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第27話

 短大入試合格の朗報を聞いたあと、はると澄人はいつものスーパーへ買い物に出かけた。

「~♪」

 澄人と、どんな場所に住むことになるのだろうか? 部屋にはどんな家具を置こうか? 旅行に行くとしたらどこへ行くだろうか?

 鼻歌を歌いながら歩く彼女の頭は、澄人との幸せな生活のビジョンで、いっぱいになっていた。その時だった。

「あ、はる。あそこに、アーティナル・レイスがいるよ」

 澄人は足を止め、向かい側の歩道を見ながら声をあげる。

 二人の目に、歩道を歩く十数名の幼稚園児と女性保育士。そして、二人のH.Wタイプ――女性型アーティナル・レイスが映った。

「あ、そっちに行ったら――!」

 列から離れ、どこかへ行こうとする男の子を止めようとする女性保育士だったが、彼女は別の子供の手を握っているため、動くことができない。

 すると、二人のアーティナル・レイスのうちの一人が、

「私にお任せください」

 素早く男の子を追いかけ、転ばないようにその体を抱き上げた。

「ゆうた様。列を離れてはいけませんよ」
「やだやだ! はなして!」
「どうして嫌なのですか?」
「やだ! せんせーじゃないと、やなの!」

 駄々をこね、暴れる男の子。それをアーティナル・レイスは離すことなく、しっかりと――かつ男の子を傷つけぬように、両腕で抱き続ける。

「……なるほど。ゆうた様、先生にかまってほしいというお気持ちはわかりますが、そのような態度をとっていますと、先生に嫌われてしまいますよ?」
「ぼく、せんせーにきらわれちゃうの……?」
「大丈夫です。先生に『ごめんなさい』と言って列に戻れば、きっと許してくださいますよ。そうすれば、先生は幼稚園に戻ってから、ゆうた様とたくさん遊んでくれるはずです」
「ほんとう?」
「はい。私も先生に頼んであげます」
「うそついたら、はりせんぼんだよ?」
「わたしは、ゆうた様に嘘などつきません。約束します」
「わかった。ぼく、もどる」

 そうしてアーティナル・レイスは男の子を連れ、保育士のもとへと戻っていった。

 まだまだ数は少ないものの、徐々に人々の生活に浸透しつつあるアーティナル・レイス。

 人間の仕事を奪うのではないか? と危惧する声も無論あるが、人手不足が申告だった保育や介護などの現場では歓迎されている。

「よかった」

 アーティナル・レイスと男の子の様子を眺めていたはるは、ほっとした笑顔を浮かべた。

「よかったって、あのアーティナル・レイスが男の子を列に連れ戻したことが?」
「それもありますけど……あの男の子が、アーティナル・レイスのことを、叩いたり殴ったりしていなかったから、安心しました」
「はる……」

 アーティナル・レイスは、人間と同じような人格を備えているが、やはり造りモノ――機械であることに変わりはない。ゆえに、今までのヒューマノイドと同じく、道具のように扱っている人間もいる。

 現に、動画投稿サイトに、“購入したばかりのアーティナル・レイスを分解しちゃった”というタイトルの、ショッキングな動画が投稿されたことがあってニュースになった。

「わたし……人間とアーティナル・レイスが仲良く――互いを支え合えるような世界になったらいいなって思っているんです。わたしと澄人さんのように……」

「僕も同じ気持ちだよ。そんな世界になったらいいなって思う。だから……そんな世界になるように、僕もがんばるよ」

 澄人はそう言って、はるの右手を握った。

 こんなに自分のことを想ってくれている――幸せをくれる彼のために何かできないかと、考えるはる。

 すると、幼稚園児達を見ていた彼女の中に、ある想いが生まれる。

――澄人さんとの子供……ほしいなぁ。

 一人……いや、二人。最初に澄人に似た――おとなしめの子が産まれて、次に自分に似た――明るく優しい子。

 仲の良い二人の子供達と共に、仕事を終えて帰ってきた澄人を「おかえりなさい」と言って出迎え、家族四人で幸せに暮らす。そんな家庭になったら……そう思いながら、彼女は左手でお腹に触れるが、いくら外見が人間に近いと言っても、機械の体であるはるには、人間の子供を産むことはできない。

 一応、子供の外見を模したアーティナル・レイスもあるが、お金を払ってそれを購入しても、二人の子供とは言えないし、澄人も喜んではくれないだろう。

「はる、お腹……どうかしたの?」
「い、いえ。なんでもありません」

 澄人に言われ、ぱっと左手をお腹から離し、再び彼と共に歩き出すはるだったが、それでも時折、視線がお腹の方を向いてしまう。けれども、いくら見たところで彼の子を産めるようにはならない。

――どうしたら、澄人さんの子供を作れるんだろう……?

 諦めきれないはるは、自分に備わっている機能とデータを再確認し、方法を考えてみる。すると……

――あっ、そうだ!

 あることを思いつき、それが可能かどうかをシミュレートしてみる。結果は……確率は高くはないが、不可能ではない数値。それでも、前代未聞――当然前例はなく、はるにとって初めての試みになる。

――時間もかかるし、できるかどうかわからないけど……それでもやってみよう!

 決意したはるは、心の中でガッツポーズをとるのであった。

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