バナー画像 お気に入り登録 応援する

文字の大きさ

暗雲


ああ! 今日! ようやく! 商人の勉強ができるっ!

「という事で、二人共よく頑張りました。じゃあ、一人一着ずつ装備品を持ってね。100金貨とポーションもだよ。ステータスウィンドウを開きます」

 五人がステータスウィンドウを開いたので、ベルンツハイムのステータスを指で指していく。

「ここをクリックすると、帳簿システムが開きます」
「なんと……」
「なるほど」
「ここで、初期投資額と、装備品、初期消耗品を投入。仕入れ値だけど、今回は人件費だけって事にしよう。狩りで手に入れたものは、その項目があるから、難易度を一番下に選択して。普通は、隣に使ったポーション代も入れるの、わかるよね? 商品の値段は銅貨一枚にして」

 五人は難しい顔で帳簿システムを見つめる。
 
「じゃあ、売ってみましょう。売買ボタンを押して、確認ボタンを押して」
「できた……って、消えた!?」
「うん、よく出来ました。早速売れたね。じゃあ、帳簿を書き写して」

 五人は慌てて帳簿を書き写す。

「じゃあ、今度は残った装備品を纏めて売ってみようか。と言っても、一番弱い装備品は欲しがる人も少ないから、需要と供給を考えて値段を設定してね。皆売れたら、税金を払いに行こう。それと、ベルンツハイムとガウルは、三人から素材をもらったら、作った装備品の半分を分けてあげる事。大体、レートは素材二倍か、素材分プラス代金だね。人間関係を円滑にしたかったら、素材二倍プラス、ちょっぴり謝礼が妥当だよ」
「それって俺らに不利じゃね?」
「職人としての技術磨く方が冒険者として強くなるより大変なんだから、当たり前じゃない……」
「どうして? 冒険者は命かけてるんだぞ」
「職人だって必要な素材を手に入れる為にはどこだって行くよ。必要な労力は断然職人の方が多い。とにかく、これでひと通りの基礎は教えたから、自分達でしばらく頑張ってご覧。ただ、市場を破壊しないようにね。一週間自由時間をあげるから、頑張ってみなさい。ステータスとスキルだけは必ず私の指示を仰ぐこと。日記をつけて、どういう事をしていたか教えること。三人には、MP管理術の課題を用意しておくから、それだけはやっておいて」
「カザ師匠、私達にも課題を下さい」

 ベルンツハイムとガウルが頭を下げる。そうなんだよね。二人は出来が良すぎて、特に色々教えてなかったりするんだよね。

「そうだね。じゃあ、ひと通りの課題をあげようか。全部達成しようとしなくていいよ。今まで教えたことを飲み込む時間も必要だろうし、自分でどうすればいいか考えるのも大事なことだから。それと、ベルンツハイムとガウルには、他に資金をあげるから、普通のお店との取引とかも頑張ってご覧。私、そういう事上手く教えられないから。後、三人のこともそれとなく見てあげてくれないかな。それと、夜は私の部屋に来なさい。本の読み聞かせをしてあげる。ウン・チクさんの『むぎゃおー! ドラゴンとか勝てるかバーカ!な子豚さん達に贈る丸焼きを防ぐ方法』とかね」
「わかりました、ありがとうございます」
「頑張ってみる。楽しみだ」

 ベルンツハイムとガウルは頷く。

「あの童話か。竜に負けて負けて負けまくる。絵本の読み聞かせなんて、まだガキだな」

 ダカートが笑う。あれ、一応誰でもできるドラゴンの簡単な倒し方なんだけど。わかってないんだろうなぁ……。面倒くさいから放っておこう。

「じゃあ、そろそろ行こうか」

 五人の弟子は頷き、私達はまず冒険者ギルドへと向かった。

「おお、カザさんじゃないか! 三人は迷惑を掛けてないか? 頑張っているか? あんたは三人には出来すぎた師匠なんじゃないかと心配してたんだよ。神殿の神官が、話聞きたいって言ってたぜ。なんでも国王様と神官長が直々にご挨拶に来るそうだ」
「ええ!? なんでですか!?」
「神殿の隠し部屋に本、ベルンツハイムが上手くごまかしちゃいたが、ありゃ本当はお前さんの本だろう? 勅命で買い取った謝罪と、話を聞きたいってよ。お前さんは知らなかったろうが、あれ、国宝級の本なんだよ。キルクがそんなもん持ってたって聞いて、ゾッとしたぜ。幸い保存状態も良くて、すぐ保護できて良かったけどよ。けど、カザさんには、済まなかったな……。写本で悪いが、書き写して返すそうだ」

 え、課金無駄にした。写本とはいえ、ちゃんと返してくれるんだ。すごく意外……。

「でも、国王様が私なんかに?」
「それほど大事な本なんだよ。なんでも、著者のウン・チク様は、我が国『プチピッグ』王国建国者「オークキング」の親友、『こぶたさん牧場』帝国のご領主だったそうだからな。滅んだ国だし、資料はもうほとんどねーんだ」
「ここってプチピッグ王国なの!?」
「知らなかったのか!?」

