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25話 迷宮対策

 森は広く暗い。ギルドから提供された地図も全域を網羅している訳ではなく、あくまでも『分かっている範囲』でしかない。今回の依頼はその『分かっている範囲』の中に迷宮が出現しているかどうかの調査だ。

「亜人タイプの魔物が多いですね。しかも奥へ進むに従って上位種が増えてるし」

 ここが地図になっている(・・・・・)エリアの中では最後の未調査区域だ。このエリアに無ければ更に森の地図を拡大する為の作業が必要となってくると思うけど、エンカウント率の高さと敵の手強さを考えると大規模な護衛部隊を引き連れた上でのマッピングが必要になる筈だ。そこはギルドと領主の判断になるってメッサーさんが言ってた。

 でもあたしは確信している。迷宮はある。魔物が纏う魔力が段々と濃くなっているのがあたしには視える。それがそう思う根拠。

「あれか……」
 
 前方を見据えてメッサーさんが呟く。土手の法面に穴が空いている。そこから地下に向かって緩やかに傾斜しているようだ。

「少し隠れて様子を見よう」

 メッサーさんの指示で、岩陰から迷宮へと続いているであろう穴を監視していると、出るわ出るわ。所謂魔族タイプの魔物達が。

「戻って報告しよう。下手をすると国が動く問題になり得る」

 ここで潰しておかなければ。そんな思いも過ぎるが、迷宮というものがどういったものかも分からないまま突っ込むよりは、情報を持ち帰る方が重要で有益な事はあたしでも分かった。
 結局、今は一刻も早くギルドに戻るべきだとの判断を下し、なるべく魔物との戦闘を控えて帰路につく事にした。

「魔物の氾濫の原因は迷宮にあり、か」

 メッサーさんがそう呟いた。過去の魔物の氾濫は迷宮が原因ではなかったのだろうか? 氾濫の後、この森の調査は行われなかったのだろうか? 色々な疑問が頭の中に湧いて来る。

「何にせよ、全てはギルドに戻って報告してからですよね!」

 まあ、あたしの頭で難しい事を考えても結論なんて出やしないもんね。難しい事は頭のいい人達に任せよう!

「そうそう、報酬貰ったら美味しいものを沢山食べたいよ! 保存食にも飽きちゃったし」

 ……とラーヴァさんは言うけど、あたし達のパーティーはラーヴァさんの魔法鞄のおかげで食料事情は良好なのよね。鞄の中には出来たての料理が大量に保管されてるし。

 そんな出来立てで美味しい『保存食』を食べながら二日間掛けて街に戻る。屋台に行きたがるラーヴァさんを引き摺って最優先でギルドに直行ね!

*****

「……そうか。やはりあったか」

 受付嬢さんに調査結果の報告をしたい旨を言うとすぐにギルマスの執務室へと通された。そこでメッサーさんからの報告を聞いたケーニヒさんはため息混じりの苦渋の表情で言った。

「迷宮の方は国が動く案件になるだろうな。安全を考えれば潰してしまいたいが、魔物の素材や魔石は国を潤す」
「でも、現在進行形で魔物が湧きだしているんです! しかも上位種だって多い! また街が襲われたら父さんみたいな人が……」

 あたしは父さんの最期を思い出し感情的になってしまった。ここに戻るまでにだってかなりの数の魔物を目撃しているし。

「分かってるさ、シルト。領主様には魔物駆除に軍を駆り出してもらうつもりだ。冒険者も3級以上の奴らには討伐依頼を優先的に受けて貰う」

 そんなあたしを宥めるように、ケーニヒさんが優しく諭すように言う。

「それについて少し提案があるんだがいいかな?」

 メッサーさん、何か妙案でもあるのかな?

*****

「冒険者ギルドのギルドマスター、ケーニヒ様がお見えになりました」
「うむ、入れ」

 シェンカー辺境伯邸。ケーニヒは迷宮発見の報告の為に無骨な屋敷を訪れている。貴族らしからぬ質実剛健という言葉がピッタリな造りの屋敷の主は、その屋敷に住まうのにこれまたピッタリな外見をしている。
 華美な装飾を極力控えた、悪く言えば地味な服装。しかし生地は上等なものが使われ、機能を追求したデザインはシンプルだが美しい。上下藍色に染め上げられた衣服は貴族と言うよりは上級将校といった風情だ。
 それを着こなす本人もまた、引き締まった体躯に精悍な顔つき。髪にはやや白いものが目立つようになってきたが、それでも年齢よりは若く見えるだろう。
 
「閣下。例の森の件で報告が」
「うむ、聞こう」

 ケーニヒに閣下と呼ばれたこの男がミハエル・シェンカー辺境伯である。
 魔物が蔓延る辺境に領地を持ち、隣国とは国境を巡って常に緊張状態にある。そんな領地を治めるのは、怠惰で、肥え太った貴族では役不足である事は想像に難くない。そしてそれを見事にこなしているのがこの辺境伯だ。

「は。2級パーティー『フォートレス』の調査結果がこちらの資料になります」
「ふむ、最近売り出し中の娘三人のパーティーか」

 そう言いながらケーニヒから差し出された資料を受け取り目を通す辺境伯。

「……これは隣国にばかり気を取られている訳にもいかんか。冒険者だけでは目先の対処しか出来まい」
「は。迷宮の調査にはそれなりの高ランク冒険者が必要でしょうし、現在も魔物はあふれ出ています。調査と駆除、そして防衛。これらを全て冒険者で賄うには人手が足りません」

 辺境伯は、ケーニヒから一通りの報告を聞くとひとつ頷いた。

「であろうな。軍を動かすしかなかろう。王都にも使者を出し援軍を請うか」

 さすがに迷宮が領地付近に出現したとなると、辺境伯も役割の線引きに拘っている場合ではないと判断したようだ。いつもならば戦争は軍人、魔物討伐は冒険者、と役割分担をはっきりさせている人物だ。もちろん街に危害が及ぶ場合はその限りではないが。

「閣下。もし軍からのご助力が頂けるのならば提案がございます」
「……聞こう」

 ケーニヒの言葉に辺境伯が興味を持った。好機とばかりにケーニヒが口を開く。

「は。迷宮に至るまでのルートを構築する事。これにはルートを作るにあたって付近の魔物の掃討が必要でしょう」

 一つ目の提案は、平たく言えば、領都からシルト達が発見した迷宮入り口まで続く街道を敷設したいという事だ。これに辺境伯は無言で続きを促した。

「そして迷宮の入り口付近に拠点を構築。これは迷宮の調査に掛かる期間が未知数の為、冒険者の装備や食料等の補給の為の施設とお考え下さい。これらが出来てしまえば上手くいけば迷宮都市まで成長させる事が出来るかも知れません」
「なるほど。迷宮までの街道敷設は許可する。軍からも護衛と討伐に援軍を出す。迷宮都市計画は面白いな。再度資料を纏めて提出せよ」
「は。迷宮調査は進めても構いませんか?」
「うむ。腕利きを潜らせて外に出て来る魔物を止めるのが優先だがな。内部構造などは後回しでよい」
「承知致しました。ではこれで失礼致します」

 出て行くケーニヒを目で追いながらザックはこの先に待っている面倒を思い顔を顰める。

「冒険者や兵の消耗は激しくなるだろうな。人だけではなく装備、魔石や鉱石、食料、薬……集めねばならんか。可能な限りの支援はせねばなるまい」

 そう独り言ちたあと、辺境伯は執事に命じて関係各所に召集をかけるよう命じたのだった。


 

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