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帰還

1
「もう大丈夫みたいね」
研究員の男との戦いから数日後。
朝から風夜と共に何処かに出掛けていた沙羅が戻ってきたのと同時に言った。
「大丈夫って、何が?」
「もう暴走する心配はないってことよ」
にっこりと笑って言う沙羅から風夜へ視線を移す。
彼は何だか疲れた様子で、椅子に座っていた。
「ったく、色々理由をつけて、この使い方を徹底的に特訓させられるとはな」
そう言いながら、風夜は腰に差してある今は柄だけになっている武器に目をやる。
「あはは、それはお疲れさま。……そうだ。さっきクッキーを焼いたんだ。皆でお茶にしよう」
苦笑しながら、風夜にそう返し、花音は今いない紅牙達を呼びに行くことにした。
「おいしーい!おいしいよ、花音お姉ちゃん!」
「うまい!蒼牙、こっちも食べてみろよ!」
「紅牙こそ、こっちもおいしいよ」
「……お前ら、もう少し行儀よくしろよ」
何枚ものクッキーを次々と頬張る紅牙と蒼牙を見て、黄牙が二人に言う。
「「だって、おいしいんだよ!」」
「はぁ……」
声を合わせて返した二人に、溜め息をついた黄牙を見て、花音は思わず笑ってしまう。
もうかなり前のことに思えるが、まだ平和と呼べた時、風の国で風華や火焔達とお茶会をしたことを思い出す。
その時とは場所もメンバーも違ったが、その時のような暖かい気持ちにはなる。
色々なことがあり、気が休まることが、最近はなかったが、今だけは忘れていることが出来た。
「それで、これからあなた達はどうするの?」
花音が作ったクッキーがなくなる頃、沙羅が口を開く。
「あなた達がこの世界に来た目的は果たしたでしょう?すぐに向こうに帰るのかしら?」
沙羅の言葉に、花音達が異世界から来たことを知らなかった紅牙、蒼牙、黄牙、朔耶が目を丸くした。
「向こうに帰るって……?」
「俺達はこことは違う世界から来たんだよ。俺の中の魔族の血をどうにかするためにな。その目的を果たした以上、ここにいる訳にはいかない」
「えっ?どうして?」
「ここにいたって、いいじゃんか!」
風夜が言うと、紅牙と蒼牙がそう声を上げた。
「二人には、待っている人達がいるのよ。だから、ずっとここにはいられない。……それに、今、向こうの世界では、大きな厄介事が起きてるの。ここにずっといたら、気が気じゃないでしょう?」
「その厄介事って何なんだよ?」
宥めるように言った沙羅に更に言い返す紅牙に、溜め息をついて彼女が続ける。
「簡単に言ってしまえば、神族と魔族の戦いね。まぁ、元々は魔族の侵略行為だったんだけど……」
「だったら!余計、こっちにいればいいじゃんか!それが終わるまで、こっちにいれば!」
「そうだよ!そんな中、帰るなんて……」
「……紅牙、蒼牙」
黄牙に名を呼ばれ、二人が黙りこむ。
その時、それまで黙っていた神麗が口を開いた。
「うーん、二人は花音達と別れたくないのよね?なら、こうするのはどうかしら?私達が二人についていくの」
「えっ?」
「はっ?」
にこりと笑っていった神麗に、今度は花音と風夜が目を丸くする。
だが、紅牙と蒼牙はいい案だというように、表情を明るくした。
「どう?いい案でしょう?」
「そうだよな!残るのが駄目なら、ついていけばいいんだよな!」
「ね、黄牙兄さんもそうしよう!」
「……まあ、助けてもらった借りもあるしな」
「じゃあ、私達もそうしましょうか」
「沙羅姉さんが行くなら、当然俺もいくよ」
止める間もなく、どんどんと進んでいってしまう話に、花音は風夜と顔を見合わせて、苦笑いするしかなかった。

