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天地人とチュートリアル

 ベルンツハイムとガウルはよくできた子だ。
 正直、成り行きで弟子に迎え入れた子としてはもったいないほどだ。
 ギルドキャッスルは綺麗に掃除され、調度品は買い揃えられ、申し分なく整えられていた。200ゴルドを使ったのかなと疑ってしまったけど、帳簿を見ると一生懸命安くていい品を探して買ってきたのがよく分かる。
 うん、私が普段買っている値段よりもずっと安く手に入れてるみたい……。
 私が師匠でいいのかな、でも規則だし仕方ないよね。向こうから申し出たんだしね。
 午後の三時頃、彼らは殊勝にも、次は何をするか聞いてきた。

「そうだね。商人らしい事もしないとね。じゃあ、次は鑑定スキルを手に入れようか」

 鑑定スキルは応用すれば罠探知などにも使える、非常に便利なスキルだ。ただし、非常に高いプレイヤースキルとスキルの熟練度上げが必要となる。

「鑑定スキルですか!? あの、ごく僅かな選ばれた人しか持たないという!?」
「あのスキル、使うのがすごく大変なんだよね。育てるのも。スキルを得るには、まず魔物を沢山倒します。そうだね、人のいなくてジャンピングラビットがいっぱいいる所を探して、一匹倒してからポーションを赤と青以外全種類1つずつ飲んで、全力戦闘。最初の獲物を倒して三時間したら帰ってきなさい。怪我をしたらすぐ赤いポーションを飲むこと。青いポーションが魔力回復ね。きつくなってきたら余裕が有るうちにギルドキーで帰ってきてね。余裕があっても、三時間で帰宅だからね。出来れば、ポーション類は全部使いきってきなさい。合格の目安は50匹。もしかして、神様の試練が起きるかもしれないけど、無理はダメよ。倒せるなら倒しちゃっていいけど、駄目そうなら逃げなさい。三十分で消えるから。神様の試練の時は、三時間過ぎても戦っていてもいいけど、もうだめだと思ったらギルドキーだからね」

 経験値アップ、スピードアップ、全攻撃力アップ、全防御力アップ、幸運アップ。
 最初に持っているアイテムは、存外いい物だ。が、こういった物は使ってこそ。特にスタートダッシュはとても重要だ。
 最初の魔物を倒してから三時間は、ボーナスタイムなのである。
 このVRMMOのステータスの決定方式は複雑で、まず同じステータスの者はいない。
キャラを作ると、まず大まかな種族値の範囲で、ランダムに能力値が決まる天値。
 更に、最初の魔物を倒すまでにプレイヤーがステータスポイントやスキルポイントを振った割合の地値。
 最初の魔物を倒してから三時間の、プレイヤーの行動の全てで決定される人値。
 この天地人全てが、素質として成長に影響してくるのだ。

 最初の魔物を倒してから三時間経つと、その成績によってレベルアップとは別にはっきりステータスが変動し、その後の自動成長パラメーター、天値が決まる。
 この天値は成長の基礎となるので、非常に重要だ。

 ちなみに、この他に、レベルアップごとに一定のステータスポイントとスキルポイントを地値という。

 最後に、スキルを取る事に変動するステータス成長の変化が人値だ。

成長に関する天値を運命値、成長に関する地人を努力値と呼ぶ事もある。

運命値が決定すると、アイテムの謎の布地と謎の棒が、運命値に相応しい祝福服と祝福武器になる。これも頑張れば初期にしてはそこそこ良い物が手に入る。しかも、分解すると失敗なしで強化素材が分離する。

ちなみに、運命値に関しては課金アイテムでやり直しが出来る。
ただし、キャラクターの外装データ以外全部リセットだ。
これも裏技があり、アイテムは倉庫に預けておけば消えない。
つまり素っ裸で受けるよろし。祝福と同じである。
 
 素直に新キャラ作りなおせよ、という意見もあるだろう。
 しかし、転生キャラはおいそれと新キャラを作れば、という訳にはいかない。更にこの課金アイテム、一個につき五回、更に三時間以内に同アイテムを使えばその成績は維持されどれでも好きなのを選べる上に、その五回は天値決定前、地値決定前、人値決定前の三つから選べるというハイパー親切設計。一回百円というありえない安さ、良い天値が出やすいという特典もあり、転生もしくは二回目キャラからほぼ間違いなく使われるアイテムである。課金に慣れてる人は初キャラからガンガン使う。

 玄人は運命値決定まで五十回ぐらいやり直し、その後量産した祝福装備をバラし、少なくとも+50はついた強化装備で高レベル帯の狩場へと突撃する。これは実は手間を考えなければ強化系の課金アイテムを買うよりもずっと安い。

 私も五百円くらい使った。計二十五回のやり直しである。
 VRMMOには大体時間加速ついているとはいえ、150時間ゲームやり続けで大丈夫なのかって? 廃神様は最短十五分で終わらせるし、途中でログアウトしても大丈夫なので問題ない。
 ちなみに十五分というのは、フェンシングの世界チャンピオンが出した結果らしい。
 やり直しの間に三時間あれば、使い心地を軽く調べて荷物を置いてくるぐらい簡単だ。
 攻略wikiにも、初めての人はまずはこの課金アイテムを使ってみて、いろんなタイプを試してみては、と書かれるほど。
 
