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第11話

 ファッションショップで購入する服を決めて、それを購入してすぐ。

 澄人は「そ、それで……ど、どうせなら買った服を着て、帰ってみない……?」とはるに言った。

 彼女は、もちろんそうすることにした。

 この服を着ることで、彼が笑ってくれるのであれば――そんな彼を見ることができるのであれば、そうしない理由はない。

 はるは電子マネーで代金を支払った後、最初に試着した服を着ると、他に買った服と一緒に紙袋へ入れた。

「あ、紙袋、ぼ、僕が持つよ」
「ありがとうございます」

 はるはニッコリと笑うと、紙袋を澄人に渡した。

 機械の体である彼女は、服が入った紙袋程度を重いと感じることはない。なので断って自分で持つこともできたのだが、そうしなかったのはもちろん理由があってのことだ。

 澄人が持つと言ってきたのは、おそらく自分を信頼してほしいという表れ。もし断れば、あなたを信頼していませんと言っているようなもの。そんなことをすれば、彼の心を傷つけてしまう。はるはそう思ったのだ。

「重くありませんか?」
「こ、これくらいなら僕でも平気だよ」

 紙袋を渡された澄人は、それを両手で持ち、笑顔で答えた。


 ファッションショップを出た二人は、出入り口に向かって歩き始めた。

 夕方ということもあって、昼よりも人が多くなっている上、今は手を繋いでいないため、はるは澄人のことが少々心配だったが、ファッションショップで服選びをしてからずっと、彼の口角は上がったままだ。

「……。……」

 歩いている最中、澄人は横目でチラチラとはるを見る。そのことに、彼女は気がついた。

 何か言いたいことがあるのだろうか? また手を繋いでほしいのだろうか? そう思ったはるは、澄人に聞いてみることにした。

「澄人さん。どうかしましたか?」
「えっ、あ、その……よ、よかったらなんだけど……夕飯、食べていかない?」
「いいですよ。今日は食べて帰りましょう」
「本当!?」
「はい。どこへ食べに行きますか?」
「え? え、えっと……」

 キョロキョロと、ショッピングモール内の飲食店に目を向ける澄人。どうやらまだ決まっていないようだ。

「澄人さん。あそこに案内図がありますから、あれを見ながら考えましょう」
「そ、そうだね!」

 はるが指差した案内図の方へ、駆け足で行く澄人。

 そして二人の距離が、五メートルほど離れた――その時だった。

「あれ? お前……柳原か?」
「え…………」

 左方向から聞こえた若い男の声に、澄人は足を止めて向いた。

 そこには高校の学生服を着た三人組。彼等を目にした途端、澄人の顔から笑顔が消え、青くなっていく。

「やっぱりそうか。久しぶりだなぁ! 元気にしていたか? 失敗作」

 中央の――背の高い男はそう言うと、澄人の肩に右腕を回し、他の二人も背中や頭を手の平で何度か叩いた。

「心配していたんだぜ? 引きこもりになったって聞いていたからよ」
「ホントホント。けど、こうして外に出てるってことは、もう大丈夫みたいだな」
「せっかくだから何かおごってくれよ。再会祝いってことでさ。買い物にきているってことは、金持ってんだろ?」
「ぃゃ……ぼ、ぼく……」
「おいおい。小学一年から仲良くしてやってる俺達の頼みを、まさか断ったりしねぇよな……?」

