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遅刻回避と、突き刺さる人

 ボク、有村有海(ありむらゆみ)は自慢の”愛車”で町中を疾走している。
 口調はボクだが、一応女性だ。
 このボクっ子口調については……ええと、説明すると長くなるよ?また今度ね。
 
 後頭部を綺麗に刈り上げ、両耳の上の方で後方に跳ねたクセ毛のショートカット、自分で言うのも変だが小柄であどけなさの残る容姿は、まだセーラー服が似合いそうな高校生ぐらいに良く間違われる。
 でもそんなボクはもう成人しており大学も卒業して、今日から新入社員としての初仕事であった。

「なあジュラ、まだ出勤時間には間に合いそうかい?」

 ボクは”相棒”にそう尋ねる。
 実はその……新社員になった初日に早速、遅刻しかけているために急いでいる。
 そして焦っている。

 ボクの傍らを寄り添う様に飛んでいる”相棒”は、人の姿をした羽根の生えた、妖精的な何か。
 この世界の世間一般では”浮遊精霊(フユウセイレイ)”、略して”遊精(ユウセイ)”と呼ばれている人造の”機器”だ。
 ボクがよく読む異世界日本の物品で説明するならこの遊精、飛行する機器であるドローンと携帯端末機器であるスマートフォンを組み合わせて、人の形にして会話が出来る様にしたと言えば理解しやすいか。

「拙者が先程から最短経路を案内している故、数分ほど余裕が有るで御座(ござ)る」

 古びた口調で遊精ジュラが、主人であるボクにそう答える。その格好は御座る口調が似合いそうな丁髷(チョンマゲ)に素浪人風の着物で、腰には刀を挿していた。
 
「そしてユミ殿、その垣根を超えた先を左で御座る」
「あいよっ!」

 相棒ジュラの合図で、ボクは両足を乗せている”愛車”である板状の乗り物を傾ける。
 その見た目は、これも異世界日本の物品で言うならスケートボードに近い。
 ただし車輪はなく、物理法則を無視してボクの身長以上の高さで宙に浮いていた。この乗り物はこの世界で”滑空板(カックウバン)”、略して”(バン)”と呼ばれている。
 
 ちなみに”板”にしろ”遊精”にしろボクだけが特別という訳ではなくて、この世界の”この国出身の”若者ならごくごく普通に所有し使いこなしている道具である。
 ボクの遊精は訳ありの旧型かつ高性能で(父親の形見分けで、ボクの趣味で手を加えてはある)、また"板"にも手を加えてあり、小回りが利き速度も出るという、少々既製品と違う個性はあるけども。

 ジュラは出勤の遅刻を免れるため家の屋根の上や塀の上といった、本来の道路を無視した経路を提示し、ボクも慣れた板の操縦で器用に進む。

「そもそもユミ殿が夜更かしせねば、もっと余裕のある時間に起床出来たで御座ろうに。
 深夜の異世界時代劇なぞ、食い入るように見ておらねば」
「いや、それはムリな相談だからね?」

 ジュラの苦言を、ボクはあっさりと受け流す。

「だって史実では海を渡って、初代の米利加(コメリカ)大統領に上り詰めたあの(・・)織田信長が、部下の裏切りでその辺の寺で命を落とすんだよ?
 内容的にヤバイからって深夜枠になったらしいけど、あんなに面白い内容なら夕方に放送して欲しいモンだ」

 ボクは興奮気味に、異世界時代劇の内容を反芻する。
 三度の飯より、という表現が大袈裟でないくらいに、ボクはこのジャンルの作品が大好きであった。ちなみに他に好きな異世界時代劇作品は、これも深夜枠だが幕末に坂本龍馬が暗殺される話。
 史実では竜馬は那古野(なごや)に幕府が出来る前の戦国に生まれており、九州四国の武将に琉球王朝や台湾の権力者も巻き込んで、一大連立国家を形成するに至る。
 また北海道と樺太に千島列島を含めた一帯にも、アイヌの血筋と国を追放された徳川家の末裔が国を興す。

 ボクが今住んでいる国、その名前は”田本(たっぽん)”。
 国の領土は上述以外の日本地域で本州全土と、佐渡島に淡路島、伊豆諸島及び小笠原諸島。

 この国で産まれた者なら誰もが、前述の板や遊精といった”神具(しんぐ)”を扱うことが出来る”能力”を持つ。
 国の政治的なトップである総理大臣より、さらに一段上の地位にいる現人神である(みかど)。宇宙規模のエネルギーを持つと言われる彼ら一族と神具、そして使用者との霊的な回路が接続されることで、初めて神具が使用可能となる。
 田本出身者なら産まれながらにして備わっているこの接続能力であるが、逆に他国からの移住者はこの霊的な回路をつなぐ”許可”と”修行”が必要になってくる。
 何よりこの神具との接続能力こそが、かつて大航海時代で田本が世界の覇者となり、また二度の世界大戦で勝者となった所以でもあった。

 この田本では、異世界日本で言うところの電化製品もすべて全て神具であり、ボクが愛してやまない異世界時代劇も、異世界日本で言うテレビとインターネットを組み合わせたような神具”平舞台(ヒラブタイ)”にて視聴しているわけだが。
 
「ユミ殿、そもそも平舞台を録画するという選択肢は無かったで御座るか?」
「ないね、ああいう面白いモノは生で見るからイイの。鮮度が命なんだよ」
「そういう物で御座るか」
「そういう物でござるよ!」

 自分でも無茶苦茶な理屈だと思うが強いボクの口調に、ジュラは押し切られた。

「むっ。ユミ殿、前方で人が刺さってるでござる」
「へっ、どゆコト?ジュラ」

 ボクは最初ジュラの言っている言葉の意味が分からなかったが、

「ってああ、そういうコト(・・・・・・)ね」

 実物を見て納得した。
 ”人”がまるで根菜のように、頭から地面に突き刺さっていたのだ。

 そしてこの中年男性との出会いがボクと、ボクの会社の運命を大きく変えることになったのだった。

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