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58話 過ぎた時間は巻き戻せないけど

 ラーヴァさんがあたしのお姉ちゃん。状況証拠から見てもほぼ間違いないだろう。そしてこの妙なところで親切設計な迷宮。
 これを作ったのがあたし達姉妹のお母さんであるかもしれない。だとしたら、なぜ危険を冒してまで迷宮を作ったのだろうか。そしてあたしの本当のお父さんは何者なのだろうか?

 かなり衝撃の事実が明らかになって、そして新たな謎が浮上。正直今日はお腹いっぱいかなぁ。

「済まないな、シルト。お前には聞かせない方が良かったかも知れん。ハウルさんの事はショックだっただろう?」

 イングおにいにそんな事を言われた。でもあたしにはピンと来ない。

 ……そっか。実は、お父さんが本当のお父さんじゃなかったってところは、悲しむところなのかな? でもなー。

「血が繋がってないとか、そんなに重要かな? お父さんはお父さんだよ。凄く愛してくれてたし、あたしも大好きだった。血が繋がってなくても、お父さんはちゃんとあたしのお父さんだった。その事実は消えないでしょ? それにイングおにい。あたしには今日お姉ちゃんが出来たんだよ。その事が嬉しいよ!」

 一年以上も同じパーティで寝食を共にしていた、メッサーさんとラーヴァさんの事は本当の姉の様に思っている。そしたらラーヴァさんは本当のお姉ちゃんだった。これは本当に嬉しい。でも喜んでいるのはあたしだけじゃなかった。

「あの子の忘れ形見がもう一人……」

 とコルセアさんも感無量。

「そうか……お前、強くなったな。ハウルさんも安心してるだろうぜ。それと、お袋さんもな」
「うん!」

 その晩、あたし達は語り明かした。エルフの里の事。お母さんの事。ラーヴァさんの幼い頃の事。お父さんの事。メッサーさんが知るハウルお父さんの事。イングおにいが暴露したあたしの幼い頃のエピソード。
 決して楽しい思い出ばかりでは無かったけれど、ある意味話題に出す事をためらっていた事も曝け出すことで、より絆が深まった気がする。
 ――例えば、メッサーさんとイングおにいが昔恋人同士だったとか!

「ふふ、昔の事さ。私も❘初心《うぶ》だったからね。この男は誰にでも親身になるから、独占欲の強い女には向いていないのさ。もっと大人で広い心を持てたなら違った結末だっただろうが……」
 
 おおぅ、まさかのイングおにいがモテていた!? しかもメッサーさんみたいな巨乳美人に!

「今もまだ、大人の広い心は持てないのか?」

 おや? おやおや? 雲行きが面白い事に!?

「えっ……?」

 ドキドキ……

「ほらほら、シルト、行くよ! 今日は姉妹水入らずで過ごそう! コルセアさんもご一緒にどうです?」
「あらあら、うふふふ。そうですね、私もそちらにご一緒しましょうか」
「え? え? ちょっと!? 今イングおにいとメッサーさんがおもしr……」

《ゴン!》
 ――ズルズルズルズル……

 あたしはラーヴァお姉ちゃんにドナドナされて行きましたとさ……

*****

 まったくあいつらと来たら……特にシルトは。

 ともあれ、せっかく気を使ってもらったんだ。ここで踏み出さなきゃ男じゃねえよな。

「ずっと……お前だけだったんだ。俺は鍛冶仕事しか能がねえ不器用モンだからな。1級冒険者になって離れていったお前に笑われないように、腐らずに仕事に打ち込んだ。お前が戻って来て、俺も1級鍛冶師になってようやく追い付いたと思ったら、お前は程無くして特級になりやがった。俺には届かねえ女なのかも知れねえ。そう思った事もある」

 そんな俺の言葉に、メッサーは無言で俯いている。
「……」

 それでも、耳には届いてるだろ。俺は続けた。

「でもよ、俺はまだお前に何も言っちゃいねえ。お前の口からも何も聞いちゃいねえ。俺の中じゃまだ何も始まってねえし、終わってもいねえ」
「……インギー?」

 俺は一呼吸おいて、まっすぐにメッサーのブルーの瞳を見据えた。

「俺と……結婚してくれないか?」

「私は……私はあなたを捨て、ハウルさんのパーティを捨てた女だ。今更あなたの愛に応える資格など……それに私は❘根無し草《ぼうけんしゃ》。工房を構えて腰を落ち着けるあなたと共に暮らす事など……むぐっ!?」

 ……本心が聞きたい。本心から俺を拒むのか。それとも取り巻く環境が、俺と共に歩む事を許さないから受け入れないのか。
 俺は強硬手段に出た。本心から俺を拒むなら、俺はこいつに切り刻まれるだろう。あーだこーだと理由を繰り出すメッサーの唇を塞ぐ。俺の唇で。柔らかな感触から伝わるのは強張り。しかしそれも一瞬。徐々に力が抜けて……

「バカ……不意打ちは卑怯だ。私だってあなたが嫌いで離れたんじゃないんだ」

 そう言って、無理やりに唇を引き離したメッサーは、頬を桜色に染めながら、顔を逸らして俯いた。

「本当に、私でいいのだろうか? 私はあなたの妻としてより冒険者の立場を優先してしまう……」

 分かってんだよ、んな事は。

「初めてお前と会ったのは、ハウルさんが装備の見積もりでお前を連れて来た時だったよな。今のシルトくらいだったか。その時は、もうお前は一端の腕利き冒険者だったよな。つまり俺は冒険者のお前しか知らないし、冒険者のお前に惚れたんだ。冒険者だからってのは、俺の心を折る理由にはならねえぞ?」
「インギー……」
「少し、待っててくれ」

 俺は、奥の部屋から装飾した小箱を持ってきた。昔の俺が作った物。
 技術は拙く、出来栄えも今見れば恥ずかしいレベルだ。だが想いの全てを詰め込んだ渾身の作品なのは間違いない。

「これは、お前に渡そうとして作ったモンだ。結局渡せず仕舞いだったがな。開けてみてくれ」

 恐る恐る小箱を開いたメッサーが目にしたのは、魔石を細かい粒子状に砕いたものを、ミスリルに練り込んで作った指輪。色んな種類の色の魔石を使っているので、見る角度によって輝き方が違う。今の俺ならもっといいモン作れただろうが、当時の熱い想いが変わっていない事を伝えたい。

「綺麗だな……これを私のために?」
「ああ」
「この指輪……本当に私でいいのかい?」
「お前がいい」

 今度はメッサーから唇を重ねて来た。捨て身のプロポーズ、受け入れてもらえたみたいだ。

「よろしくお願いします。インギー……」

 少しばかり遠回りしちまったが、なに、これから取り返してやるさ。

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