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76話 二人とドラ肉の処遇

「はぁ……厄介事はあまり歓迎したくはないのですが……」
「同感だね。でも予め準備していたところに降りかかる厄介事と、突然降りかかる予期せぬ厄介事、どちらがお好みかというお話さ」
「どちらにしても厄介事は確定路線なんですね……わかりました」
「済まないね。権力者の耳に入れる前に是非君の意見を聞いておきたかったんだ」

 ……というメッサーさんとセラフさんのやり取りの後、あくまでも偶然入手した情報という建前で、帝国が行っている非道な勇者召喚の実態とその危険性が説明された。
 もちろん情報の提供元は、帝国から亡命してきたということにしている(・・・・)冒険者志望のレン君とヒメ。
 
 そしてもう一つ、迷宮最下層のボス、邪龍の肉を食べる事による能力アップの件。

「……正直、どこから驚いたらいいのか分からないくらいには混乱しています」

 セラフさんは、眉間をモミモミしながらそう前置きして言った。
 彼女の個人的な見解ではあるけれど、帝国の勇者召喚の件はすぐさま領主様にお知らせした方がよいそうだ。幸い、騎士団のアインさんは領主様の娘だし、この迷宮街に駐留している。繋ぐ事はできるだろう。
 何しろ、帝国が事を起こせば、国境を接するこの辺境伯領が真っ先に戦火に見舞われてしまう。領主様も無視できないだろうって。

「レンさんにヒメさん。命懸けで情報をもたらしていただいた事に感謝致します」

 セラフさんの言葉に微笑み返すヒメとレン君だけど、それって、自分達が賞金首だって認めてる事になるんじゃないかなってことは突っ込まないでおこう。

 話が一段落したところでセラフさんが呼び鈴を鳴らすと、ギルド職員のお姉さんが入って来た。そのお姉さんにアインさんを呼んで来るように指示を出すと、セラフさんがみんなにお茶を入れてくれた。

「あなたはこれでいいかしら?」

 大き目のお皿にミルクを注いでアイギスにも。

『うにゃ』

「ありがとうって言ってるみたいですね。」

 嬉しそうに鳴いた後、ぴちゃぴちゃとミルクを舐めるアイギスが可愛い。

「それで、ドラゴン肉でしたか。いかにドラゴンの肉と言えども、食べるだけで能力が上がるという話は聞いた事がありません。迷宮のドラゴンが特別なのかも知れませんね。それにしても、この子がドラゴンの肉を食べただけでオーガを倒してしまうとは……」

 本日、二つ目の重要な議題。セラフさん、アイギスを見て絶句。当のアイギスはミルクに夢中。

「ですが、このドラゴンの肉の話は内密にしていた方が良いかも知れません。信頼の置ける方々のみに知らせるに留めておく事をお勧めします。いずれ、邪龍を討伐出来るパーティが現れれば話は広まるでしょうが」

 そうかぁ。それなら、肉に関しては今決めてしまおう。

「ねえメッサーさん、イングおにいとコルセアさん、最初期からいる攻略組パーティ、それにアインさん達三人、そしてセラフさんとセラフさんが推薦する人って事でどうです?」

「うむ、いいんじゃないかな。それでそのメンバーに振舞ってしまおう。幸い肉は多少減ってはいるが邪龍二頭分あるからね。セラフ、今夜今言ったメンバーを集めてくれるかな?」

「私もいいのですか?」

 予想外の大盤振る舞いに、セラフさんがオドオドしてる。キレるとすっごく怖いのにね。

「もちろんさ。但し、肉の効能を開示するのはこちらに任せて貰うがね」

 ああ、なるほど! お肉を振舞って強くするアシストはするけど、強くなった原因についてはすっとぼけるって訳ね!
 そして、お姉ちゃんがメッサーさんにある提案を持ち掛ける。

「ああそうだ! メッサーさん、今夜はお肉持ってイングヴェイ工房でしっぽり過ごしたらどうかな? こっちのドラ肉大会はボク達に任せてさ!」

 そうね。新婚さんなのにまだ数日しか一緒に過ごしてないもんね。お姉ちゃんたら気が利くんだから。

「……済まないがそうさせて貰うよ。さすがに新妻が夫をほったらかし過ぎてはな」

 その時扉がノックされ、外から声が掛けられた。さっきの職員さんかな?

《アインさんをお連れしました》

「有難う。入って貰って下さい」

 セラフさんの許可を待つようにしてアインさんが入室して来た。

「やあみんな。戻って早々厄介事かい? あ、新顔もいるようだね。私はこの領の騎士団所属のアインと言う。この迷宮街の派遣部隊の責任者になっているんだ。宜しく頼むよ」

 何と言うか、上官っぷりが板についたというか貫禄が付いたというか。以前のアインさんより余裕があるように見えるなぁ。迷宮で鍛えた自分の実力が、自信に繋がってるのかな?

 初顔合わせのアインさんとレン君、ヒメが自己紹介を済ませるとアインさんが面白くてたまらないと言った表情で口を開いた。

「レン君とヒメさんは、どうも手配書の二人に似ているようだが……仲良くお茶をしている所を見ると、父上に引き渡す為に私が呼ばれた訳では無いようだな?」
「まあ、似たようなものかも知れないが。閣下のお耳に入れておかねばならない情報があるのでね。アイン隊長には至急閣下へ繋ぎを取って欲しいのさ」

 メッサーさんの表情が厳しい。情報を領主様にあげるのはいい。でも二人の身柄が安全とは限らないもんね。でもそこにセラフさんが緊張をほぐす一言を入れてくれた。

「メッサーさんの心配も分かりますが、領主様なら大丈夫でしょう。誰よりもこの領地を大切に思っていらっしゃるお方です。その領地に有益な情報を命懸けで持ち込んだお二人を無碍に扱うなどあり得ないと思いますよ?」
「そうか。ならばドラゴン肉を土産に持って行ってみようか。」

 そう言ってメッサーさんは笑った。

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