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行方

侑斗の話を聞いた、米満には疑問に思えてならない部分があった。

「仮に出産後に死亡をしたと考えて、じゃあ出産に至るまで、夫の樹は1975年3月31日に七ツ釜で投身自殺を図り、我が子の大光が生まれたとされるのは4月8日だ。その間に誰かしらサポートがあったはずだ、そして栄養不良や睡眠不足だけでは、妊婦は死に至らない。自然分娩における出血多量などが考えられるが、茉莉子が出産するまで恐らくだが小鳥遊が何かしらの形で絡んでいた可能性はあるんじゃないだろうか?茉莉子の両親が事件後行方をくらましたと同時に、誰のあてもなく出産するまで自力で生活をして行くのは誰がどう見ても難しい。小鳥遊の援助があったと考えたら、全ての話に納得がいく。その小鳥遊の嫉妬深い妻が他人様の子供を預かることに嫌気がさすというのも、仮にそうじゃなかったとしても、嫌なのは誰でも同じことだ。それを小鳥遊は分かっていてだから病院ではなく交番の前に置いたんだ。それを発見し保護をした警察官は”保護責任者遺棄”の罪に問えることが出来るからな。」

米満の指摘を受け、侑斗が話し始めた。

「俺が見たのはあくまでも俺の頭の中で見た映像をそのままお伝えしたに過ぎない。透視するということは、俺が与えられた資料や映像などを通して、過去に何があったのかを読み取り、それを俺の頭の中で見た映像を伝えた。それだけだ。恐らく小鳥遊が出産に至るまでは関わっているはずだろう。茉莉子の死因はあくまでも俺の推測にしか過ぎない。俺が透視をした限りでは、茉莉子は俺達の親父を出産して、パタッと力尽きたように息を吹き返すことはなかった。まるで、全てをやり尽くした、そんな死に様だった。だから俺の中では栄養不足や過労などが考えられたんだよ。大量の血が出ている様子などは見受けられなかった。」

侑斗なりの答えに、饗庭が答え始めた。

「死因がどうだったかはいま協議している場合などではない。茉莉子の遺体を見つけ引き上げたらわかる話だ。大事なのは、もう茉莉子はこの世の人間ではないという事だ。それから先だ。一体茉莉子の遺体はどこで眠っているんだという事になる。仮に茉莉子が旅立つまでを小鳥遊悟が見守っていたとしたらやはり全ての鍵を握っているのは小鳥遊しかいない。息子の譲がどれだけ知っているか、それしか頼る術がない。」

饗庭が強く主張すると侑斗に再度問い詰めた。

「茉莉子の亡骸は今どこにあるんだ?教えてほしい。」

饗庭の質問に侑斗が、「気を集中させてもう一度、今茉莉子の遺体がどこに眠っているのかを見てみる。」と話し、目を閉じ深く深呼吸をすると語りだした。

「茉莉子さん、僕と星弥のお婆ちゃん、そして俺達の親父である息子の大光のお母さん、今どこにあなたの肉体はあるのですか。教えてください。」

その様子を見ていた支倉が思わず「呼びかけたら茉莉子の霊が出てくるのか?」と饗庭に聞きだしたとき、饗庭は「今は黙ってほしい。透視中は気を集中して精神統一をしなければその人の行き場にはたどり着けない。今侑斗は、茉莉子の居場所がどこなのかを突き止めるために茉莉子の資料をかき集めている最中なんだ。気を散らすようなことを言ってはいけない。」と話すと、米満も饗庭の言葉を聞いて「わかった、なるべく黙っているようにする。」と話し、支倉も続けて「わかった。」と答えた。

侑斗が動かなくなって7分ほどが経過したころだった。

侑斗がようやく「話したいことがある。」と切り出すと、透視で映し出された映像を説明し始めた。

「茉莉子は息子を出産した後、力尽きてそのまま起き上がることも出来ず、我が子をこの手で抱くことも出来ぬまま、旅立ってしまった。横には泣きじゃくる小鳥遊がいる。小鳥遊は茉莉子が死んだと分かり、自らの手で育てることはできないと断念をした小鳥遊が考え抜いた答えは茉莉子が生前に書き綴った一筆を、生まれたばかりの胎児の体温が下がらないように予め用意しておいた毛布にくるんだ状態で、茉莉子が身を隠していた唐津市厳木町広瀬地区にあったかつての実家から生まれたばかりの胎児を連れだすと、小鳥遊はその足で最寄りの交番の扉の前へとゆりかごごと置いてきたんだ。茉莉子の遺体は、小鳥遊がゆりかごを置いた後に、行く行くは実名報道された末の悲劇であることを立証したいがために、小鳥遊が”失踪をした”と見せかけ、茉莉子が最期の地を過ごすことになった実家の庭なのだろうか。洗濯物などを干す物干しスタンドの下に大きな穴を掘り、そこに敷布団でくるんだ状態の茉莉子を穴に埋めた。今茉莉子がいるところは、深い、深い、水の中にある。物干しスタンドは撤収されて無くなっているが、茉莉子の遺体が埋められた場所には水草一つも生えていない。恐らくダムの底に今も眠り続けているのだろう。茉莉子は厳木ダムにいる。厳木ダムが出来てから”茉莉子”と綴った遺書とパンプスを置いた犯人は、茉莉子ではなく小鳥遊だろう。小鳥遊が亡き茉莉子を偲び、いずれニュースになって気にかけてくれることを祈って、わざと世間に向けて忘れかけていた茉莉子を思い出させるようなことをしたんだ。全ては小鳥遊の仕業だった。」