 中の人同じじゃない。オークキングさんてウン・チクさんじゃない。
 え、でもこぶたさん牧場の方がでか……ああ、こぶたさん牧場は常時課金の領地だったから、課金が途切れたのか……。
 ぶるり、と体を震わせる。
 ゴルドやドルエンを集めるわけだ。それがなくなったら、街は消滅するのだから。
 そこに住んでいたNPCはどうなるんだろう……。
 なんとなく、面倒な事になりそうな予感がした。
帳簿を出して税金を払うと、ランデルさんは破顔した。
三人の成長が嬉しいといい、深く頭を下げてお礼を言われた。

「そういや、チェックリストや詠唱体操だっけ? うちでも使わせてもらってる。良く考えられた訓練法だ、すげーな。今度、ぜひ講義して欲しいんだが、もし、受けるとしたら報酬はどれぐらいで引き受けてくれる? もちろん、そちらの都合によるが……」
「悪いけど……」

 ダカートみたいのがわんさかとか、絶望すぎると思うの。
 さすがにこれは断らせて欲しい。

「そうか……。冒険者が商人に鍛えて欲しいなんざ、あべこべだとは思うが、もしも気が変わったら声を掛けてくれ。それと、連絡先が知りたいんだが」
「それもごめん」

 ランデルは肩を落とした。

「そうか、悪いな。そうそう、出来れば数日、神殿で待機して欲しいんだが、それは頼んでもいいか? 連絡がつかないとなると、陛下と神殿長をいつまでも待たせるわけには……」
「うん、いいよ」
「わかった。じゃあ、ダカート達はうちで預かる」
「わかった。礼儀作法わからないけど、大丈夫かな?」
「それは問題無いだろう。ある程度は許してくれると思う。ガウル、お前は大丈夫か?」
「多少は……。口を閉じてできるだけ小さくなってるよ」

 ランデルは頷いた。

「なんで! 俺、陛下にお会いしたい……」

 ランデルがダカートを殴る。

「阿呆! 陛下に冒険者風情が会えるわけあるか! ガウルやベルンツハイムは良い所のぼっちゃんだから、もしもの時フォローできるんだよ!」
「没落しましたがね」

 ベルンツハイムが苦笑し、そしてダカート達三人を連れて行って何か話をしてきた。
 帰ってきたベルンツハイムの拳には血がついていた。仲、悪いなぁ……。
商業ギルドに寄って税金を払う。
 すると、受付の人が困った顔で私に告げた。

「あの、不躾ですが……ルフィリア様は、お弟子さんでしたよね?」
「え? はい。名前だけですが」
「あの……神殿で、陛下と神官長をカザさんの名前で持て成しているとか……。それと、カザさんのお使いだと言って、相当色々な物を買っているらしくて……勝手な約束も……」

 何を言っているかわからなかった。

「え、だって……そんな事可能なんですか?」
「その、カザ様の弟子にルフィリアという娘はいるか問い合わせに、うちとしてははい、と答えるしか無くて……」

 どうしよう。神殿に行きたくない。

「訴えでましょう。恐れ多くも『プチピッグ』王国陛下と冒険者の守護者たる神官長様を謀る真似、どう考えても一族郎党死刑です。この際、ダカート達にもよき見せしめとなりましょう」

 迷いなく告げたベルンツハイム。
 
「うそ、死刑って……」

 私は笑おうとして、上手く笑えなかった。怖いよ、ベルンツハイム。

「この際だから言います。あの三人組も、ルフィリアも、罰せられて当然の事をしています。貴方様が誰であっても、です。その上、貴方は高貴なるお方。本来ならば、腹立たしいことに被害者たる貴方様も師としての責任を取らねばなりませんが、貴方様が家名を告げれば、問題はないでしょう。いえ、家名を出さずとも、私がそのように持っていきます。どうかお任せ下さいますか」

 商業ギルドの受付の人は、青い顔をしている。
 それでも、訴え出るための手続きの用紙はくれた。
 私は、それを受け取って破る。

「カザ師匠!」
「ルフィリアと話してみる」

 青ざめた私の顔を見て、ベルンツハイムは酷く後悔した顔をした。

「カザ師匠……俺、ベルンツハイムが正しいと思う。無礼を承知で申し上げます。ルフィリアが無理を言ってきた時、師匠はきちんと断れますか? ルフィリアに、ずっと傷つけられ続けるなら、今、きっぱりと引導を渡した方がいい。でなくては、ルフィリアの師匠であるという事は、ずっとつきまとい続けますよ」
「そんな……」

 私は唇を噛む。
 どうすればいいの。
 迷いながら、私は二人に守られるように挟まれて、神殿へと向かった。

しおり