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正しい道とはなんですか?

 カザは、正直現状がよくわかっていなかった。
 どうしてこんな事になったのだろう?
 カザとしては、ルフィリアが好き勝手やっていて、訴えれば死刑だというからびっくりして話に行っただけだ。
 そもそも、カザにはなぜルフィリアがカザの名で買い物できたのかが既にわからない。
 なにやら自分が悪い、ような空気は感じ取った。
 だが、カザは被害者だ。何故カザが悪いのか、全く理解できない。
 ……だが、それはいつものことだった。
 何故か、いつだって、どんな状況だって、何をしたって、いつでも神崎彩海が悪く、責められるのだ。
 それが嫌だからゲーム世界に引きこもっていたのに、何故こんな状況になっているのか。
 そもそも、事が起こった時にはもう遅かったように思う。
 ルフィリアの命を、何故かカザが背負うことになっていたのだから。
懸命に思い出す。
 凄くドキドキしたけど、頑張ったはずだ。勇気を振り絞って立ち向かったはずだ。
 神崎彩海は、幾度と無くそうしてきて、そして毎回のように敗北をしてきた。
 今回も、同じだ。
 神崎彩海にとって、抗う努力とは無駄の同義である。戦うのは体力を消費し、辛い。その上無駄なのだから、泣くしか無い。
 どうしていつもこうなのだろう。
 そもそもカザは、間違ったことを言ったつもりは一切ない。
 思い出しても、百点満点の行動だったはずだ。陛下の前での言い争いは無礼ではあったが、そもそもルフィリアが嘘をついていたのだから、訂正しなくてはならなかった。
 むしろ、勇気を振り絞り、立ち向かったのだ。
 神崎彩海は、自分を褒めてあげたいくらいだった。

 思えば、ルフィリアは何やら自分を脅していたように思う。意味はわからなかったが。
 これもまた、カザが悪いとは思えなかった。
 そして、どうでもよくて適当にスルーしていた事実を飲み込む。
 プレイヤー=使徒=古代人=何か凄く偉い人、である。
 特にウン・チクさん=凄く偉い人である。
 だが、カザは理解していた。
 現地人に大して、プレイヤーは一切の肉体的アドバンテージを持たない。
 せいぜい、ドルエンぐらいだろう。絶対的なアドバンテージは。
 それ以外は、現地人は全く同じ、いや、初期ステータスはむしろ現地人より劣っている。
 ログイン・ログアウトは現地人にはないが、カザはこれを不利な点と考えていた。
 何故か色々失伝しているが、カザにはプレイヤーが偉い人となる事が理解できない。
 その一方、矛盾しているようだが、プレイヤーであることの危険性も理解していた。

 ――領主システム。
 
 プレイヤーが、ドルエンとゴルドを使って街を作るシステム。
 この王国を、各地の街を維持しているのは、ゴルドなのだ。

 自らの持つ、大量のドルエンとゴルド。これらはまさに生命線だ。
 愚かなカザにも、縋られるさまは正確に思い浮かべた。
 それは恐ろしい。
 使徒だという事で、人々は色々と望むだろう。奇跡を。カザは只人にしか過ぎないのに!
 ぶるり、と体を震わせる。
 カザはカンストプレイヤーだが、自分の弱さは身にしみてわかっていた。
 普通に力づくで来られたら抵抗は出来ない。
 ルンデルムまでのレベルだとしたら多少の抵抗はできようが、例外はいるものだし、効率的なやり方さえ心得てしまえばカンストなど直ぐだ。
 縋ってくるという行為も、恐るべき事だ。
 街の生命の責任をカザに押し付けて、カザのせいにして迫ってくる様子がまざまざと浮かんだ。
 絶対に隠さないと、と考えて、ベルンツハイムの事を思い出して顔色を曇らせる。
深く考えないで行動していたが、ベルンツハイム達は自分をプレイヤーだと理解していたようだ。よっぽどバレバレだったのだろう。
 特に隠さなくては、とも考えていなかったから、仕方ないのかもしれない。
 使徒と名乗れば、許されたろう。許されたろうが、次に来るのは間違い無く要求だ。