侑斗の話を米満は「やはり、茉莉子は厳木ダムで眠り続けていたのか。自殺ではなくダムが建築されるまでに死んでいたのなら、遺体が見つからないというのも理由としては頷ける。唐津署の饗庭君、君のお婆ちゃんだろ?引き上げられるよな?」

米満に振られた饗庭は深く考え込むような姿勢になり始めた。

そして重い口調でぼそぼそと語り始めた。

「茉莉子が厳木ダムにいる予感はしていた。米満が厳木ダムで撮影をしてくれた、あの遠くのほうで水面に映るロングヘアーの女性は、8mmフィルムの映像から見ても恐らく茉莉子だろう。茉莉子は白い靄がかった霊であるのは、既に成仏をしている証でもある。ただどうして水面を見ているのかとなるとそこに鍵が隠されている。それはすなわち、茉莉子は自分の遺体を引き上げるために、自分の遺体が眠っている場所はここなんだと指示しているということだ。」

饗庭が語ると、米満が撮影した厳木ダムの写真をもう一度見直し検証した。

「やはり茉莉子だろう。茉莉子は早くお墓に入りたがっている。俺も樹を埋葬した墓に茉莉子と、そして息子の大光を一緒に入れて埋葬してあげたい。茉莉子はそれを何よりも望んでいるだろう。この地で地縛霊になることなど、これっぽっちも考えていない。ただ、茉莉子の報道を機に自殺者が相次いだのは事実だ。危険なのは茉莉子ではなく、茉莉子を取り囲むようにダムで投身自殺を図った自殺者の御霊達が集団になって襲い掛かってくる可能性がある。そうなってくると今度ばかりは俺も命の保証はないかもしれない。」

そう語る饗庭に、支倉がそっと後ろから近づき答えた。

「饗庭、お前は潜らなくてもいい。陸地で俺達が無事安全に帰ってくれることを祈願してほしい。それだけだ。厳木ダムへ潜って調査を行うのは俺と米満のダイビング経験者で探すしかない。後は探索に使うためのボートや酸素ボンベなどを手配する。そして日程をいつにするか。それさえ決まれば、あとは遺体を見つけるだけだ。」

支倉がそう語ると、米満も話し始めた。

「俺もそうだと分かれば厳木ダムに潜って、茉莉子の遺体を探す手伝いをするよ。仕事にも繋がるし、安村編集長にも”厳木ダムに茉莉子は眠っていた”というスクープ記事を提出することが出来るからね。だから饗庭には、捜索に使うためのゴムボートと酸素ボンベの手配、それからあとは日程だね。いつ行うべきなのかという事を決めておいてそこから必要なものを揃えておこう。支倉は出張の予定などはないよな?」

米満の質問に支倉が答え始めた。

「ああ、今のところはな。でも急に決まったりして来週には別の基地へ異動しなければいけないこともあるからね。基本的には土日は仕事も訓練も無いから、土日であれば問題はない。後は米満次第だよ。米満のほうが俺より不定休で休みのスケジュールなんて決まっていないだろ?むしろ休みの日であれどみなし労働していることだってあるんだろ?俺は米満と饗庭の都合に合わせるよ。」

支倉の言葉に饗庭も答えた。

「俺は地域課で主に新しく引っ越してきた駐車場の許可申請だとか、或いはその人の免許の住所更新とかを、書類は警察事務の子が窓口で受け付けて書類の内容を確認して署長のハンコを押すとかそういうことをしているから、免許更新は基本的に平日しかしていないし、取り締まり強化のためのパトカーに乗り、標識や標示がある一時停止の場所を無視していないかどうかなどを植物の茂みや建物の壁に潜んで隠れ違反したと分かれば切符を切るとか、そういったことも大体平日に行っているから、土日は休みが多いよ。俺も米満に合わせるよ。」

