第10話 わらわは♂これで魔王をやめました(2)
先程、この広い謁見の間の入り口──。
大きな黒光りを不気味に放っていた観音扉の前まで、勇者見習いである一樹の肩に『ちょこん』と座っていた。たぬきの御老体が……。
そう、今の今迄、一樹が纏う黄金色に神々しく光輝くドラゴンをモチーフにした細工を施している甲冑へと狸変化していた筈の、たぬきの御老体が、自身の狸変化を解き──。一樹の目の先へと急に現れたのだ。
それもさ? 一樹が今から処理を始め、塵と灰に変えようとしていた麗しい魔王さまを、自身の持つ小さな身体で庇うように現れたのだ。
だから不思議で仕方がない……。
と、いうことはないね?
だって勇者見習いである一樹へと、泣き叫び狂乱しながら許しと命乞いをしていた。麗しい魔王さまは、自分の娘だと一樹に告げながら己の身を盾にする者だから。
一樹は当たり前の如く「えっ? うそ~?」と、驚嘆を漏らす。
そして? 勇者見習いである一樹へと許しを乞いながら命乞いをしていた麗しい魔王さまは、己の涙が流れるのを慌てて止めて──。一樹の漏らした驚嘆に続くように。
やはり彼女も驚愕した表情で「えっ? 本当にお父さまなのですか?」と、たぬきの御老体へと問いかけるのだ。