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営業妨害と、その対処法

 入社早々に怒濤の二日間だったが、その後は大きな事件も起きずに日々が過ぎて行った。

 この世界では、田本の考案した新田暦(ニッタゴヨミ)が広く使われている。
 異世界日本では古い暦で用いられた皇紀が年号として使われ、初代帝の産まれた年が元年。
 また月日は昼と夜の長さが同じになる春分の日を1月1日に、あとは30日31日が交互にやってくる。12月だけ特殊で、閏年だけ31日で、あとの年は30日。
 それにしても異世界に出てくる特に西洋の暦は、何であんなに複雑怪奇極まりないのだろう。2月が28日とか、意味が解らない。

 話が反れたが、この国では1月1日を初入社や入学式の日に選ぶ所が多く、大体一ヶ月くらいになると環境に馴染めず"二月病"なる心の病を患う人が多い。ボクの会社には幸いいなかったけど。

 そして更に時は流れ、今日は皇紀2678年2月30日。入社からちょうど六十日が経過した事になる。
 今日も平和に一日が終われば良いなあと思っていたのだが、わが社の事務所に押し掛けた三人組の男達に、それは破られる事になる。

 二人は作業服で揃いの名札、恐らく同じ会社の人間だろう。
 そしてもう一人はその二人とは違って、まるで昔の大名を思わせる紺の肩衣(カタギヌ)に同色の半袴(ハンバカマ)(カミシモ)
 この格好をする人は公事師(コウジシ)、企業間や民間の間に立って揉め事を解消する専門の職業だ。
 異世界日本に出てくる弁護士とか、総会屋が近いのかな?それとも探偵?便利屋?経営指南(コンサルティング)?……ううむ、どれもしっくりこない。

 というかあの公事師の顔、確か何処かで見覚えがあるような気がするんだよね。

「何の御用で伺ったか、お分かりですね?」
「解りません、お帰り下さい」

 公事師の言葉に、工場長は 膠鰾(にべ)もない。

「流石に我々の事はご存じですね?ご存じでなければ同業者として悲しいですが」

 あの名札、カシコモではないな。とすると……

「ええ、その一度見たら忘れられない気持ち悪いロゴ、携行奴隷工房(ケドコ)さんですね」

 工場長が吐き捨てるように言う。

「き、気持ち悪いとは失礼だな!」
「まあまあ部長さん、こういう場では先に怒った方が負けでして」

 ケドコの部長らしき男を、公事師がなだめる。

「ユーユーの工場長さんも、余り挑発的は発言は控えて下さいな」
「いけないいけない、私とした事がつい熱くなってしまいましたわ」

 たしなめる公事師に、工場長はペロリと舌を出す。

「何しろ私ごときの小娘相手に、貴方みたいな有名公事師が呼ばれるなんて思いませんでしたので。著書も拝読しておりますし、後でサインも下さいな、亜鉛坂蒼鉛(アエンザカソウエン)さん」

 そうだ思い出した、亜鉛坂蒼鉛!
 その深い知識で報道番組や情報番組、娯楽番組と幅広く平舞台(異世界で言うテレビ)に出ている公事師だ。

「サインぐらいならお安いご用ですが、先に仕事を片付けてしまいましょう」
「そ、そうでしたわね」

 ここまでの工場長の行動が計算なのか素なのか、段々分からなくなってきた。

「実は今回お伺いしたのは、御社で今度出される新製品の遊精の事でして」
「あら、それについてはまだ公式発表もこれからなのですけど」
「ですから、公にして問題になる前に、こうしてご相談に伺った次第です」
「ほうほう、我々が発表すると問題になると」
「ええそうでしょう、何しろその商品の技術は此処にいるケドコさんから盗んだ物ですからな」

 な、何を言い出すんだこの公事師!
 あの案はユーさんが考えて!!

「あはは、なかなか面白い冗談をおっしゃる。我々が盗んだ証拠でも?」

 工場長は、一笑に付したが

「こちらがその証拠品ですが」

 社外秘の筈の"成長する遊精"の資料と、その資料をケドコの事務所から盗み出そうとする黒い影の写真が。

「これは、まあ良く作りましたねえ」

 苦笑する工場長だったが、

「とぼけるな!わが社から資料を盗み出しておいてまだ、シラをきるというのか」

 部長らしき男が憤慨する。

「そうです!この案は元々"僕が考えた物"だったんです!」

 それまで、無言だった男の一人が、そう口を開く。
 何を言い出すんだ、考えたのはお前じゃなくてユーさんだろ!とボクは飛び出したくなったが。

「ふーん、嘘は言ってない目ね」

 工場長は、とんでもない事を言い出した。

「そっ、そうだとも!彼は本当の事を言っている、となればやはりユーユーが盗み……」
「あら、嘘は言ってない目、とは言ったけど本当の事を言ってるとは認めてないわよ」

 工場長は、おかしな事を言い出した。何ですか、その謎かけみたいなの。

「知ってるかしら、本当を混ぜれば嘘ってバレにくいものだって。
 それに……
ーー(カワウソ)

 工場長の最後の言葉に、部長と好事師がビクリと反応した。
 カワウソ?

「本人も嘘をついた自覚のなくなる神具、なんてのがあるらしいわね。
 例えば盗んだ技術を自分で考えたと教えられ、そう思い込むみたいな」
「し、知らんぞそんな物」
「じゃあ、試しに神具ごと消してみましょうか。うちには、その筋のエキスパートがいるんですが?」

「きゅ、急用を思い出した!私は失礼するよ」
「ちょ、ちょっと亜鉛坂さん!我々だけでどうしろと」

 退席しようとする公事師を、部長と呼ばれた男が引き止めようとするが、

「あらあら、仲間割れなら外でやって下さいな。お帰りは、あちらです」

「お、覚えてやがれ!」

 そう捨て台詞を残して部長と他2名は帰って行ったのだった。

 全く、人騒がせな。そして化かし合いは、うちの工場長が一枚上手だったようだ。

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