 右腕を回している男の拳が握られる。

「……」

――この三人が、澄人さんをいじめていた人達……。

 はるは怯えている澄人と、三人の会話からそう判断した。

 おそらく、澄人の背中についていた傷跡は彼等がつけたもの。仮にそうでないとしても、小学一年生の頃から澄人にいじめ行為を行っていたのは、まず間違いないだろう。

「…………」

 はるの中に、怒りの感情が込み上げてくる。

――せっかく澄人さんが笑っていたのに……。

――まだ楽しい時間が続くはずだったのに……。

 だが、それでも冷静さを失っていない彼女は、まずは三人から名前を聞き出すことにした。

「……あなた方はどなたですか?」
「ん?」

 三人は、はるの方を向くと、「「「お~……!」」」と声を漏らした。

「おい、失敗作。この子はお前の知り合いか?」
「そ、その子は……ち、ちが……だだ、だめ……は、はる、に、にげ……て……」

 澄人は涙目で、ガタガタと体を震わせながらそう言ったが、当然はるは澄人を置いて逃げることはしない。

「ってことは、知り合いか。へへ」

 右腕を回していた背の高い男は、隣にいる短髪の男に「こいつの腕、つかんどけ」と言うと、はるに近寄った。

「初めまして。俺は広瀬学(ひろせまなぶ)。んで、ちょっと髪染めているそっちのやつは青山シンジ。あいつの腕掴んでんのが、寺田隆太(てらだりゅうた)」
「広瀬学さんと青山シンジさんと寺田隆太さん……ですね?」
「そうそう。それで、君の名前は?」
「……はるです」
「へぇ~、はるちゃんか。かわいい名前だね。それで、君はあいつの何? 友達? まさか彼女とか?」
「わたしは澄人さんのお世話をさせていただいている、ヒューマノイドです」
「えっ、ヒューマノイド? 君が? 人間じゃないの?」

 広瀬が目を丸くさせていると、青山が「そういや」と口を開いた。

「前にニュースサイトで、似たようなのを見たことあるぜ。確かアーティナル・レイスって書いてあった」

 それを聞いた寺田も「俺も見た見た」と喋り始めた。

「作業用のロボットみたいなやつと、人間に近いタイプが写真に映ってた。それにこの間、先行量産型が一部の企業限定だけど販売されたってニュースも出てたな。あと噂だけど……女性型は性処理ができるように作られているって話だぜ?」
「ほ~ぅ……」

 寺田の言葉を聞き、広瀬はニヤリと笑うと、はるの体を舐めるかのように――視線を下から上へと動かした。

「……おい失敗作。こいつ、俺達によこせ」
「え、えぇ……っ!?」
「どうせ、アンドロイド作っているパパとママから、タダでもらったもんなんだろ? 親には友達にあげたって言え。そうすりゃ、もう一体くらいもらえるだろ?」
「だ、だ……だめ……だ」
「あん?」

 広瀬は再び澄人に近づくと、澄人の胸ぐらを掴んだ。

「お前、俺達に逆らうのか?」
「い、いや……」
「なら、素直に渡せよ」
「で……でき、ない……」
「あぁ?」
「はるは……モノじゃ、ないから……あ、あげること、な、なんて……で、で、でき、でき、ない……。そそ、それに、は、はるは……ぼ、ぼ、僕の……とと、と、友達だから……わた、わた、せない……」
「っぷ、はははは! こいつ、このロボットが友達だってよ!」
「そっかそっか~。だから今日は、友達のロボットちゃんのメイド服を買いにきたんだな。そんで家でこれを着せて、『ご主人様~♡ 今日はどんなご奉仕が良いですか~?』って言わせるわけか? うひゃひゃひゃ! オタクくせぇ~!!」

 いつの間にか、青山が紙袋からメイド服を引っ張り出し、両手で広げていた。

「……おい、失敗作。もう一度――今度はわかりやすく言ってやるから、よ~く聞け。……こいつを俺達によこせ。痛い目を見たくなかったらな」
「う……うぅ……」

 周囲に聞こえないように、澄人の耳元で言う広瀬。

 それを見たはるは、足を前に進めた。

「澄人さん。もう、行きましょう」
「おっとっと。そういうわけにはいかないぜ」

 しかし、広瀬と青山がはるの前に立ち塞がる。

「おい、失敗作。警察に連絡しろなんて命令、すんなよ? もししたら、その時はお前をぶん殴って、あのロボットをぶっ壊してやるからな」
「うぅ……」
「まずは俺達についてくるよう、このロボットに言ってもらおうか。いい加減、ここじゃ目立つからな」

 そうして……澄人とはるは三人組にエレベーターへ乗せられ、地下一階へと連れて行かれてしまったのだった。

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