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15.愚者の帰還Ⅴ

 ギルド会館からの帰り道、僕はあの三人に出くわした。
 僕に町から出て行けと要求する三人に、僕はノーと断った。
 そうなれば当然、三人も黙っていない。
 武器を構えた三人に対して、僕も臨戦態勢をとった。
 迷宮から出て初の戦闘……その結果は、

「……」

「ふっ、やっぱり弱いな。君は」

 大敗だった。
 僕は何も出来ずに負けた。
 以前と変わらず、無様に敗北し土を舐めていた。
 僕は全身から血を流し、地べたに寝ていた。
 その様子を、少し離れた場所からアテナが見つめる。
 表情は穏やかで落ち着いていた。

「さて、君はどうするかな?」

 僕の身体から視線を外した戦士が、アテナに向って言う。
 他の二人もアテナの方を見て、誰も僕の方を見なくなった。

「大人しくしてくれたら、痛いことはしないよ。だから黙って―――」

「黙れゲスがっ。主ら如き低俗な輩が、童と対等に会話できると思うな」

 アテナは凄まじい眼光で言い放った。
 戦士はそれに気圧され、一歩下がる。
 しかし、

「どうやら口の利き方を知らないようだね」

 戦士は再び武器を構える。
 そして一歩ずつ近づいていく。
 そんな彼らに対して、アテナは笑う。

「何処を見ておるのじゃ? 童の眷属は、まだ負けてしかおらぬぞ?」

「何を―――!!」

 戦士は背後から気配を感じた。
 勢いよく振り向いた先に立っていたのは、もちろん彼だった。

「何故だ……何で生きてる!?」

 ありえない、ありえないぞ!
 あいつは確かに死んでいた。
 間違いなく殺したはずなんだ。
 それが何で、平然と二足で立っている?
 
 ここで戦士は、フランの身体を見てある事に気付く。

「傷が……無くなっている?」

 その身体には、刻まれていたはずの斬り傷が無くなっていた。
 それどころか流れていた血すら地面に無い。
 状況に追いつけない戦士は、ただただ唖然とするばかりだった。

「さぁ主よ、教えてやるが良い」

「うん」

 混乱したまま戦士が剣を構える。

「どうしました? 顔色が悪いですよ?」

 暗闇で顔なんてよく見えないのに、僕は煽るようにそう言った。
 戦士は声を震わせて答える。

「何で……まさかあれで死なないのか」

「いいえ、ちゃんと死にましたよ?」

「は?」

「要するに生き返ったんです」

 僕がそう言うと、戦士は大きな声で高笑いをした。

「ありえない! どうせ下らない手品か何かだ! わかったよ、こうなったら手品なんて使えないくらいバラバラにして―――」

「ごめんなさい。それは、今の貴方達には出来ませんよ」

 戦士達が膝を付いた。
 何かされたわけでも無い。
 急に身体が重くなったのだ。

「なっ、何だこれは……」

「さっき僕を殺した時、貴方達は全員僕に触れましたね? その時に使わせてもらったんです。僕のユニークスキルを」

「ユ、ユニークスキルだと!?」

「ギルドカードを見てください。貴方達に何が起こったのか……その答えがあります」

 戦士達は言われるがまま、懐やポケットからカードを取り出した。
 そして知ったのだ。
 自分のステータスが初期化されている事実を―――

「僕のスキル【零点回帰】は、あらゆる変化を無かった事に出来る。それを貴方達に使いました」

「っ!!」

「今の貴方達に、その剣を振るう力もその鎧で身を守る力も無い。何も出来ない……僕と同じで」

 僕は膝をついた戦士たちに近寄り、彼らに向けてこう言った。

「ようこそ―――どん底(僕の場所)へ」

 これが修行の成果だ。
 以前までの僕は、このスキルを自分に使うことさえ満足に出来なかった。
 でも今は、触れた相手に同じ効果を与える事ができる。
 それ以外にも、僕はアテナから複数のスキルを貰った。
 本来は新たなスキルを取得できない僕も、元女神であるアテナからの施しであれば可能だった。
 理由を訪ねると、

「主の場合、新しく与えられたスキルは消えてなくなる。じゃが、初めから主が保有していたスキルなら消える事は無い。もしくは、いずれ主が成長と共に得る予定だったスキルならのぅ」

 正直よく解らないけど、アテナが頑張ってくれたらしい事は伝わった。
 そういう訳で、今の僕は複数のスキルを所有している。
 だけど僕は、強くなれたわけじゃない。
 むしろ以前より弱くなった。

「主の長所は何じゃ?」

「長所? 僕にそんなものないと思うけど……」

「主よ? 長所とは何も良い部分だけではない。その者が持つ個性、他より突出している特性も長所じゃ」

 他より突出している特性……

「主の場合、その弱さこそが長所じゃ」

「弱さ?」

「そうじゃ。主は誰よりも弱い……じゃから誰よりも身近で弱さを感じ取れる。弱さを知り尽くすのじゃ」

 弱さを武器に戦う。
 僕が修行で学んだ事はそれだった。
 僕は弱い、誰よりも弱い生き物だ。
 この世界で誰も、僕の弱さにはたどり着けない。
 弱さこそが僕の才能だ。

「ふざけるな! 俺達がどれだけ努力したと思ってる! お前はそれを……」

 戦士は悔しそうに僕を見上げた。

「努力なら僕だってしてましたよ。いいじゃないですか? 僕と違って貴方達は、努力すればまた強く慣れるんですから」

「うぅ……」

 ここに来て一番の皮肉を言い放った。
 そして、

「今度は僕が言います。その武器と防具を捨てて、今すぐこの場から立ち去ってください。でなければ―――」

 僕はナイフを構えた。

「殺さないといけなくなる」

 戦士達は逃げ出した。
 形振り構わず、身包みを脱ぎ捨てて走り去っていた。
 その光景を見つめて居た僕は、どうしようもない虚しさを感じていた。

 はぁ……こんなのは勝利じゃない。
 結局、あれだけ修行しても僕は勝てないんだ。
 戦いになれば弱い僕は確実に負ける。
 僕が身につけたのは戦わない技術、方法だった。
 戦いにさえならなければ、僕の僕らしさが全面に出せる。
 だけど、やっぱり負けるのは良い気分じゃないな。

「帰ろうか」

「うむ」

 その場から立ち去る僕を、アテナは後ろから眺めていた。
 
 修業の末、主は変わった。
 自らの特性を理解し、長所を伸ばしてみせた。
 じゃがその代償に、主はより勝利から遠い存在になってしまったのぅ……
 加えて性格も多少歪んだのじゃ。
 強者を妬む気持ちが増し、より劣等感が強まった。
 その所為で、よー皮肉を口にするようになったのぅ。

「やれやれじゃ」

 こうして最弱の愚者は帰還した。
 

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