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24.偽りの平穏③

 領主との話は、俺たちに疑念と動揺しか生まなかった。
 信じられない話を信じないといけない矛盾。
 スキルの影響とはいえ、こんな気分を味わうとは予想もしていなかった。

「しかしまぁ、つまりこの街は安全ってことだよな」

「そうなるのう」

「だったら今日は、久しぶりにゆっくり休めるってことだ」

 王都を出発してからの一ヶ月間。
 ほとんど野宿で、休む暇もなく戦い通しだったからな。
 まぁ地獄に比べればこのくらい大した疲労でもないんだけど、今日はもう遅いし、ルリアは純粋に人だから休んだほうがいいだろ。
 あー……まただ。また俺あいつの心配なんてしてるよ。

「ん、どうしたルリア?」

 宿屋の前に到着したところで彼女のほうを見ると、悩んでいるような顔をしていた。

「別に何でもない」

「あっ、もしかして一人で寝るのが寂しいのか?」

「んなわけないだろ! ばっかじゃないの!!」

「……さいですか」

 予想通りの反応が返ってきた。
 そして俺たちは宿へ入り、各々の部屋に行く。
 俺とプラムは同じ部屋で、ルリアだけ少し離れて別の部屋に入る。

「のうルークよ」

「ん?」

「やはり信じられんのじゃが、主のスキルは確かなのか?」

「……残念ながら正しいよ。俺も信じられてないんだけどな。こんなにも自分の眼を疑ったのは初めてだ」

「そうか……」

 プラムはまだ疑っているようだ。
 実を言うと、俺も半分は信じていない。
 俺のスキルは嘘を暴けるが、それは一言に限定される。
 あの一言が真実だったとしても、他の発言に嘘が混じっていた可能性もある。
 だから用心はしておこう。
 そう思いながら、俺たちはベッドで横になった。

 一時間後――

 ギィギィと近づく音が聞こえてくる。
 鍵をかけたはずの扉が、カチャリと小さく音をたてて開いた。
 中に誰かが入ってきた。
 暗くシルエットしか見えない人物は、俺が寝ているベッドに偏り、右手を大きく振り上げた。
 手に持っているのは包丁だ。
 その人物は、躊躇いながらも意を決して包丁を振り下ろしたのだ。
 刃が俺の喉元に突き刺さる。

「がっ……」

「ハァ……ハァ……」

 ごくりと息を飲む。

「こ、これで……確実に――」

「おめでとう。ちゃんと殺せてるよ」

「えっ――」

 俺は勢いよく起き上がった。
 そのまま動揺している隙に蹴り飛ばし、扉横の棚にたたき付けた。
 俺は首に刺さった包丁を抜く。
 すると、傷口が青白く燃え、瞬く間に修復した。

「な、なんで! 喉を刺したのに!」

「残念だけど、俺は殺すくらいじゃ死なないんだ。ただ……受付のお姉さんに殺されるとは思わなかったな」

 動揺する犯人の正体は、この宿屋で受付をしていた女性だった。
 理解できない光景に動揺しまくっているようだ。

「用心しておいてよかったのう」

「だな。さすがに封印とかはなかったから助かったけど」

「くっ、くそ!!」

 受付嬢は汚い言葉を吐きながら、懐から取り出した筒状の何かを投げつけた。
 床に当たった瞬間、カチッという音が聞こえる。

「まさか――」

 俺たちはとっさに窓から飛び降りた。
 直後、爆音が鳴り響き、俺たちがいた部屋が木っ端微塵に吹き飛んだ。

「おいおい、マジかよ」

 さっきのは爆弾だった。
 自分ごと殺そうとしてくるなんて、どういう神経してるんだよ。
 それに、飛び出す直前に見た受付嬢の顔……まるで、ようやく解放されるという感じだったぞ。
 死に直面してるのに、なんであんなに穏やかな顔ができるんだ。

「ルリアは!?」

「きゃあー!」

 彼女の声が聞こえた。
 俺が出た窓とは反対側で、同じく窓が割れる音が聞こえた。

「くそっ!」

 俺はすぐに現場へかけつけたけど、すでにルリアはいなかった。
 部屋には暴れた形跡が残っている。
 どうやら連れ去られてしまったらしい。

「プラム! どこに行ったか追えるか!」

「待つのじゃルーク」

 焦る俺に、彼女は諭すように言う。

「爆発があっというのに、住人が誰も出てこない。窓から顔すら覗かせない……」

「……確かに」

 周囲には民家や商店が並んでいる。
 夕方来た時には、たくさん人の姿もあった。
 それなのに、爆発から一分経過しても、誰一人顔を出していない。

「となると、この街全体がグルだったってことか」

「そう考えるのが妥当じゃのう」

 俺はこのとき、この街へ最初に足を踏み入れたときのことを思い出していた。
 あの時俺は、嫌な懐かしさを感じていたんだ。
 女性の誘惑に誘われながら身を削った経験がよみがえる。
 そう、この街は【衆合地獄】に似ていた。

 全てが偽りだった地獄と、嘘で塗り固めたこの街は、同じように淀んでいた。

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