バナー画像 お気に入り登録 応援する

文字の大きさ

6.覚悟はあるか?

 現世で罪を犯した魂は、死後に地獄へ送られる。
 地獄には八つの形相が存在し、犯した罪の重さによって、どの形相に送られるのかが決まる。
 もっとも浅く、拷問の軽い【等活(とうかつ)地獄】から始まり、【黒縄(こくじょう)地獄】、【衆合(しゅうごう)地獄】、【叫喚(きょうかん)地獄】、【大叫喚(だいきょうかん)地獄】、【焦熱(しょうねつ)地獄】、【大焦熱(だいしょうねつ)地獄】、そして最下層に位置する【無間(むげん)地獄】。
 また各地獄の周囲には、逃げようとした魂に罰を与える十六種の小さな地獄が存在し、それを【十六小地獄】と呼ぶ。

 【地獄巡り】では、等活から無間まで全ての地獄を巡り、その拷問に耐えぬかなければならない。
 さらに各形相での最大寿命が決まっており、もっとも浅い等活地獄ですら、五百年という長い時間をすごさなくてはならないのだ。
 人間の一生なんて、高々八十年前後。その何百倍、何千倍もの時間を地獄で過ごすのだ。
 
 その苦しみは、言葉では表現できないほど――

 かつて挑んだ六人の挑戦者も、各々の覚悟を胸に地獄を巡った。
 決して甘い覚悟ではなかったはずである。
 しかし、誰一人として最後までたどり着けなかった。
 
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇

「さぁ、主の答えを聞かせてくれ。主が拒むというのなら、この話はここまでじゃ」

 プラムは急かすように言った。

「ま、待ってくれ……待ってください。十秒だけ考える時間をください」

「良いじゃろう。これは主の今後に関わる重要な問題じゃ。十秒と言わず、一分くらい待ってやるぞ」

 与えられた時間、僕は必死に考えた。
 シンクたちとの思い出を想起させ、自分の中にある感情を奮い立たせた。

 僕は――

「行くよ! 僕は地獄へ行く」

「……」

 プラムはニヤリと笑った。

「可能性が薄くても、成功例がなくても、そこに可能性があるなら挑戦するよ。僕は本来、皆と一緒に死ぬはずだったんだ。今の僕は死んでいるのと変わらない。もしも僕に、敵を討つチャンスが得られるのなら……地獄でもあの世でも行ってやる!」

「うむ、良い返事じゃな」

 皆ごめん……俺はやっぱり、黙って平穏に暮らすなんてできないよ。
 きっと皆は怒るだろうね。
 優しい皆は、僕に敵討ちなんて望んでない。それはわかってるよ。
 だけどこのままじゃ……僕は僕自身を許せないんだ。

「ならばさっそく始めるとしよう」

「待って! その前に教えてほしい。あなたはどうして、僕に手を貸してくれるの?」

「何じゃそんなことか。当然見返りがほしいからじゃよ」

「見返り?」

「うむ。主には地獄を巡るついでに、最下層にあるワシの肉体を回収してきてほしいのじゃ」

「肉体? どういうこと?」

「むぅ~ これを説明しようと思うと長くなるのじゃが~ まぁ良い、話してやろう。今から三百年ほど前のことじゃ――」

 ワシはその頃、魔王と行動を共にしておった。
 うむ、そうじゃ。
 主が良く知っておる魔王じゃよ。
 何をそんなに驚いておるのじゃ?
 魔王は人ではないのじゃ、当然寿命も異なる。

 話を元に戻すぞ?
 ワシは魔王と結託し、人間どもと敵対しておった。
 単なる気まぐれじゃった。
 別段、人間に恨みがあったわけでもないし、魔族どもに肩入れする理由もない。
 本当に、ただの気まぐれで味方しておった。
 
 なのにあの男……ワシの存在を脅威と感じたのか、急に手のひらを返して裏切りよったのじゃ。
 まったく腹立たしい。
 思い出すだけで殺意が沸いてくるわ。
 じゃがまぁ、いくら魔王といえどワシを無傷で倒すことは不可能じゃった。
 そので奴が用意したのが、封印と言う手段じゃった。
 
 もうそろそろ理解したじゃろ?
 うむ、ワシの身体は魔王によって地獄に封じられた。
 この呪具の力を利用してのう。
 あれはワシも予想外じゃったよ。
 ただ、ギリギリで魂を肉体から切り離すことに成功して、呪具も奴の手元から吹き飛ばすことができた。
 そして、その後呪具を手にしたのが、数代前の国王じゃ。
 それ以来、ワシは王族の娘に憑依し続け、主のような協力者を探していた。

「というわけじゃ。理解できたかのう?」

「まぁ、なんとか……。要するに、今のあなたは幽霊みたいな状態ってこと?」

「そんなところじゃな。他に質問がないなら、そろそろ始めるぞ」

「いや、まだもう一つ聞きたいことがあるよ。肉体を取り戻した後は……どうするの?」

「主と一緒じゃよ」

「一緒?」

「ワシを裏切り封印した魔王に、お灸をすえてやらんといかんじゃろ?」

 プラムは悪戯を仕掛けようとしている子供のように、無邪気で意地悪な笑顔みせた。

「つまり、僕と一緒に魔王を倒しに行く?」

「そういうことじゃ。これでわかったじゃろ? この提案が、主にとって利益しかないことが」

 確かに彼女の言う通りではあった。
 試練を終えた後、一緒に魔王と戦ってくれる仲間はほしい。
 真祖の話が事実で、彼女が仲間になってくれるのなら心強いと思った。

「さぁ主よ。これで憂いなく地獄におちれるじゃろ?」

「うん――絶対に耐え抜いてやる」

「うむ、期待しておるぞ」

 僕とプラムは台座に置かれた呪具に目を向けた。
 僕たちは見据える――地獄の先にある復讐劇を。

しおり