君を見る。

「父が若い頃――まだ皇太子だった時の事ですが、異国の勇者を呼び寄せる方法が記された古文書が見つかったのです。そして、古文書の解読を進めついに勇者を呼び寄せる方法に辿り着きました」

 ほうほう、自国でどうにかするんじゃなくて、異国の勇者に頼る訳ね。もうこの時点で帝国の印象はマイナススタートだわ。でもお姉ちゃんは違う所が気になってるみたいなのね。

「『異国の勇者を呼び寄せる』とはどういう事だい? 呼べば集まるってのかい? 勇者が?」

 そうよね。言葉だけ聞いていると随分と都合のいいお話に聞こえるわ。そもそも勇者って何だろう?

「それは俺から話そう」
「でも、レン!」
 
 止めようとする姫様を制してレン君が語り出す。

「お姫さんは『異国の』、と言ったが、正確には『異界の』、が正しい。呼び寄せると言うのはそのままだ。召喚魔法というヤツで、本人の意思とは関係なくこの世界に呼び寄せられる。そして、共通している事は召喚された異界の人間は強力なスキルを持っている。それこそ、この世界の人間が持ちえないようなスキルだ。それ故、召喚された異界人は『勇者』と呼ばれる」

 姫様が悲しそうに俯いている。正直あたしには、今の話を聞いてもピンと来ない。異界の人とか言われても……でも、強力で、他の人が持ってないようなスキルかぁ。あたしの『リセット』みたいなものかな?

「その召喚魔法で、皇帝が異界の人間を本人の同意なく拉致している、そういう認識でいいのかな?」

 お姉ちゃんが苦々しい表情で、敢えて確認するように問うた。今の話が本当ならば、帝国が、皇帝がやっていた事は誘拐と変わらないもの。

「まあ、そんな感じだ。ただ、皇帝の奴は、二十年以上前から召喚を繰り返し、多くの異界人を呼び寄せている。その中には、自ら望んで勇者として戦おうって正義感の強い奴もいたみたいだ」

 あたし達は静かにレン君の話を聞いている。随分と興味深い話になってしまったもの。

「ここまで聞いてみた限りでは、確かに非道といえば非道だが、為政者として国を守るつもりで行った事なら、似たような話は他にもあるだろう? 姫殿下が逃亡するほどの話とは思えない」

 メッサーさんの言う事は難しいな。たとえ、異界の人間を拉致してきてでも、自国の民を守るという皇帝の行いは、完全に悪とは言い切れないって事かしら?
 あたしにはよく分かんないけど、国を動かす人達は、裏では汚い事もやってるって事?

「確かにな。だが奴は、異界の人間が強い力を持つ事をよしとせず、召喚した異界人のスキルを奪っていやがった。奴が欲しがっていたのは異界人の勇者じゃない。異界人の持つスキルだったのさ」

 レン君の瞳に憎しみが宿っている。メッサーさんの言う事に納得しつつも、更にトンデモ発言が飛び出した!

「スキルを奪うだって!? そんな事が出来るのかい!?」
 
 驚愕しているお姉ちゃんに答えるように、姫様が悲しみを湛えた瞳で静かに語り始める。その内容は驚愕すべきものだった。
 姫様曰く、元々勇者召喚の秘法は、召喚した人達から優良なスキルを集め、最も優秀な人間にスキルを集約させて、最終的に完璧な勇者を作り上げるというモノだった。今、皇帝が行っている事も同じ。
 ただし、違いは、その勇者を異界人ではなく帝国の人間から作り上げようとしている事。そして、その勇者としての器が姫様。既に姫様には幾人もの異界人から奪ったスキルが注ぎ込まれている――

「……」

 あたし達は言葉が出なかった。それじゃあ、有無を言わせず連れてこられた異界人は、勇者を造りだす為の、単なる原材料扱いってことよね?

「コイツはお人好しだからな。自分が勇者として魔王と戦うとか言い出しやがってよ。でもコイツはスキルを奪われた奴らの末路も、スキルを移植されたヤツの末路も、知らなかったんだ」

 ……末路?

 まだまだ、深い闇の話は続きそうね……

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