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128話 シルトは希少種?

 あたし達は大所帯で森の中を辺境伯領を目指して進んだ。
 食料とかは帝国軍や里の備蓄を失敬して来たので問題なかったわ。
 約一週間かけて、漸く迷宮街まであと少しの所まで辿り着いたのだけど、その間に帝国兵やエルフとも少しだけ打ち解けた気がする。いつまでもトゲトゲした空気っていうのも結構辛いしね。

 後は、心配なのがエルフと帝国兵との関係。でも意外な程にエルフは帝国兵を敵視していないみたい。正確に言うと、連行されている帝国兵達は殆どがレン君の師匠と関わりがある人達で、占領した後も陰ながらエルフを助けてあげてたみたい。
 その意味で、自分達が里に駐留出来たのは不幸中の幸いだって言ってたわ。そんな訳で、友好的とまではいかなくても、必要以上にいがみ合うような状況でもないかしら。

 逆に、エルフの視線が厳しい人達はきっとエルフに酷い事をしていたんだろう。うん、分かり易いわね。そういう人達ってみんな他の兵士よりいい装備をしている。つまりは貴族かそれに連なる人達って事。

「ところでシルト。もうここまで来ればそれ程魔物の警戒もしなくてもいいだろう。これだけ人数を連れていくのだから迷宮街に先触れを出したいんだ」

 休憩に入ってみんなで座ると、メッサーさんがそう言いながらチラリとアイギスを見る。視線を感じたアイギスはくりっとメッサーさんに向き直り、こてん、と小首を傾げる。
 うわぁ……可愛い! ごちそうさま♪

「そうですね。手紙を持たせましょうか。イングおにいかコルセアさん、それかセラフさんかアインさん?」
「ああ、その辺りで……いや、アインは迷宮内かも知れないしセラフもギルド業務があるだろう。インギーの所がいいんじゃないかな? コルセア女史かどちらかはいるだろう」
「そうですね。じゃあアイギス、メッサーさんが手紙を書いたらイングおにいの工房までお願いね?」
『うにゃ!』

 先触れはアイギスに任せれば問題ない。あたし達はメッサーさんが手紙を書き終えるのを待つ事にする。その間は雑談タイム。

「ところでさ、シルトってこの間不可視の刃(ステルスエッジ)の拳骨バージョン使っただろ? あれ、いつの間に習得したんだよ?」

 レン君が不思議そうに聞いてくる。

「そうそう、あれ、凄かったよねえ? 素手でやっちゃうなんてさあ。レン君だってかなり苦労したんじゃない?」

 お姉ちゃんまで? そんなに難しい事なのかな?

「あの、あれって実はイメージトレーニングの段階でできてたんだ。逆にモーニングスターに纏わせるのに苦労したかな?」

 イメージが大事って言うなら、自分の手とか脚とか、直接意識が繋がってる所の方が簡単なんじゃないの? みんなは違ってたのかな?

「いやまあ……イメージだけの話なら確かにそうなんだけどよ。そのイメージを魔力に反映させて、実際に纏わせるとなると魔法発動体があった方がいいんだよ。魔法使いが杖とか使ってるのはそういう理由があるんだぜ?」
「そうだね。元来魔法適性が高いエルフは別としても、メッサーさんクラスの熟練者じゃないと、素手で魔力を制御するのは難しいんだよ。もしかしてシルト、エルフ以上に魔法の才能があったのかもねえ……」

 お姉ちゃん。そんな残念そうに言わないでよお! あたしだって魔法使ってみたかったんだからね!

