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第2話 挑戦状

「イザベル」

 アシュレイの声だ。イザベルはレモネードのグラスを置いて振り返った。

「昨日のデイヴィス様とのダンス本当にステキだったわね。特に最後のダンスはかっこよかったわ。みんな見とれてたわよ、私とフィオナも含めてね」
「そう? じゃあ失敗はなかったのね。よかった」

 さらりと言うと、アシュレイは、信じられない、とつぶやいた。どうしてあのデイヴィスに魅力を感じないのかとでも思ってるんだろう。これではさすがに、彼の事が大嫌いなのだとは言えない。

「だってあのダンスとっても難しかったんだもの。だから失敗してないかずっと心配で……」

 苦笑しながら言う。これは嘘ではない。

「私じゃわかんないわよ。デイヴィス様に聞かないと」
「そうね。後で聞いてみるわ。ところでフィオナは? 今日全然見ないんだけど」
「来てない。昼間のキツネ狩りで馬から落ちちゃったのよ」
「え? 何ですって?」

 アシュレイのその言葉にイザベルは驚いて目を見開く。そんな大変なことがあったのにアシュレイは何故そんなに平然としていられるのだろう。

「それでフィオナは? 怪我ってどれくらい?」
「捻挫はしたみたいだけどたいした事はないって。ただ大事を取って二、三日くらい外出禁止だって言われてるみたいよ」

 それを聞いてイザベルはほっとため息をつく。でもやはり心配なので、明日、様子を見に行こうかと考えていたちょうどその時、奥の方からざわざわした声が聞こえてきた。

「ねえ、なんかあっちの方が騒がしくない?」
「言われてみればそうね、なんかあったのかしら?」

 二人は無言でうなずきあうと、そちらの方へ歩いていった。
 そこではたくさんの人が一点に集まって壁に貼られた紙を見ていた。やけにざわざわしてる。時々デイビッドという言葉も出て来ている。

 デイビッドの犯行予告でも貼ってあるんだろうか。だったら自分も行かなければならない。今度はどんな作戦で行こうかな、とわくわくしながら貼られている紙を見る。しかしそれを読んだ瞬間、イザベルは雷に打たれたように動けなくなってしまった。



親愛なるディアブリーノ様
明日の夜十時に一昨日会ったところで待っている。最高のおもてなしをしてあげるから楽しみにしているように。
デイビッド



 間違いない。これはデイビッドからディアブリーノへの挑戦状だ。最高のおもてなしなどと書いてあるが決闘でもするつもりだろうか。ということはこれは果たし状だということになる。確かにディアブリーノの出番といえば出番だけど、こんな形で挑戦状を送られるとは思わなかった。でも確かに大胆なデイビッドのやりそうなことだ。

 昨日の母親の言葉が蘇る。やはりデイビッドはイザベルを恨んでいた。

「すごいね、イザベル! 私、挑戦状なんてはじめて見た」
「私も」

 アシュレイの能天気とも言える言葉に苦笑する。そのはじめての挑戦状が自分宛なのだからはしゃぎたくてもはしゃげない。やはりイザベルがディアブリーノの正体だという事はデイビッドに知られているのだろう。でなければこんな大胆な果し状など送らない。少なくともディアブリーノが社交界にいなかったらこのカードも意味がなくなってしまう。

 間違いなくデイビッドはこの会場の中にいる。もし正体がばれてるんだとしたら怖がってるなんて態度は見せてはいけない。でも怖いものは怖い。

 行くしかない。場所をぼかして書いてくれたのが不幸中の幸いというところだろうか。

「もしディアブリーノがこの挑戦状を見てなかったらどうなるのかな」

 ぽつりとつぶやく。そんなことを言っても無駄だということはイザベルにもよくわかっていたが、言わずにはいられなかった。
 もしこれをデイビッドが聞いてたら見逃してくれるかもしれない。そんな希望も多少はあったのだろう。でもそんな事が起こるわけがないという事もイザベルにはちゃんとわかっていた。

「デイビッドの不戦勝とか」
「やだ。そしたら正体がばらされちゃうのかしら。ディアブリーノも可哀想なものね」

 フィオナもここにいればこの挑戦状についての意見を聞けたのにねなどと話している間もイザベルの心は不安で渦巻いていた。

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