《閑話 聖女になった高校生の思い》
この世界に召喚されて数時間。
あてがわれた個室で独り、カレンは先程の出来事を回想していた。
(見下すなんて、そんなつもりじゃなかったのに。)
突然見慣れぬ場所にいた。
説明によると異世界召喚されてしまったようだ。
隣には同じく召喚されたと思しき、みすぼらしいジャージ姿の中年男性。
どうやらここの言葉が理解できないらしい。
通訳すると丁寧なお礼が返ってきた。
ステータスチェックでは、私は聖女。
一方彼は、魔法なし、スキルは1つ、しかも呪われているようだった。
そんな”哀れな”オジサンがカワイイ猫と楽しそうにおしゃべりしていた。
聞いてみると白を切られた。
許せない。そんな感情が全身を支配した。
無意識だった。
気がついたときにはオジサンを大声で非難していた。
その場の空気が変わり、同時に召喚された他の高校生3人がオジサンに敵意を表し始めた。
その状況に私も影響されたのかもしれない。
彼に隠し事など許されない、そう強く思うようになっていた。
彼は唯一のスキルもどうやら使用できないらしい。
そんな人物が何かを隠している。
あのカワイイ猫ちゃんに関する秘密だ。
こんなオジサンがカワイイ猫ちゃんを独り占め?
許せない。
そう思っていると、彼から意外な言葉をかけられた。
「一緒に行動するとは限らない」
何を言っているのだろう、この人は。
”無能なくせに”
言葉にこそしなかったが、そう思った。
次の瞬間、捨てゼリフにも似た別れの言葉と共に彼は姿を消した。
「え?」
言葉にならなかった。
消えた?
どういうこと?
特殊能力?
こんな能力を隠していたの?
でも彼は無能ではないの?
そんなことが頭の中で渦巻く。
ふと彼の最後の言葉が頭をよぎる。
「人を見下し差別したことにより、味方だったはずの人からの折角の助力を得られなくなった、なんてことにならなければいいですね。」
そういうことか。
私は”味方だったはずの人”をひとり失ったんだ……。
凄い能力を隠し持つ彼は、もう私を助けてくれない……。
偉い人にたてついて返り討ちにあい、鉱山で強制労働させられることになった勇者佐藤。
手当たり次第に人を鑑定眼で覗き、不敬罪で独房に入れられている賢者鈴木。
周りに文句や不平不満を言うだけで何もしないため、”特別奉仕作業”をさせられている踊り子田中。
表向きどんなに凄い能力があろうとも、全く頼りにならない”仲間”たち。
一見豪華な監視付きの個室で独り、カレンは
表面上は無能ながら、逃げ出すことができる能力を隠し持つ”大人”に見放されたという喪失感と後悔の念に駆られながら、
周りに誰一人頼れる者のいない異世界での日々に不安と孤独で押しつぶされそうだった。