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第5話 地下牢と地下通路

 頭の中にデイヴィスの狂ったような高笑いが響いている。

 イザベルはゆっくりと目を開けた。真っ暗な部屋だ。ここは一体どこだろう。身を起こそうとして、自分が縛られている事に気づいた。足は縛られてなかったので起き上がる。それにしても首と頭が痛い。

「……ここどこ?」

 ついお決まりの台詞をつぶやいてしまった。

『おはよう、イザベル。気分はいかがかな?』

 突然デイヴィスの声が聞こえてきた。あわててきょろきょろと目線を動かしてみるが、彼はどこにも見えない。夜目がきくイザベルでも見えないのだからいないのだろう。

『滑稽だな。馬鹿みたいにきょろきょろして。ああ、そっちにはいないよ』

 なのに声はイザベルの様子が見えるように話しかけてくるのだ。これはどういう事だろう。

「ここはどこ?」
『……ここは俺のアジトの地下室だよ』
「地下室?」
『『地下牢』とも言う』

 その宣告にイザベルは言葉を失った。なのにそれを嘲笑うように声は高笑いを始める。

『これくらいで怖じけずいているようじゃ俺のライバルとしては相応しくないな。……少しだけ痛めつけてあげようか』

 その言葉とともにイザベルは近くの壁に思い切り叩き付けられる。そうして声はあいかわらずイザベルを馬鹿にするように大笑いをしているのだ。

 どうやって、と思ったが、すぐに考えるのも馬鹿らしいと思い直す。彼は魔術の達人なのだ。これくらい術でどうにか出来る。声もイザベルの行動を予測し、あらかじめ用意しておいたのだろう。

『いい事教えてあげようか。その縄はある一点に行けばほどけるよ。そうしたらこの扉の鍵を探してごらん。そうすれば脱出出来るよ。頑張ってね、俺は楽しく盗みをしながら待っているからね』

 明らかに『お前には無理だ』と言っているのがわかる口調だ。

「いいわよ。乗ってやろうじゃない!」

 イザベルは声に向かって高らかにそう宣言した。声は『ふん』とイザベルの言葉を嘲笑った。


****

 地下通路でデイビッドは伯爵夫人が来るのを待っていた。

 先ほど、魔道具を使って彼女の自室を攪乱させた。予定通りなら夫人はここに逃げて来るだろう。

 今はいつもの泥棒装束に白いエプロンとボンネットをつけている。ここの侍女のものだ。侍女の制服が黒なので分からないだろう。そして彼女がこの隠し通路を通るときの為に先導役の侍女をつけているのも知っている。

 本物の先導役の侍女は気絶させ、縄で縛り上げてから彼女の寝室に放って来た。

 数人の足音がする。

「奥様、気をしっかり。ここから逃げれば泥棒などに見つかる心配はありません」
「あの大泥棒と言えども隠し通路の見取り図など持っているわけありませんからね」
「ありがとう、皆さん」
「奥様、ブレスレットを離さないで下さいね」
「もちろんよ」
「デイビッドには部屋にある偽物を持っていってもらいましょう」
「まあ、そしてそれが明日のグラスに乗るのね。おっかしいわー!」

 誰も彼がここに忍び込んでいる事など想像もしていないようだ。大体、二年間も泥棒をしている男がレプリカと本物の違いが分からないはずがないだろう。

 こんな勘違いをされるのは、イザベルがレプリカを差し出したからだという事は分かっている。もちろんそれを野放しにするつもりはない。いずれ本物のサンセットはもう一度奪い取ってやるつもりだ。

 でも今は伯爵夫人のブレスレットだ。デイヴィスは女に聞こえるような声をだした。

「奥様、こちらです」
「ああ、ありがと……」

 夫人は最後まで言う事が出来なかった。デイビッドが彼女にナイフをつきつけたからだ。

 このナイフは魔剣ではない。デイビッドは魔力持ちではないという設定にしているからだ。それにスワンストン伯爵夫人も魔力持ちではないので魔術を使って攻撃するのはフェアではないのだ。先ほど使った魔道具も、魔力持ちでなくても使える簡素なものだ。

「動くな」

 静かに、でも恐ろしいと分かる声で脅す。侍女が恐怖のあまり後ずさりするのが見える。逃げる者を責める気はない。

 さっさと夫人の腕からブレスレットを外す。そうすればもう用は終わりだ。

「デ、デイビッド! こんな事をしてただですむと思わないで下さいね。外には……」
「あんなくだらねえ賞金稼ぎなんて敵じゃねえよ」

 さっさとエプロンとボンネットを外し、夫人の顔に叩き付ける。そうしてさっさと通路を走っていった。

 侍女が追いかけてくるのが見えるが、追いつけないようだ。辛そうにぜえぜえと言っている姿がとても滑稽だった。

 あとは適当にホワイト氏をからかって転移術で帰るだけだ。

「覚えてらっしゃい! デイビッド! 絶対に仕返ししてやりますから! みんなの前で恥をかかせてあげますわ!」

 伯爵夫人が叫ぶ声が聞こえて来る。どうせ口からでまかせだ。こうやって直接盗みをするときは、被害者は大体そう言うのだ。

 デイビッドはそちらの方向に向かって思いっきり舌を出してやった。

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