 更に、ルフィリアの言葉を思い出す。カザがルフィリアの勝手に約束したことを遂行しなくては、カザが罰を受ける。
 これもまた、理解できない。

 よくよく考えたら、それで詐欺罪というのもカザには理解できない。

 無礼を働いた自覚はあるが、陛下を詐欺に掛けてはいない。

 しかし、神崎彩海の責任になるのは日常的なことだったので、わからなかったのだ。

 そして、いつのまにかルフィリアを殺さねばならない責任が付随していた。
 犯罪が罰されることに対して、カザはもちろん、全面的に賛成だ。
 被害者側に陥りやすいことを自覚しているカザにとり、犯罪者がきちんと裁かれてくれるかどうかは死活問題である。
 だが、それは行政がしてくれるものではないのか。警察は何をしているのか。
 被害者であるカザが、何故ルフィリアの命を背負わねばならないのか。
 あまつさえ、自ら殺さねばならないのか。
 これが、ルフィリアは罪を犯したので罰されますとなったら、カザは頷いていたろう。内心喜んだかもしれない。死刑でさえなければ。
 そして、悲しいがこちらの法律がそうなら、ルフィリアの死刑も受け入れたと思う。

 でもそれは、カザが訴えて処断したり、カザが手討ちにするのでなければ、の話だ。

 カザは唐突に、ルフィリア自身は何も罰を受けていないことに気づいた。

 カザがあれだけひどい目にあったのにだ。わけがわからない。百%カザが罰さねばならないということだろうか。被害者が百叩きで更に加害者を自力で罰する。警察何やってんの、という理不尽である。無論、カザは百叩きが怖くて恥ずかしくて恐ろしかった。強制労働も嫌だ。
 しかし、神崎彩海に取って、理不尽もまた日常であった。
 カザは目をゴシゴシと拭う。
 それから逃げたいから、ゲームをしていたはずなのに。
 これでは現実と変わらない。いや、ここはままならぬ現実なのだ。
 信頼度が致命的に下がる。これもまた酷い。
 一つ一つ思い出して、ようやくカザは商業ギルドで手続きすれば、破門だけですませる方法もあると言っていたことを聞き逃した事に思い立ち、激しく後悔した。
 相手の要求、というかルフィリアの要求を飲むまいと必死だったから、スルーしてしまった。
 それから先のこと、思い出すのも心苦しい。
 伝統ある徒弟制度の崩壊。ルフィリアの家の取り潰し。罰されない、ただしカザが罰さねばならない、石を投げられ殺されかねない勢いだったルフィリア。
 犯罪者の弟子で行き場がない。もちろん、弟子達にも済まなく思う。
 だが、いつからカザは犯罪者になってしまったのか?
 いつだって、理不尽は神崎彩海に襲いかかってきたが、犯罪者にされるのは初めてだった。
 カザだってわかっている。ルフィリアと関わったのがそもそもの間違いだと。
 ならば、どうすればよかったのだ。とても断れる雰囲気ではなかった。
 カザは一人だって弟子を取りたくなかったのに。
 そして今、巻き込んでしまったガウルは健気に見張りをしている。子供なのに。

 自分だけが辛い立場に立つならまだしも、ガウル達まで巻き込んだのが苦しかった。

 どうしてなんだろう。
 思い返しても、カザは自分が完璧ではないものの、精一杯頑張ったという回答しか浮かばない。
 子供に聞くのは恥ずかしいことだが、ベルンツハイムは賢い。
 相談してみよう。
 グシグシと涙を拭き、ベルンツハイムを探す。
 廊下に出ると、ベルンツハイムとガウルがもめていた。

「俺がやる。お前は師匠に必要だ」
「いいえ。これは私がやるべきです」

 握られた武器。二人の言っていたこと。
 足がすくみ、逃げたくなる。体が震える。事態は悪化するばかりなのではと思う。
 揉め事で神崎彩海が勝利を治めたことは、ない。
 それでも、掛かっているのは幼子がカザのせいで手を汚すのか否かだ。
 カザは、必死になけなしの勇気を振り絞り、二人を止めた。
 どうすればいいかもわからないくせに、何が正しいのかもわからないくせに、覚悟一つ持たずに。二人の行為は認められないという意思だけを握りしめて。

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