「やっぱりレンの言う通り、シルトは天才なのだと思います。シルトには魔法のスキルが無い上に属性も無属性、傍から見れば恵まれていない様にも思えますけど、逆にそれを強みにしてますよね」
「魔力操作に関してはレン君も天才的だよね。手刀で斬撃を飛ばして見せた時は感心したよ」
「それに関しては否定できないな。でも、これは推論なんだけど、勇者召喚されたヤツってみんな魔力操作は才能があるんだと思うよ」

 レン君曰く、何度も言っている通り魔法はイメージ力が大事だ。
 そのイメージ力に関して。異界で暮らしている人々は、こちらの世界の人とは比べ物にならないくらい詳細に物事をイメージ出来る、そういう世界で生きている。だからイメージ力がキモだ。そこに気付いた異界人は恐ろしく魔法の腕が上昇する。

「シルトは親父さんからイメージする才能を受け継ぎ、お母さんからエルフの莫大な魔力を受け継いだ。異界人と人間、エルフの混血なんてヤツは、おそらくこの世に二人といないだろうな。シルトは文字通り、天から才能を与えられた存在なのさ」

 ……そうね。レン君のいうように、きっとあたしは特異な存在。

「案外、魔王を倒す勇者というのはシルトの事かも知れないね」

 手紙を書き終えたメッサーさんが雑談に参加。えへへ、勇者かぁ~。みんなを守る勇者、そういうのになれたらいいな!

「でもレンの方が勇者らしいですけどね。うふふふ」

 むう、確かに。レン君って技も派手だし見た目もいいしね。それに比べてあたしは泥臭い戦い方だし。やっぱりただ珍しい血筋なだけの美少女なのかしら。

『うにゃん』

 そうこうしてるうちに、アイギスの出発準備が出来た。

「それじゃあアイギス、頼んだわよ? イングおにいにちゃんとご飯貰ってね? 気を付けてね?」
『なーお!』

 『大丈夫だよ!』と一声鳴いて、黒い疾風は森の木々の中へ消え去った。

*****

 迷宮街ギルド支所の一室。セラフとアイン小隊の四人。彼女達と向かい合って座っているのは五人のエルフ。

「ではエルフは全員が捕虜となっており監禁されていると。あなた方は帝国の命で森の哨戒任務に当たっている際にフォートレスの面々と戦闘になり、敗れたあなた方はメッセンジャーとしてこの街へと来るよう言われたということですね?」
「そうだ。その後連中は里に行くと言っていたが、それからどうなったかはわからん」

 丁寧な対応をしているセラフとは対照的に、エルフ達はやや尊大な態度に見える。だが、これでも先に救助したエルフよりはマシである。余程シルト達に敗れた件が効いているらしい。

「帝国兵はどの程度駐留しているのですか?」
「五百程だ。主戦派と思われる部隊は一部を残し帝国に帰還している。残っているのは手柄が足りない奴らと、あまり戦う気がない連中だ。戦いに消極的な連中は陰で我々によくしてくれていた」

 セラフはエルフ達の報告を聞いて暫し考え込む。

「アイン隊長、どう思います?」

 セラフに問われたアインも同じように考え込んでいたが、彼女が考えていたのはシルト達の事だ。

「うむ、あまりいい予感はしないな。情報収集を依頼したのだが、情報ならここにいるエルフの諸君から聞き出しただろう? その足で帰還しても依頼は十分達成したと言える。だが、さらに里に向かったとなれば……」

 まさかとは思うが、五百の敵軍に攻撃を仕掛けたか。そんな思いが頭をよぎる。そんな時、エルフの一人が口を開いた。

「そういえば、この街に逃げ延びた同胞がいるそうだな。そいつがどうやら無礼な態度を取っていたとかで非常にフォートレスが怒っていた。そいつに代わって謝罪と感謝を」
「ああ、それならもういいんですよ。とある所で厳しく躾けられていますので」
「躾?」

 セラフの言葉に首を傾げるエルフだが、彼女はそれに薄くほほ笑むだけで質問を返す。
 
「ところで、あなた方は今後どうされるのですか?」
「冒険者になってみようと思う」

 いささか予想外の答えに、セラフとアイン小隊の面々が驚きに目を見開いた。

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