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第26話

 花火大会が終わり、家に戻った二人は……その夜、肌を重ねた。

 今まで伝えきれなかった――言葉では伝えきることができない想いを伝えるかのように、澄人ははるを求め……はるは澄人を受け入れた。

 そして、外が薄明るくなった頃。二人は澄人のベッドで、互いの体温を感じながら横になり、余韻に浸っていた。

「……ねえ、はる」

 ふと、澄人が口を開く。

「なんですか……?」
「僕……久重重工の技術短期大学に、入ろうと思うんだ」

 正式名称は、久重社立技術短期大学。数年前に設立された短大で、入学できれば将来は大手企業である久重重工に就職できるということで、人気の大学だ。しかし、

「でも、あそこは、入学難易度が……」

 はるの言う通り、そこに入るのは簡単なことではない。しかも、そこの入試を受けるのは、皆、遺伝子操作で才能を与えられた者ばかり。仮に入学できたとしても、その短大の勉強についていかなければならない。

 けれども彼に不安の色はなく、笑顔を見せた。

「うん、知っている。だけど……そこに入学すれば、今度新設されるってニュースサイトに載っていた――久重重工のアーティナル・レイスの研究開発部に、入れるかもしれないから。それで……仕事ができるくらいになれば、はるにもし何かあった時でも、僕が治してあげられると思うし……」
「澄人さん……」

 そう。澄人は、はるのために短大へ行くと言っているのだ。

 アーティナル・レイスは機械ではあるが、その体は永遠ではない。人間が老化していくように、彼等も老朽化していく。

 アーティナル・レイスがこの先どれだけ、この世界に存在し続けるかはわからないが、十年……二十年……四十年……時が経てば経つほど、古くなったタイプの製造は終わっていき、部品の入手は不可能に近づいていく。

 特に、はるの体に使われている部品の一部――人工頭脳の核となっている部分は、製造から既に十年以上が経っている。将来――そこに不具合が生じ、代替えの基盤などが入手できない状況になってしまえば、彼女は機能停止――死を迎えることになってしまうだろう。

「僕は、はるといつまでも一緒にいたい……側にいてほしいんだ! だから……」

 はるの手を澄人はギュッと握った。

――澄人さん、そこまで考えてくれているなんて……。

 再会したばかりの頃。澄人の心は、すぐにでも崩れてしまいそうなくらいに弱々しかった。すべてに責められ、すべてに怯え、すべてを信じられず……孤独の中で震えているだけだった。

 けれど今の彼は違った。あの日から半年と経っていないが、決意に満ちた目で将来を見ている。

「じゃあ、澄人さんが入試に合格できるように、勉強を手伝わせてください」
「手伝うって……勉強を教えてくれるってこと?」
「はい。澄人さんが、わたしとずっと一緒にいてくれるために、がんばってくれるのなら……わたしも、そのお手伝いがしたいんです」
「ありがとう、はる。僕……一生懸命勉強して……必ず短大に入るよ。君のために……」
「……澄人さん」

 澄人とはるは、軽くキスをし……抱きしめ合うと、二人はそのまま眠りに落ちた。


 それから澄人は、今まで以上に勉強に取り組んだ。

 はるも、澄人の先生となって勉強を教え、彼が悩んだり間違えたりした部分は、わかりやすく説明をし……時には模擬テストを作成する等もした。

 そのかいあって、澄人の成績はみるみる上がっていき、デザイナーベビーとして生まれた他の者達に負けないくらいの成績を出すようになった。

 そして、C.BF0052年の一月中旬……十八歳となった彼は、短大の入試を受け、翌月
――二月の上旬……ついに合格発表の日を迎えることとなった。

「…………」

 午前九時数分前。澄人とはるはリビングのソファーに座り、タブレット端末の画面を凝視していた。九時ちょうどに、短大から合否判定がメールで送られてくるからだ。

「澄人さん、もうすぐですね」
「う、うん……」
「大丈夫ですよ。澄人さんは絶対に合格しています」

 澄人の手をはるは握りながら言った。

 そして……九時ちょうどになった時、タブレット端末からピロリッと音が鳴った。

「き、きた!」

 彼はタブレット端末でメールを開き、その内容に目を通していく。

「どうですか……?」
「ご……合格している! 合格しているよ!」
「おめでとうございます、澄人さん」
「ははは! やったよ、はる! これもはるのおかげだよ!」

 澄人は笑いながら、はるに抱きついた。

「す、澄人さん……」

 突然のことに、はるは顔を赤くした。

「ありがとう! 本当に、ありがとう!!」
「いいえ。合格できたのは、澄人さんが諦めずにがんばったからですよ」
「ううん。はるが勉強を教えてくれたからだよ!」

 澄人は抱きしめていた腕を緩ませ、彼女の顔を見つめた。

「……それでさ、はる。こんなこと言うの、まだ早いかもしれないんだけど……」
「はい?」
「短大を卒業したら、たぶん県外にある職場に就職することになると思う。その時になったら、僕についてきてほしい。そして……一緒に暮らそう!」
「この家を出るということですか?」
「家賃とか……光熱費とか……いろいろお金はかかると思うけど、僕、一生懸命働くから。絶対にはるのこと、幸せするから!」
「っ……」

 幸せにするという澄人の言葉に、はるの心はこれまでにないくらい、温かなものに包まれた。

「はい、澄人さん。わたし、これからも澄人さんと一緒に暮らして……あなたと、幸せになりたいです」
「はる……大好きだ!」

 そして、澄人は再びはるを抱きしめた。

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