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穏やかな日々は始まる前に終わる

 目覚めたのは丁度昼前。食堂からはいい匂いが漂っていた。

「カザ師匠! 俺ら、やりました!」
「カザ師匠、神の試練、突破してきました」
「うん、おめでとう。食事の前にスキル覚えちゃおうか。ステータスウィンドウをオープンして」

 二人がドキドキしながらステータスウィンドウをオープンすると、カザはそのウィンドウをじっくりと眺め、笑顔になる。

「二人共、私は誇らしい。素晴らしい試験結果ね。その上、二人は仲間と戦うと、より強く戦えるはずよ。神様からの贈り物の内、かなりいいものだよ」

 スキル、共闘スキル下である。これは仲間の攻撃力と防御力を0.01、最大で1%上げるという凄まじいスキルだ。どういう意味かというと、共闘スキル下を持ったキャラクターが百人揃うと全員の攻撃力が1%膨れ上がり、百一人なら1.01%の増加にはならず、1%で留まるというものだ。
 しかもスキルの熟練度を上げれば、スキルの上昇値は最大値を限界に上がる。
 チートなだけあって、プレイヤーの周囲直系一キロの円内に他プレイヤーがいない状態で戦うと熟練度が下がるという鬼畜仕様だが、パーティを組んで戦えば早く、それでなくとも百メートル以内に他プレイヤーがいる状態で戦えば徐々に上がっていく。

「これから、一人で戦う事はできる限り避けなさい。神様の加護が離れるからね」
「はいっ」
「はい」
「じゃあ、私が指示するように指を動かして」

 ベルンツハイムとガウルは、それぞれのステータスを興味深く眺めながら指を言われたとおりに動かす。

「これ、もしかして腕力とかですか?」
「そうだね、力そのものだよ」

 数値の一つをベルンツハイムが指さして問い、カザは答えてやる。

「これが、魔力?」
「魔力は正確には威力、耐性、量がある。順に魔法攻撃力、魔法防御力、MPという。その中の魔法攻撃力だね」

 二人はまじまじとステータスを見る。
 その後、鑑定スキルといくつかのスキルを取らせて、作動の仕方を教えた。

「ん、すっかり冷めちゃったね。召し上がれ」

 ホッとした顔で、二人は食事を食べる。
 
「今日の午後はいかが致しましょう」
「そうね……。商品を作って鑑定してみましょう」

 システムウィンドウを操作。各種道具を購入。

「じゃあ、外で兎の皮を使って毛皮のマントを作ります」

 ギルドキャッスルの外に行き、目の前に縫製道具があるのにびっくりする二人。

「じゃ、縫製道具の前で、兎の皮を持って、毛皮のマント作りたいって思ってスキル発動」

 体が勝手に動いて、皮を裁断し、チクチクと布を縫っていく。
 完成すると、荒い縫い目がふっと消えていった。

「完成っ! あ、ジャンピングラビットの毛皮のマントは、唯一レシピ無しでできるの。そして、一度縫製スキルを作動させたら、ドロップアイテムにレシピが混ざるようになるわ。レシピを使用すると、更に作れるものが増える。そのような生産系スキルは、縫製、木工、鍛冶、料理、調合、調教の六種類あって、それを補助するものとして採集・育成スキルがあるわ。これらは、練習するとステータスから段階を上げられるようになるの。ただ、これも育てるには制限があって、極めるの100の段階があるんだけど、六種あわせて360しか育てられないの。平等に育てるなら一つにつき、六十。極めるなら、三つしか極められないってことね。それに加えて、採取・育成スキルは二つ合わせて100。これは商品を作るのにも影響するから、よく考えなさい。上級になると自分でもレシピを作れるようになるから、自分に向いたものを選びなさい。今日はやり方と材料だけ教えてあげるから、よく考えて自分で練習しなさい。わからないことがあったら聞いていいから」

 さて、明日は冒険者の子達と顔合わせである。憂鬱だ。








 ベルンツハイムとガウルは、作れるもの一覧を簡単に見て、自然と、二人で半分ずつ極めよう、という話になった。
 縫製、木工はベルンツハイムの装備に必要である。鍛冶はガウルの装備に必要だ。これは分けることとなった。
 料理、調合は同じような能力が求められるので、ガウルが。残りの調教はベルンツハイム。
 それで、念の為に最初にひと通り試してみたが、木工と調教は力がいる事がわかった。
 また、ガウルは調合が上手く出来なかったので、ベルンツハイムが縫製、料理、調合。ガウルが調教、鍛冶、木工として、独り立ちした後も二人で密に連絡を取り合おうと誓った。
 採集はベルンツハイムが責任持ってマスターし、ガウルが育成をマスターすると約束した。
 と言っても、まだ出会ってたったの三日目なのだが。
 だが、困った事もある。ジャンピングラビットのドロップアイテムは肉と皮。縫製と料理なのだ。ガウルが育てられるものはない。
 鍛冶や木工をしようにも、木、鉱石、共に国の管理にある。
 そう困惑顔で言ったら、カザは困った顔をした。その瞬間、にょきにょきと木が生え、岩が出て、畑が出来た。恐怖である。

「一日十回まで採集できるわ。そこで採集や育成をなさい。まあでも、最初は二人で料理でもいいんじゃない? 熟練度は簡単にはあげられないし、ステータス振らなければ良いのだし。最初に売りに行くなら、干し肉がいいわね。干し肉のレシピはこれね。調味料は別に自分達で買うこと。畑で育てても良いわ。後、アイテムボックスを確認して整理しておくこと」
「ありがとうございます!」
「カザ師匠、ありがとうございます!」
「他は好きにしていいけど、装備は捨てちゃ駄目よ。特別なものだから」

 ベルンツハイムとガウルは、絶対にカザを怒らせないようにしようと心に誓う。
 神様は、優しいばかりではない。加護をくれる神は、天罰も与えることができるのだ。
 神に逆らおうなどと、誰が考えるものか。
 ベルンツハイムとガウルは急いでアイテムボックスを確認する。と言っても、アイテムボックスの中身を確認するのは難しい作業だ。入っているとわかっているものは比較的すぐ取り出せるが、何があるのか探るのは難しい。

「すげ……新しい装備だ」
「何かいっぱい入ってる……」

 真新しい杖と槍、ローブと鎧。それらは、ベルンツハイムとガウルにピッタリだった。
 更に、各種素材や大量のポーションも入っていた。
 戦闘に行って力を試したいという気持ちが湧いてくるが、一ミクロンたりともカザの言いつけを破ろうとは思わなかった。勝手に戦闘して、神の試練のような事を逃すのも怖い。
 二人は言いつけ通り、干し肉を作る作業に移る。
 疲れて効率が落ちた時は休憩するが、決してサボらず。
 二人は料理や掃除などの家事もして、夜遅くまで作業をし、全ての肉を干し肉に変えてから睡眠をとった。
 二人は、神に逆らおうとなど欠片足りとも考えず、またそのような人間がいるとは思わなかった。
 二人は知らない。弟子入り三日目にして、穏やかな日々は消え、胃痛の日々が訪れるのだと。

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