新入社員歓迎会・前編
「それにしても」
事が一段落した状態を見て、工場長がつぶやく。
「鉄ちゃん。今回の事件、誰が首謀者と見る?」
「今ぱっと思いつくのは2つ。同業他社がらみと、反遊精派がらみでしょうね」
「まぁ私達の会社に恨み持ってそうな所だと、その辺りよねぇ」
ブリキと工場長はそう議論し合った後、そのまま黙り込んだ。
そしてユーさんは狐につままれたような顔になった。
「ええと。記憶喪失で、この世界の事もよく分かってないユーさんに説明するとね……」
ボクがそう助け舟を出そうとすると、
「おっと、面白そうな事が起きてると聞いたがもう終わってしまったようじゃな?」
「せっかく来たのに残念デス」
突然現れた初老の男性と大柄な白肌の外国人に、話の腰を折られた格好になった。この二人は……
「あれ銀さん、それにシロガネさん。今日は非番だったですよね?」
ボクは二人にそう声をかける。
「まぁ休みだったがワシら二人共、寮におったからな?」
そう口をロマンスグレーに眼鏡の老人、彼が銀さんだ。
「親切ナ遊精霊さん達が状況説明してクレタので駆けつけたのデスガ……一足遅かったようデスネ」
言葉を続ける大柄女性が、シロガネさん。
小柄ばかりのこの会社の女性社員に対して彼女の体の大きさは別格で、もっとも小さいスズちゃんと並べばまるで親子、いや、下手をすれば倍近い身長差があった。
「親切な遊精って……あっ、そう言えば遊精たちを見かけないと思ったら」
「主君の危機と思い呼びに行ったのだが……余計な真似であったか?」
ブリキの相棒である遊精ステンが、申し訳なさそうに物陰から顔を出す。
「そう言う節介は、正直好きじゃない」
「主君の性格であれば、そうであろうな……罰ならいくらでも」
「阿呆う。折角来てもらったんだ、後片付けとか色々手伝ってもらえばいい。良いですかね、二人共?」
「もとより手伝うつもりじゃったし、ワシはそれで構わんが?」
「同じく異論ないデース」
「主君っ!」
苦労が無駄ではなかったことに、ステンは嬉しそうに声をあげた。
「自分の遊精には何だかんだで甘いで御座るな、ブリキ殿は」
僕の相棒である遊精のジュラがそう言う。うん、同感だね。
「それ以前に現場がこれでは、今日の作業はもう無理ね」
工場長が、爆発やら荒らされた跡やらを見てそう告げる。
「お昼まで皆で片付けをして、午後からは全員休みということにしましょう」
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「で、片付けが終わったら新入社員の歓迎会、って私は言ったはずなんだけど」
不満げに口を開く工場長。わざわざ念を押して全員に声をかけたつもりだったが、全社員には一人足りない。
「あいつが、こういう類の集まりに留まるわけなかろう。知らぬうちに帰ったわい」
そう言って銀さんが笑う。足りない社員は当然、あのブリキであった。
「ええ、分かってはいましたけど。ほんっとに薄情よね、あの人。
次この手の類の会合すっぽかしたら、減俸にしようかしら?」
「いやぁ、テツは多分それやっても来ないと思うべな」
不満げな工場長に、ナマリさんがそう言葉を被せる。
「まあ良いわ。とりあえずアルミちゃんと、ユーちゃんの入社を祝って、乾杯!」
工場長の音頭に、かんぱーい!という全員の声、そして拍手が湧き上がった。
「それじゃ一人づつ自己紹介してもらおうかな。
アルミちゃんはもう皆のことは知ってるだろうから、主にユーちゃんのために」