 逆に言えば、それほど運命値が重要だ、ということでもある。
 天値は一般プレイヤーに比べるとずっと良かった。地値は最善を尽くしたつもりだ。
 だが、人値は彼ら次第だろう。
 戦い方が、そもそも天値や地値と合っていない事もある。
 あまりにも合わないようだったら、一度だけ課金アイテムを使ってもいいかな。
 まるで自分の事のように緊張しながら、彼らに告げる。

「しかし師匠、どうすれば時間がわかりますか?」
「そっか。はい、イベント時計。数字はわかるね? これに数字が出たらカウント開始。0になったらタイムオーバーだよ」
「これは……! 時計、ではないのですか? ありがとうございます!」
「カザ師匠、俺にも、俺にも!」

 私は二人の手に時計をしてやる。

「二人共」

 二人は、振り返る。

「この戦い、見ているのは未来の貴方自身だよ」

 二人は目を見開いて、こくこくと頷いて走っていった。
 さて、心配でどうせ落ち着かないし、今日の夕飯はとっても凝ったのを作っちゃおうかな。







「なんか、商人の修行って冒険者よりもスパルタじゃないか?」
「鑑定を得るためなら仕方ありません。それぐらい大変なのでしょう。戦闘で手に入るものとは知らなかったですが……」
「つーか神様の試練とか、未来の貴方が見てるとか、もろ神様の関係者じゃねーか。俺、神様の試練は受けなくていいなぁ……」
「そうですか? 私はそれが大商人になる為に必要な試練なら、ぜひとも受けたい」
「おっ見っけ」
「待って下さい。カザ師匠は言いました。初めの一匹を倒してから三時間が時間制限だと。ならば、ジャンピングラビットが百匹ぐらいいる場所じゃないと駄目です。それも、戦闘を起こさないようにすり抜けるように奥へ行かないと」
「ん、つまり効率を考えないと達成できないってことか?」
「そう……そうですね。求められるのは戦闘能力だけではないということですか。一撃与えた後にポーション全種って、普通に考えれば隙ができて攻撃されちゃいますしね」

 ベルンツハイムは走りながらも深く考えこむ。
 しばらく進み、ジャンピングラビットの沢山いる場所へと飛び込んだ。

「この辺ですか、互いに飲んでる間は援護しましょう。まずはガウルからどうぞ」
「おうっ」

 そして、二人は戦い始めた。幸い、二人は訓練をしっかりしていた。ジャンピングラビット程度なら倒した事もある。ただ、この数は初めてだった。
 ポーションを飲み干すと、力が湧いてくる。

『マジックショット!』
『猪突き!』

 二人のそれぞれの一撃は、ジャンピングラビットを確実に屠った。
 ガウルとベルンツハイムは、一匹一匹数えながら屠っていく。
 互いに庇い合い、援護し合いながら、戦う事一時間半。子供である彼らの体力が尽きようと言う時、ついに互いに五十匹の兎を倒した。
 すると、急に周囲が暗くなる。
 ガウルが不思議に思って上を見上げ、ぎょっとしてベルンツハイムの手を引いて逃げ出した。

「ガウル!? ……うわあ!?」

 ついで、地響き。天空から堕ちてきたのは、ジャイアントジャンピングラビット。
 こんな大きなジャンピングラビットを、二人は見たことがない。
 しかも、それが二匹である。

「神の試練……! マジか!」
「……! 時計の残り時間が一時間半から三十分になりました。どうやらそのようですね」

 戦うか、逃げるか? そんな確認さえ行わず、二人の小さな英雄は初期装備の剣を構える。特殊効果のポーションは既に使いきり、残るは赤ポーションが一つに青ポーションが二つだけ。
 それでも、二人は剣を振るった。

「うおおおおおおお!!」
「だあああああ!!」

協力して、一匹ずつ仕留めていく。一匹に使える時間は十五分。
 二人は、必死に戦った。
 必死に行動パターンを観察し、互いに助けあい、全力を尽くした。
 そして、ようやく倒せたと思った時、思わず二人はしゃがみ込む。

「ま、まだ三時間は経ってませんが、イベント時計は0を指しています。帰りましょう」
「お、おう……」

 なんとかガウルは体を動かして、アイテムボックスに入りきらず、はみ出た素材の数々を持参したカバンに仕舞っていく。
 それを見たベルンツハイムも、せっせとカバンに物を詰める。
なんとかギルドキーを開けると、二人、倒れこむようにギルドキャッスルの地面に横たわり、眠った。

「う……体が……痛くない……? 軽い……」
「うう……ですが、まだちょっと体が重いです……。軽いんだか重いんだか変な気分です」
「傷は治しておいたよ。さ、ご飯用意したから」

 にっこりと神崎彩海が笑っていて、地べたに眠った二人の体には神崎彩海の上着が掛けられていた。更に、その上着は赤ポーションで汚れている。

「うっわすみません、カンザキさん!」
「いいの、今日はたっぷり食べて、ぐっすり寝なさい。明日のお昼まで寝ていていいから、朝ごはんと昼ごはんは心配しないで」
「ありがとうございます」

 用意されたのは、異国の料理。味なんてどうでも良かった。美味しかったけど、それ以上に二人は腹が減っていた。
 ベルンツハイムとガウルは必死に食べ、眠りに落ちる寸前なのをなんとかこらえながら風呂に入り、そして泥のように眠った。

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