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第44話

 ナオがリングの上に立つと、黒邉は腕組みをしながら「そんじゃ、始めるぞ」と指示台のモニターを指でタッチした。

『スタート一〇秒前。九……八……七……』

 始まるカウントダウン。

 ナオは両手にハンドガンを握り、フミヒメは両手に鉄扇を持ち広げる。そして――

『三……二……一……スタート』
「――!」

 バトルが始まると同時に、ナオは相手よりも先に動き出す。

(まずはこちらから動いて、相手の行動パターンを――!)

 時計回りに走りながら、その場から動かないフミヒメの関節に狙いを定め、引き金を引いた。

 発射されたのはゴム弾。しかし、その速度は実弾並。しかも距離は一〇メートル未満。並の人間なら確実に当たっただろうが、フミヒメは素早く鉄扇を舞い動かし、軽々と弾き防ぐ。

 その間にナオはジャンプし、今度はフミヒメの頭上から撃つが、それも鉄扇によって逸らされる。

(……当たりませんか)

 そのままリングを囲っている強化アクリルの壁に着くとそれを蹴り、ハンドガンのリロードを行いながら距離をとるナオ。

 その隙にフミヒメは、流れるような動きで右手の鉄扇をハンドガンに持ち替え、撃ってきた。

(頭部狙い……!)

 ハンドガンの銃身で弾を薙ぎ弾きながら、フミヒメの動きに注意する。

(接近は?)

 けれど、フミヒメは二歩ほど前に出ただけ。大きく動こうとはしない。

(なるほど。相手はこちらが接近するのを、待っているというわけですか。それならば――)

 再度ハンドガンの引き金に指をかけるナオ。当然フミヒメは、先ほどと同じように鉄扇を構える。すると彼女は、両手のハンドガンを投げつけた。

「ぇ……!?」

 フミヒメは小声を漏らし、動きを止める。

(どうやら、こうされた経験がないようですね)

 A.R.Bのルールでは、ハンドガンそのものを投げて当てたとしても、ポイントにはならない。そもそも、残弾の残っているハンドガンを投げつけるという行為事態が、ありえないこと。だからフミヒメの、思考の一部がフリーズを起こした。

 ナオは一気に接近して打撃を放ち、フミヒメの手から鉄扇とハンドガンを離す。

「おいバカ! なにやってんだ!!」
「っ!」

 黒邉が怒声を吐くと、フミヒメはスラスターを吹かしてナオの打撃から逃れる。けれども、ナオは知っていた。そのスラスターが長時間続かない、クイックタイプであることを。

(逃しません――!)

 思いっきり地面を蹴り、距離を詰めるナオ。

 するとフミヒメは、大型ブレードを抜いて左へ薙いだ。

(大ぶり……かわせる!)

 頭を下げて姿勢を低くし、フミヒメの懐へ入ろうとした、その時――。

「――っ!?」

 フミヒメの大型ブレードが突如軌道を変えてきた。

 ナオはとっさに回避を試みるが、左へ薙ぎ――上から下へ――下から上へ――まるで“爪”の文字を書くようなその動きに対処しきれず、上腕や脛に当たってしまった。

『Aコーナー、五〇ポイント』
「っしゃぁ!」

 ポイント取得のアナウンスが聞こえると、黒邉がガッツポーズをとった。同時に、周りで観ていた男達から歓声が上がる。

「爪連斬が決まった!」
「さすが黒邉さんのアーティナル・レイスだ!」

 爪連斬……A.R.Bで得られるポイントで入手可能な攻撃モーションで、いわゆる必殺技の一つだ。

(まさか、この技を使えるとは……)

 ナオは驚いたが、すぐに心の中で首を横に振る。

(いえ……使えて当然です。あの頃と違って、今はモーションデータさえ入手すれば簡単にできてしまうのですから)

 フミヒメの大型ブレードが当たった箇所を見るナオ。

 A.R.B用のブレードには殺傷能力はなく、切れているわけではないが彼女は痛みを感じた。ただ、それはたいしたことではない。痛覚など、すぐにオフにできる。そんなことよりも、当たった部分の人工皮膚が赤くなり、ほんのわずかだが傷がついたことの方が一大事だった。

(あっ……! 澄人が施術できれいにしてくれた人工皮膚が……)

 傷を見て体を震わせていると、澄人の声が頭の中に送られてきた。

「(ナオ、大丈夫!?)」

 チラッと彼の方を見ると、不安そうに口を半開きにしている顔が目に入る。

「(はい……大丈夫です)」

 ナオはうつむき気味になりながら返事をして、震えを止めた。

(…………不愉快です)

 澄人を不安にさせた自分が。

 自分の人工皮膚を傷つけた相手が。

 それもこれも、慎重になり過ぎた上に、相手が使ってくる技を予想しきれていなかった自分の責任だと、ナオは自らを責めかけたが……。

(いえ……そもそもこんなことになったのは、あの黒邉という男が、澄人からペンダントを……子供達を奪ったせいです)

 ゆっくりと顔を上げ、黒邉に視線を移すナオ。その目には殺意に似た感情を宿していた。

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