2人の言葉を聞いた米満は返事をした。

「2人が土日しか休みが取れないのなら、俺も支倉と饗庭の都合に合わせるよ。俺のみなし労働なんて、リモートワークをしているのと大して変わらないからね。次の土日だったら、今日は3月6日だから、3月12日の土曜日に厳木ダムで茉莉子の遺体探しを決行しよう。俺も今週中はずっと茉莉子の取材を続けると決めた以上情報を収集しなければならないし、何だったらフェニックス・マテリアルの小鳥遊譲のところへ行き、2人の代わりに話だって聞いてあげることはできるよ。」

米満の提案に饗庭が「ありがとう。3月12日の土曜日に決まりだな。ところでお願いしたいことがあるが、その際は侑斗の社会見学のためにも一緒に連れて行ってあげてほしい。大学も春休みの期間に入って、侑斗が就職活動を迎え卒業するまでに社会人として知っておきたい知識を今のうちに学習させてあげたい。」とお願いをすると、侑斗は「何俺のことを小中学生の子供みたいな言い方をしているんだよ!俺だって大学1年生だよ!4月になれば大学2年生になって、9月9日の誕生日で俺は20歳になって立派な大人になるんだよ!俺だって小遣い稼ぎで霊障に悩む方々のところに行っては楠木先生の助手として俺も同行して御祓いをしているから、社会がどうなっているか嫌でもわかっている!」と反論すると、饗庭が答えた。

「そういうことじゃない。望月兄弟の子孫だと分かれば、小鳥遊社長もきっと何か動くに違いないだろう。それこそ、茉莉子の死に小鳥遊が関与をしているという事であれば、悟が死ぬ前に息子の譲に何かしらの伝言を伝えて旅立った可能性も捨てきれない。」

兄の説得を受け、侑斗が渋々「わかったよ。でも俺もどうせ兄貴と同じ警察官の道だろうけどな。」と皮肉って答えると、饗庭は「仕方ない。」と答えるしかなかった。

米満は饗庭の言葉を受け、「わかった。侑斗君も同行してくれるのであれば、そのほうが話は早い。ひょっとすると小鳥遊社長もわかることがあるかもしれない。侑斗君の連絡先を早速だが交換したい。」と話すと、米満と侑斗はその場でLINE交換をした。

「あとは小鳥遊社長と俺で取材を受け入れてくれるか否かのアポイントを取る。」

米満がそう話すと、次の質問をした。

「ところで今日俺が支倉と共に来たのは、饗庭。俺に悪いものが憑いているから御祓いするから来てくれってことじゃなかったのかな?忘れていないか?」

饗庭が米満に「わかっている。そのために急遽だが侑斗を呼んだんだ。心の準備は出来ているか?」と訊ねられ、米満は「わかっている。」と答えると、侑斗は「気を集中して心を無にした状態で、じっとしていてほしい。何も考えずじっと前だけを見てほしい。」とお願いをすると、米満は「わかった。」と答えると座ったままの状態でじっと動かなくなった。

侑斗の指示の元、米満がじっとし始めて5分ぐらいが経った頃だろうか、ずっと動かず何も考えることも出来ずというのが次第に辛くなってきた。

その時だった。

饗庭が答えた。

「米満、体調のほうはどうだ?しんどくなったか?」

饗庭の問いに米満は「ああ、大丈夫だ。早く祓ってほしい。」とお願いをすると、饗庭が米満の左肩を、侑斗が米満の右肩を左手で触り始めると、右手に数珠を持った状態で2人で口を合わせるようにして御祓いの御経を唱え始めた。

御経を唱えると同時に、米満の中に潜んでいた何かが目覚めた。

米満の表情は段々と目が真っ赤になり、顔の色も血の気が引いており、この世の者とは思えないほどの、醜い表情と化していた。

支倉は次第に表情が変わっていく米満を見て言葉が出てこなくなり凍り付いた。

「米満に憑いている者に聞く。名前を教えよ、そして米満の肉体から離れ、俺達の前に姿を現しなさい。」

粘り強く交渉を続けているうちに、米満は座っていた椅子から倒れてしまった。

そして、2人による御祓いを受けて

饗庭が話しかけると、米満の表情は次第に元の姿に戻っていく。

米満がハッとなって辺りを見回すと、ベッドの上で寝ていた。

「気絶をしていたよ。米満に憑いていたのは一時的に姿を消したに過ぎないが俺と悠との二人で何とか呪いから解放をすることは出来た。ただし俺から一つ注意をしなければいけない。これはあくまでも一時的な措置にしか過ぎない。完全に米満の前から姿を消したわけではない。今後米満の持つお清めの塩を決して現れた霊への攻撃の武器として使ってはいけない。返ってその他にいる霊達の刺激を招く結果にもなる。襲われても決して自分の弱みになるような悩みのネタは考えず生きるために抵抗する行為だけを示しなさい。米満、約束はしてくれるよな?」

饗庭の言葉に米満は静かな口調で「わかった。」と言って返事をした。

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