沙羅達と話した数時間後。
花音達はこの世界に来た時に使ったゲートの前に来ていた。
「これを使えば、花音達がいた世界に行けるのか?」
「うん。そうだよ」
朔耶に聞かれて、花音は頷いた。
「本当についてくるのか?」
最終確認のつもりなのか、風夜が問い掛ける。
「ああ!もう決めたんだからな!」
「そうそう!僕達、何を言ってもついていくから」
紅牙と蒼牙の言葉に、風夜は諦めたようだった。
ゲートを通り抜けると、そこはまた森の中だった。
「ねえねえ、本当に花音達の世界に来れたの?」
「うん。森の中だからわかりにくいけど、私達の世界だと思うよ」
「なあ、二人の仲間ってどんな奴等?」
「僕達も仲良くなれるかな?」
瑠璃に続いて、次々と口を開く紅牙と蒼牙に苦笑する。
「まあ、受け入れてくれるとは思うけど……」
「ここであいつらのことをあれこれ話すよりは、実際に会った方がいいだろ?何せ、人数が人数だからな」
「そんなに大勢なのか?」
「成りゆきでね。……とにかく、先ずはこの森を出ようか」
「待って!」
声を掛けて、花音が歩きだそうとした時、蒼牙が言った。
「誰かこっちに来るよ」
「人数はわかるか?」
「えっと、……二人かな」
黄牙に聞かれた蒼牙が答えた時、花音の耳にも誰かの足音が聞こえてきた。
異世界へ行くためのゲートしかないこの森に用事がある人がいるとは思えなくて、身構えていたが、現れたのは光輝と白夜だった。
「光輝!それに、白夜さん!
「どうしたんだ?その怪我」
大きな怪我をした様子はないが、それでも多くの怪我を負っている二人を見て、風夜が問い掛けた。
「妙な奴等に襲われたんだ」
「妙な奴等?」
「……色々な種族が混じっているような奴だった。姿も、能力もバラバラで、中には火や水を操る奴もいたな」
「それって……!」
光輝から話を聞いて、花音は後にいる沙羅達を振り返った。
「キメラね」
「あいつの研究が何処かでもれたってことか」
「でしょうね。予想はつくけど」
そう呟いた沙羅に、白夜の視線が向く。
「お前、魔族かっ!」
「ふふ、そうだけど。悪いかしら?」
「ま、待って!沙羅さんは……!」
「姉上」
身構えた白夜を見て、沙羅を庇おうとした花音だったが、光輝に遮られる。
「結局、どうなったんだ?魔族の血は消えたのか?」
「……いや、その逆だろ。魔族の気配が増しているからな」
沙羅を警戒しながらも、風夜の気配をよんだ白夜が言う。
「な、何でだよ!魔族の血を消す方法を探しに行ったんじゃなかったのか?!」
「まあまあ、夜ちゃんも、貴方も落ち着いて」
光輝が声を上げた時、後にいた神麗が白夜のことを妙な呼び方をしながら出てきた。
彼女を見て、白夜が目を見開く。
「なっ……!?」
「ふふ、久し振り。そんなに警戒しなくても、沙羅さんは味方よ。彼だって暴走することはないと、私が保証するわ」
にっこりと笑った神麗との関係はよくわからなかったが、何も言い返せないところを見ると、立場は神麗の方が上のようだった。
森で再会した二人と光の街に来ると、出発前とは大分様子が変わっていた。
「ここが、光の街……?」
(光輝がずっと大切に守ってきた街が……、こんな……)
「街の人々や、他の奴等はどうなったんだ?」
荒れ果てた街の様子に花音が呆然としていると、風夜の声が聞こえてきた。
「襲撃の直前に、街の人々はどうにか逃がした。星夢の能力で、襲撃があるのはわかってたからな。他の奴等は」
「俺達、闘神が一人ずつついた幾つかのグループに分かれ、ここを脱出したんだ」
「本当なら、夜天と雷牙も一緒にいたけど、脱出後、また襲われてな」
「はぐれたのか?」
聞いた風夜に、光輝は頷いた。
「それなら、先ずはその二人を探しましょうか」
「二人とはぐれたのは、どの辺りなんだ?」
「ここから数キロ離れたところだ。俺が倒した化け物の痕跡があるから、わかるはず」
神麗と黄牙、白夜が言う。
「よし、じゃあ、行ってみようぜ!」
「僕、結構気配に敏感だから、襲われても、二人がいても、すぐわかると思うよ」
「そうね。ここにいても、何の進展もなさそうだし、行きましょう」
紅牙と蒼牙が暗い雰囲気を消すかのように、明るい声で言い、同意した沙羅が呆然としていた花音の背を押してくる。
「ほら、行くぞ」
同じように街を見ていた光輝には、風夜が声を掛けているのが見えた。

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