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38話 特訓

 ヒュンヒュンヒュンヒュンヒュンヒュンヒュンヒュン……
 スタンスタンスタンスタンスタンスタンスタンスタン……

「そんなんじゃダメだダメだ! もっと早く!」

 ヒュヒュヒュヒュヒュヒュヒュヒュヒュヒュヒュヒュ!
 スタタスタタスタタスタタスタタスタタスタタスタタ!

 な、縄跳びがこんなにキツイなんて……はぁ、はぁ……

「おーし、休憩……はい、休憩終わり! 次はあそこの岩までダッシュ十本ね。んじゃ、いくぞ。ハイ!」

 え……と、休憩って一分くらい? 休憩なのこれ? 走るの? 走れるのかあたし!? 心臓バクハツしませんか⁉

「オラオラ、フットワーク覚えようって奴が両足べったり地面にくっつけてどーすんだ!? 体重は爪先に掛けろ! 足を止めるな!」
「ひ、ひぃぃぃ!」

 ス、スパルタすぎる……
 メッサーさんの知り合いだっていう冒険者のおじさん。彼にフットワークの基本をご教授願おうって事になったんだけど、顔は優しそうなのにすんごい厳しいのよ。
 

「どうした、シルトちゃん。もうギブアップか? 命懸けでオークキングとやり合う方が楽だったか?」

 ……ッ!!
 そうだ。凄く苦しいけどこれは所詮訓練! 死ぬほどの事じゃない!!

「ま、まだまだ行けますよぉ……」
「よ~っし! よく言った! じゃあもう少し速く行くからしっかり避けろよ⁉」
「は、はぃ~⁉」

*****

 体中打ち身や傷だらけになりながら、地面に大の字に横たわり荒い呼吸を整える。
 タンクとしてのあたしのもう一つの可能性『ドッジ・タンク』。今までスキルと魔法具、防具に頼り切った戦い方だったあたしとは、まるで正反対のスタイルなのでまずは基礎訓練から始まった。
 反射神経強化の腕輪も脚力強化の足甲も使わない、生の身体能力だけでやらなきゃ意味がない。今まで使ってこなかった筋肉が悲鳴を上げている。

「も、もう一回だよメッサーさん!」

 大地に横たわったままふと視線を横に向けると、メッサーさんの風魔法を吸魔の剣で斬ろうとしているラーヴァさんがいた。

「風魔法の攻撃って、不可視なのに斬れるのかな……?」

 あたしの疑問を証明するかのように、ラーヴァさんは傷だらけになっている。ラーヴァさんも頑張ってるんだな。むしろラーヴァさんの方が命懸けだよね!?

「で、出来たぁ‼」

 うわぁ、ホントに斬っちゃったよラーヴァさん。
 音とか、魔力の密度とか、そういうのを読み切らないと、見えないモノは斬れないよね? 凄いなあ……よーし。あたしも負けてらんないわ!

「おじさん! もう一本!」
「おお? そーかそーか。じゃあ今度は二人掛かりで行くからな! 避けろよ?」
「うそ~ん!?」

 ・
 ・・
 ・・・
 ・・・・
 ・・・・・
 
「はぁ、ひぃ、ふぅ……」
「いいか、シルトちゃん。シルトちゃんは『魔力視』のスキルがあるんだろ? そのせいかどうか知らねえが、目に頼りすぎてんだ。もっと殺気を感じ取れ」

「え~っと?」

《ポカッ》

 いたっ! なんで!?

「考えるな。感じろ」
「はいっ! ありがとうございました!! ぺこり」

《ポカッ》

 またっ!?

「相手から目を離すな」

 う~ん……目に頼りすぎって言ってたような?

「ありがとうございました!! じぃ~っ」
「よしっ! よく頑張ったな! ご褒美にこれあげよう!」

 わぁ~い! 飴ちゃんもらったよ!

「シルトも終わったのかい?」

 あ、メッサーさんにラーヴァさん。ラーヴァさん、見事にボロボロだなぁ。あたしもだけど。

「ラーヴァさん、治療(・・)しましょうよ!」

 あまりに酷い有様のラーヴァさんを見て、リセットを掛けてあげるあたし。

「ああ、ありがとう、シルト。ボク、メッサーさんがあんなに鬼畜な人だとは思わなかったなぁ。にしし」
「フッ。私の魔法を『斬りたい』などと言われてはね」

 ああ、二人とも結構プライドが高いと言うか、誇り高いと言うか。いや、単なる負けず嫌いかな?

「それでも、まさか一日で『見えない攻撃』を斬ってしまうとは思わなかったよ。脱帽だ」
「いやぁ、メッサーさんが、攻撃を見るんじゃなくて魔力を『感じる』方向に導いてくれたからだよ! あんな緻密な魔力制御はボクには無理!!」

 そして二人ともちゃんと相手を認めてる。あたしも取り残されない様に頑張らないと!

 ラーヴァさんだけじゃなくて、あたし自身にもリセットを掛けたあと、あたし達はベースキャンプに戻った。すると、作業員のおじさん達がこっちを見て手を振っている。どうしたのかな?

「おおーい! 嬢ちゃんたち! 迷宮攻略隊用の施設が完成したんだ。見てくれねえか?」

 作業員のおじさん達に請われて見に行ってみると、おお!ちょっとした宿屋みたいな感じね!

「ここは一応ギルドの出張所って扱いになるらしい。ギルドの方で準備が出来れば職員が常駐して運営するだろうぜ」

 おじさんの一人がそう説明してくれた。
 中に入ってみると、受付カウンターや食堂、厨房もあるし個室がいくつかある。へえ、お風呂やお手洗いもあるのね。二階は完全に居住スペースになっていて、廊下を挟んで両側に部屋が並んでいる。一部屋にベッドが六つ。うわぁ! ベッドだよ!
 
「一パーティが一部屋使う感じなんだね」
 
 なるほど。メッサーさんの言う通り、一パーティって多くても六人編成だもんね。でも男女一緒?

「野営の時は男女に拘っていられないからね」

 へえ。そんなもんなのかぁ。

「あ、フォートレスの皆さんお疲れ様です。早速今日から使われますか?」

 二階から一階に戻ると、カウンターの中に綺麗な女の人がいた。あれ? いつもの受付嬢のお姉さんだよ!

「私がこの出張所の職員として常駐する事になりました。セラフと申します。名乗るのは初めてですよね? 改めて宜しくお願い致します」
「こちらこそ、宜しく頼むよ。それで、職員はセラフさんだけなのかい?」
「いえ、私が先発で来ていますが、あと二人程来る予定です。それで、ご希望のお部屋はありますか?」
「いや、特にはないが……」
「ではこちらがカギです。一番奥の左側のお部屋になります」
「ありがとう。早速休ませていただくよ」

 部屋に入って装備類にもリセットを掛ける。損耗したままだと命取りだもんね! そして三人でお風呂だ。きっちり男女に別れてて安心安心。

「ふわぁ~。久しぶりのお風呂。気持ちいい~~」
「むっ! シルト! キミはいつの間に!」

 ラーヴァさんから厳しい視線が!?

「浮かんでいるじゃないか!!」
「「おお~……」」
  
 シルトはちょっとだけ大人になったの。

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