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56話 語られる真実(前編)

 衝撃槌鉾(インパクト・メイス)。それが、第九階層ボスのギガンテスが使っていた武器。全長百五十センチメートルはあろうかと言うメイスは、普通の人間が使うには長く、重い。身長四メートルはあろうかという、巨体のギガンテスならばこその武器だ。
 その重量故に、使いこなせば強烈な破壊力を手にする事が出来るけど、このメイスの真骨頂はそこじゃない。

「このメイスは、打ち込んだ衝撃が表面を突き抜け体内で炸裂する。これの前では防御力は無意味。どんな防具を着けていても関係ねえ。まあ、実際やりあったお前なら分かってんだろうがな」

 これがイングおにいが鑑定した時の言葉。
 実際あたしは、このメイスの一撃をアブソーバーで受けたのにも関わらず、左腕を粉々に破壊されたの。アブソーバーは全くの無傷なのによ? リセットで事なきを得たけど、普通の冒険者じゃ詰んでたと思う。

「ああ。新しい装備にはいろんな所にホルダーがある。武器も複数携帯出来るし、状況によって使い分けられるだろ。攻撃重視ならインパクトメイス、タンクに専念ならモーニングスターってな」

 生まれ変わったアブソーバーの内側には、複数のホルダーが付いていて、ショートソードやモーニングスターなどを引っ掛けられるようになっていた。さすがにインパクトメイスは無理だけどね。でも、ありがとう、イングおにい。物凄く使い勝手が良くなってるよ。

「あとはジャケット、パンツ、ブーツには、それぞれコルセアさんが迷宮装備を溶かし込んで魔法効果をエンチャントしてある。詳しくはコルセアさん、頼む」
「はい。では説明しますね……」

 説明をイングおにいから引き継がれたコルセアさんなんだけど、なんか凄かった。
 今まで、指輪や腕輪を装備してブーストしていた能力が、ジャケットやブーツ、パンツに付与されてたの。視力、腕力、脚力、反射速度、体力回復。
 中には、今装備している魔法具と効果が重複するものもあるけど、だからと言って効果が二倍にはならないので、装備品は外しておくようにとの事。余計に魔力を消費するだけみたいね。例えばあたしの足甲。脚力上昇の効果が重複しているのでこの装備は外して保管する事に。

「これはサービスだ」

 さらに、ドラゴン素材のグローブを差し出してくれたイングおにい。なんだか主要装備が凄すぎて麻痺してるけど、ドラゴン素材の物がサービスとか頭おかしいレベルよね。

「コルセアさん」

 今までずっと、難しい顔で説明を聞いていたラーヴァさんが口を開いた。

「あなたはボクと同族じゃないのかな?」

 ラーヴァさんは、そう言いながらオークキングの革帽子を脱ぎ、長く尖った耳を出した。

「別にヒューマンを見下すわけじゃないけど、貴方の錬金術は人間にしては素晴らしすぎる」
「……」

 そんなラーヴァさんの指摘に、ミステリアスな笑みを浮かべたまま沈黙するコルセアさん。

「そしてこのお茶。これに入っているハーブはエルフが好んで使うんだけど、ヒューマンは殆ど使わない」

 確かに、このお茶は今までに出会った事のない、さわやかな香りが鼻を突き抜ける。

「ふう……やっぱりバレちゃったか。ハーブでバレるなんて迂闊だったわね。ラーヴァさん。貴方の言う通り、私はエルフ。昔、里を追放された親友の足取りを追って里を出たの。でもこの森で足取りが途絶えちゃって。仕方ないからこの辺境伯領で錬金術師として生計を立てていたのよ」

 ん? 里を追放されたエルフってどこかで聞いたような……

「まさか、その追放された親友って……」
「そう、ラーヴァさん。貴方の母親よ」

 なんと! これはビックリ!

「コルセアさん! ボクの母さんはどこ!?」
「……ごめんなさい」

 掴みかからんばかりの勢いで、コルセアさんを問い詰めるラーヴァさん。だけど、コルセアさんはその答えを持っていなかった。
 暫くの間、沈黙が支配した。重苦しい空気の中、誰も言葉を発する事が出来ないでいる。

「ラーヴァさん。貴方はエルフを憎んでいるでしょう? だから私は認識阻害の魔法で外見を偽り、陰ながら貴方を助けて行こうと思ったの」

 ぽつりぽつりと話し出したコルセアさん。自分を責めるような、そんな思いが籠ったような瞳の色。

「こんなものは自己満足だと言うのは分かっているの。でも親友の娘が目の前に現れたら…ごめんなさいね。貴方のお母さんを助けてあげられなくて……ごめんなさい……ごめんなさい……」
「ボクはエルフが憎いです。ボクを不義で生まれた子だと決めつけ、母さんを追い出しボクを迫害した。あんな里は滅べばいい。エルフなんて種族は消えてしまえばいい」

 親友が追放されるのを助けられず、親友を追って里を出た結果、その娘が里で迫害されるのも助けてやれなかった。今コルセアさんを包んでいるのは後悔ばかりなんだろうな。

「ラーヴァさん。貴方のお母さんは不義なんて働いてはいないわ。貴方の能力がエルフとしては異端なのは血筋のせい。貴方のお母さんはハーフエルフなの」

「え!? 母さんがハーフエルフ?」

 またまた衝撃の事実発覚!? もうあたしの頭では理解が……

「そう。貴方のおじい様、つまり、長老がヒューマンの女性との間に産ませたのが貴方のお母さんなの。貴方のお祖母様はヒューマンで剣士、魔法属性は火。そう聞いているわ」

 剣士で火魔法……ラーヴァさんと一緒だ……

「……つまり、長老、いや、あの❘爺《じじい》は、自分の仕出かした事を全て娘に押し付けて、挙句の果てに追放したって事ですか?」
「……そういう事になるかしらね。だから私も、エルフという種族には嫌悪感しか抱けない」

 ラーヴァさんから怒りとか憎悪とか、そういう負の感情が溢れ出して来るのが分かる。あたしの魔力視のスキルが❘視て《・・》しまう。漏れ出した魔力に負の感情が乗ってどす黒い色になっているのを。

「ラーヴァさん、落ち着きましょう?」
「ああ……ごめんねシルト。もう少しで爆発してしまいそうだったよ。えへへ……」

 話を聞く限りでは、あたしもエルフは好きになれないかなぁ……イングおにいもメッサーさんも苦い顔をしている。

「ラーヴァさん、貴方の魔法鞄、少し見せて貰っていいかしら?」
「……」

 唐突だった。コルセアさんが魔法鞄を見たいと。ラーヴァさんはコルセアさんに無言で手渡した。

「やっぱりね。これは貴方のお母さんの作品よ。そしてシルトさん。貴方の持っている迷宮産の魔法鞄、それも恐らくは」

 えっ!? という事は……どういう事!?

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