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7.等活地獄

 覚悟は決まった。
 準備もできている。
 あとはもう、地獄に行って耐え抜くだけだ。

「始めるぞ?」

「うん。最後に確認なんだけど、上手くいけば十日以内戻ってこれるんだよね?」

「そうじゃ。地獄と現世では時間の進みに差異がある。あちらで何千年過ごそうと、こっちではほとんど時間は経過しておらん」

「わかった」

「もう良いかのう? ワシもそろそろ寝床に戻らんとな」

「うん。それじゃ――行ってきます」

 僕は呪具に触れた。
 その瞬間、全身を虫が這っていくような気持ち悪さと、急激に気温が下がったような感覚に襲われた。
 視界が暗くなり、どこかへ落下していくような感じがする。
 落ちているのか?

「うっ!」

 暗闇で落下していた僕の身体が、地面らしき場所に衝突した。
 感覚的には数十メートルは落下していたように感じるけど、激突の衝撃自体はそこまで強くなかった。
 僕は立ち上がり、周りを見渡す。

「何だここ……岩場か? それにこれって……」

 地面には剣が突き刺さっていた。
 剣にはすでに大量の血が付いていた。
 僕は一瞬尻込んだけど、意を決してその剣を抜いた。

「オオオオオオオオオォォォォォォォォ!!」

「なっ――」

 一回瞬きをした瞬間、僕の周囲の状況は一変した。
 岩場には僕一人しかいなかったのに、急に大量の人間が現れたのだ。
 しかも皆、武器を手に持って互いに殺しあっている。

「何だ……何なんだよこれ……うっ!」

 戸惑う僕の背中に激痛が走った。
 怯みながら振り返ると、見知らぬ男が血走った目で僕を睨み、手に持った剣で斬りかかっていた。

「ぐわあぁぁぁぁぁぁぁぁ!」

 男は容赦なく剣を振り下ろした。
 左腕の感覚が一瞬とんで、直後に焼けるような激痛が襲う。
 僕は痛みに悶えながら倒れこみ、そこに複数の男たちが集まってくるのを見た。
 それを最後に、僕の視界は閉ざされ、串刺しにされている痛みだけを感じ続けた。

 そうして僕は、地獄に来て最初の死を迎えた。

 【等活地獄】――八つの地獄のうち、もっとも浅い階層に位置する地獄である。
 罪状は殺生、アブやアリなど小さな虫を殺しただけでもこの地獄に落とされる。
 拷問内容は、他の罪人同士で延々と殺しあうこと。
 この地獄に落ちた時点で、罪人は武器を持たされており、それを認識した直後に殺し合いは始まる。
 もし逃げようとしても、獄卒である鬼に殺されてしまう。
 殺されたとしても、獄卒の「活きよ、活きよ」の声で元の身体に蘇る。
 ここでの寿命は五百歳。
 つまり、五百年もの間、僕は殺しあわなければならない。

 百年くらい経過した辺りだったと思う。
 もはや何回殺されて、何回殺したかわからなくなっていて、僕の精神は大きく変化していた。

「くそがっ、かかってこい! 俺はここだぞぉ!!」

 乱暴な口調になり、一人称も【僕】から【俺】に変わっていた。
 この時の俺には、自分に起こった変化がわかっていない。
 ただがしゃらに、夢中になって他人を殺すことしか考えていなかった。
 
 そして――あっという間に五百年は経過した。

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