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78話 街道とはいえ森の中

「領都に戻られたら、ギルマスにこの手紙を届けていただけますか?」

 翌日、ギルド支所に集合したあたし達に、セラフさんが手紙を差し出して来た。帝国から発布されている手配書の件で、ヒメとレン君を狙ったりする輩が出ない様に便宜を図るよう依頼する内容みたい。
 そうよね。事情を知らない冒険者や賞金稼ぎが手配書を鵜呑みにして襲撃とかして来たらあたしとしては返り討ちにするしかないじゃない?
 ……本来は、街や領民が平和に暮らせるように頑張ってる冒険者の人達を手にかけたくはないもんね。

「承った。辺境伯閣下のお屋敷に行く途中だしな。先にギルドへ渡しておくよ」

 メッサーさんがセラフさんから手紙を受け取ると、マジックポーチにしまい込む。

 それでね、メッサーさんが、やけにお肌がつやつやしているの。それとは対照的に、げっそりしているイングおにい。昨晩何かあったのかな? 
 そして男性冒険者が殺気を込めてイングおにいを見てる。う~む……

「シルト。デリケートな問題だから触れてはダメだよ? ボク達には関係のない話さ。ふっ……」

 お姉ちゃんは何故だか遠い目。ヒメとレン君は……赤くなってる?

 アイギスは右手をぺろぺろ、顔をごしごし。偉いわよ。身だしなみは大事ね! なんだかよく分からないけど、アイギスが可愛いから他の事がどうでも良くなっちゃった。

「さて、そろそろ行こうか。もう先触れも到着しているだろう」

 アインさん達はいつもの三人。そしてあたし達は五人と一匹。さらに女性の比率が上がってレン君がさらに肩身が狭そうね!

 昨夜のドラ肉大会の面子とイングおにいに見送られ、迷宮街の街門を出る。
 森を切り開いて整備された街道は、物資の運搬で頻繁に馬車や荷車が通行するため道幅も広く辺境の割には立派なものだ。それでも領都の街に辿り着くには道中で一泊しなければならない。

「なるほど。結構距離があるんだな。いくら駆逐したとは言っても魔物が全く出ない訳じゃないんだろ? 途中に二か所くらい宿屋でもあれば繁盛するんじゃないのか?」

 おお~、レン君てやっぱりバカじゃないのね! あたし達の常識だと野営するのが当たり前なのに。途中に宿とか盲点だったわ!

「レン君、君のその案、父上に提案しても良いだろうか? もちろん、魔物の出る森に宿がぽつんと一軒有っても枕を高くして眠れる程安心な訳ではないので簡単には行かないだろうが……」

 レン君の発言にアインさんがものすごく興味を示した。領主様に提案するほどの画期的アイディアって事?

「そうだね。現在は迷宮から湧き出る魔物は冒険者が間引きしている。なので、そのうちこの森にもビースト系の魔物が増えてくる事になるだろう。宿の防衛という問題はクリアしなければならないだろうね」

 メッサーさんが言っているのはつまり、今までは迷宮から出てきた魔族系の魔物が、いわゆるビースト系と言われる魔物を狩っていた。それが、冒険者がこぞって迷宮の魔物を討伐しているので、ビースト系の魔物は天敵がいなくなって数を増やすと。
 それがこの街道に出没してきたら、確かに宿の営業なんて危なくてやっていられないかも。
 ……なんだかね、みんなレン君の発案に意見を出し合って盛り上がってるんだけど、ちょっと踏み込めない領域まで話が飛躍しちゃってあたし蚊帳の外? みたいな事になってきてるよ。
 いやね? 街道の途中に宿があれば便利なのは分かるのよ? でもそうなった時の問題点とか言われても分からないよ。経営がどうとか、収支がどうとか、みんなよくそんな話が出来るなぁ。

 そんな寂しい思いをしながら歩いていると、あたしに寄り添う様にしていたアイギスが音も立てずに森の中へと走り去って行く。

「えっ!? アイギス? ちょっと! どうしたのよアイギス!」

 ドラゴン素材の装備に付与された各種エンチャントの恩恵をフル活用し、アイギスを追いかける。

「アイギスーー!!」

 猫科特有のしなやかな走りは、いかに身体強化したあたしでも追い付けるものではない。しかも、もしアイギスが獲物を見つけたとしたら、物音一つ立てずに気配を消しているだろう。この状況で頼りになるのはあたしの魔力視だけだ。

 必死に目を凝らして魔力反応を探すあたしがアイギスを見つけられたのは、魔力反応ではなく奇声を拾った自分の聴覚だったのは皮肉。

《グギャーーー!!》
《ガオオオオオーーーー!!》

 アイギスは戦っていた。相手はゴブリンの群れ。ここにいるゴブリンは迷宮から溢れた者ではなく野生の奴かしらね。いつもは可愛らしい鳴き声のアイギスが、獰猛な叫び声をあげて威嚇している。

 ………威嚇?

 あたしはアイギスの元へと走る。戦うのならその機動力を生かして縦横無尽に動き回るのではないだろうか? それが一か所に留まり相手を近付けないように威嚇している?

「アイギス!」
『にゃっ!』

 ちらりとこちらに視線を向けて一声鳴く。

「そう……だから威嚇してたの。偉いね、アイギスは!」

 アイギスの背後には若い女性が二人、ボロボロになった姿で放心状態。アイギスはこの二人を守る為に走ったのね。

「よーし、アイギス! この二人には指一本触れさせないから存分にやっちゃいなさい!」
『に”ゃーお”』

 よしよし、やる気満々ね! 後ろの二人には戦闘が終わるまで大人しくして貰いたいから、悪いけど治療は後回し! まずはこいつらを片付けてからね! やるよ、アイギス!

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