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122話 兵たちの本音

 草叢から出て来たおじさんは、どうやら召喚されたばかりの頃のレン君に剣術を教えてくれた人らしい。
 白々と夜が明け始め、一人一人の表情も見えるようになってきている。

「おっさん、何やってんだよ、こんなトコで」

 レン君が、懐かしさと呆れが入り混じったような複雑な表情で問いかけた。

「ああ、いやな、バカな指揮官にバカな命令下されて、バカみたいに死んでいくのがまっぴらだったからな。トンズラしようと思って隠れてたんだがよ、そこの嬢ちゃんが気付いててな。逃げられなくて観念して出て来た。それに、お前の元気なツラを拝めて思い残す事も無くなった」

 へえ? あたしが気付いてた事に気付いてたんだ。この人、結構やるかも。

「いや、おっさん確か百人隊長だっただろ? 多少なりとも指揮権はあっただろうに」
「ふん。お前が無事に逃げたおかげでな、平兵士に格下げだ。俺の教育が悪いってよ」

 言葉はレン君への恨みごと。でもその表情は嬉しそうね。

「……そうか。済まなかったな」
「はん! お前が無事って事は、姫殿下を守り切ったんだろ? ならいい。少なからず、俺が教えた事が役に立ったって事だろうからな。さ、好きにしてくれ」

 おじさん、潔いというかお人好しと言うか、何だか憎めないんだけどね。そんな時、一人の帝国兵が声を上げた。

「隊長! なんで逃げなかったんだよ! 俺達はこのエルフ攻めがおかしいと分かっていながらも逆らえなっかた臆病者だけど、あんたは違っただろ! あんたさえ生きていれば、あんたを慕ってるヤツはいくらでもいるんだ。あんたなら帝国の歪みを正せるかも知れねえ! それに降格したのだって……!」

 ん~。ちょっとツッコミ要素がいくつかあったわよね、今の話。

「ねえ、レン君。今の話、結構重要な分岐ポイントになりそうな情報があったと思うんだけど。フラグを立てるかへし折るか」
「そうですね、レン。私もそう思います」
「シルト、お前、思考やセリフが時折異界人っぽいのはやっぱり親父さんの知識が……まあいいや。なあ、今の人、もう少し詳しく教えてくれよ」

 レン君もやはり気になるのだろう。元隊長さんに向かって訴えかけていた兵士に話し掛けに行った。

「……隊長はあんたと姫殿下が逃げた後、エルフ攻めを決定したお偉いさんに異議を唱えたんだよ。国内で魔王に備えて勇者召喚を行うだけならまだしも、周辺の諸勢力を攻めるのは良くねえってな。その結果が降格と今回のエルフ攻めへの強制参加、そして国に戻る事は許されずエルフの里に駐屯だ。あんたが逃げたから降格された訳じゃねえよ。それに姫殿下が逃げたのはそもそも隊長には何の関わりもない事だ」

 当の元隊長さんは(俺はもう隊長じゃねえって言ってんだろ……)とかぶつぶつ言ってる。

「それに、俺達だって皇帝陛下がおかしい事くらい分かってるのさ。いくら出奔したとは言え、姫殿下を賞金首にするとか正気の沙汰じゃねえだろ? 皇帝陛下自身に後ろめたい事がある事くらい予想出来る」

 別の兵士が更に言う。

「今回のエルフ攻めに積極的だった連中は、今頃国に戻って手柄自慢をしている頃さ。こっちに残ってんのは、手柄とエルフの女が欲しい指揮を執ってたバカ貴族のボンボンとその取り巻き。それから隊長に従ってた厄介者の俺達だな。隊長はな、自分がこの戦いに参加する事でエルフの被害を少しでも少なくしようと陰でいろいろやってたんだよ」

 ふ~ん? あの押し込められていたエルフ達の扱いはともかく、生き残りが多いのはこの元隊長さんのおかげなのかしら?

「中には嫌々従わされてた奴らもいるって事か。今回の戦闘で消極的だったのはおっさんの元配下か?」
「そうだな。俺たちがここで頑張っても、評価されるのは後ろでくたばってる指揮官と取り巻きだけだし元々やる気もねえ。自分の大事なモンを守る戦いでもねえ。ここでやられて正直ホッとしてるくらいだぜ」

 話を聞き終えたレン君が、腕組みをして少しの間考える。でも、悩んでいるって感じじゃないわね。

「おーい、おっさん! あんた、自分の元部下、しっかり引率できるか?」
「あ? ああ、そりゃまあな」

 元隊長さんに向かって問いかけ、その答えに満足したように頷いたレン君は、さっきまで考えていたであろう事柄を指示として飛ばし始めた。

「じゃあおっさん、元部下と信用出来るヤツ、そうでないヤツ、分けてくれよ。それからヒメ、全員にヒール掛けてくれるか?」
「え? 全員ですか?」
「ああ、全員だ。ただし、メッサーさん達が来てからな」
「はい、分かりました!」

 そのやり取りを聞いていた兵士達がヒメを見て騒めきだした。

《おい! あれ、姫殿下じゃねえのか?》
《ああ、髪、ばっさり切ってかなり凛々しくなっていらっしゃるが間違いねえ!》
《おお、無事だったんだな……》
《よかった~……姫殿下こそ、本当に帝国の行く末を憂いていたお方だったからな》

「皆さんお静まり下さい! 帝国より逃亡した皇女は賞金首となり、逃亡の末魔物との戦いで果てました! 私はただの冒険者! エルフの里を害したあなた方を討ち果たすべく、そして帝国の非道を正す為に戦う冒険者です! これからあなた方を拘束し、王国へ連行します。然るべき裁きはそれまで保留としますが、どうか皆さん、それまで騒ぎなど起こさぬ様、切に希望します」

 おお……ヒメが姫だ……
 今の演説でね、帝国兵の多くが跪いて礼を取ってるの。怪我で起き上がれない人もいるけど、隣の人が支えてあげたりしてさ。結構いい光景。
 それと少数だけど、苦々しい顔をしてるのがいるわね。今この瞬間に振り分けは済んだんじゃないかしら? すごいカリスマ。

「どうやらヒメが分岐を……フラグを立てたみたいだな」

 横に来てレン君が言う。

「これはこの兵達を取り込んで、レジスタンスでも結成する流れかしらね?」
「辺境伯領に戻って、領主と話し合わなきゃならねえだろうけどな。でもこの兵達はヒメの意思とは関係なく従って来るような気はするな」
「そっか……でも取り敢えずは帝国に対抗する為の力を確保できそうだし、当初の目的の第一歩は踏み出せたんじゃない?」
「そうだな。お前らのおかげだよ。あの時シルトが現れて、俺達を助けてくれた。そこから俺達の運命は好転し始めた。ありがとな」

 ふふっ。帝国兵に関してはまあ大丈夫かな。
 あとはさらに厄介なエルフ達の問題ね。さあ、もう一仕事。
 

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