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神界

 1
 光が収まり、花音は眩しさから閉じていた目を開ける。
 そこには、見たことのない風景があった。
「ここは……?」
「神界だ」
 呟いた声が聞こえたのか、千歳が返してくる。
 その時、紅牙と蒼牙の声が聞こえてきた。
「黄兄!?黄兄がいない!」
「さっきまで一緒にいたのに!」
 その言葉に、花音は仲間達の姿を確認する。
 二人が言うように黄牙の姿はない。
 だがいないのは彼だけでなく、二人の風夜と沙羅、朔耶の姿もなかった。
「風夜達は?」
 呟くと、花音達を連れてきた軍人の男がフンッと鼻を鳴らした。
「ここは神界なのだぞ。敵である魔族を連れてくる訳がないだろう」
「てことは、俺達の世界に残ってるってことか」
 確認するように夜天が言う。
 それに僅かにだが頷いた男に、花音はほっと息をつく。
 仲間として受け入れてもらえないのは少し寂しい気もしたが、別の場所に飛ばされてしまった訳ではないということがわかり、安心できた。
「何をしている?行くぞ」
「行くって、何処にだよ?」
「中央に決まっているだろう」
 光輝にそう答えた男に、千歳、昴、星華が顔を見合わせる。
「中央って、そんな勝手に……」
「勝手ではない。総長からの命令なのだからな」
 声を上げた星華に、男は言って、花音達に背を向ける。
「いいから、ついてこい」
 そして、そのまま歩きだした。
 軍人である男について、神界の中央へと花音達がやってきたのは、少し経ってからだった。
 最初に到着した場所も綺麗なところだったが、中央区は更に空気も澄んでいて、神聖な雰囲気もあった。
 街の中心には塔があり、どうやらそこに向かっているようだった。
「着いたぞ、ここだ」
 数分後、予想していた通り、塔の前で男は立ち止まる。
「少し離れたところから見てても、凄く綺麗だと思ってたけど……」
「近くで見ると、本当に綺麗だね」
 見上げていた花音の耳に、琴音と美咲のそんな声が聞こえてくる。
 それは花音が思っていたことでもあった。
 2
「……この塔は、五つの層に分かれている。下から軍の様々な施設、神界軍本部、王族に連なる方々の住居、神子の住居、そして神帝の居られる場所だ。この内の神界軍本部に用がある」
 そう言い、中に入っていく。
「軍本部ね……。一体、何をさせるつもりなんだか。蘭ちゃん達は関与してないみたいだし」
「どうしてそう思うの?」
 男と少し距離が開いた時、呟いた神麗を花音は見る。
「なんとなくよ。それに蘭ちゃん達なら、その三人に頼むでしょうから」
「おい!何してる!さっさと来い!」
 神麗が千歳達を指しながら言った時、男の苛立ったような声が聞こえてきた。
 塔の中に入ると、軍の本部に繋がっているという装置に乗せられ、上へ上っていく。
 そして着いたのは、軍人達が行き交う広い通路が奥へと続いている場所だった。
「……この奥に、軍の総司令部がある。そこで総長がお待ちだ」
 その言葉に花音は思わず息をのむ。
 風の国を取り戻す前、一度だけ会った時のことを思い出し、緊張せずにはいられない。
 通路を擦れ違う軍人達の視線を感じながら、前を歩く男についていく。
 男が止まったのは、大きくて丈夫そうな扉の前だった。
「さぁ、入れ」
 扉を開けて、男が言う。
 男の言葉に花音達が中に入ると、中にいた者達が一斉に振り返る。
 そこには、総長、副総長の他、神蘭達の姿もあり、彼女達は花音達を見て驚いているようだった。
「なっ!?どうして、お前達がここに!?」
「私達が連れてくるよう言ったのよ」
「母上!何故そんなことを?」
「魔族達は、合成獣達の残りを呼び寄せて、戦力を上げている。それなら、此方もそうしなくては」
「ですが!」
「何も前線に立たせようというわけではない。ただ、聖羅様や中央塔の守りにはついてもらうが」
 次々と声を上げる神蘭、封魔、鈴麗に総長はそう返した。
 3
「すまないな。まさか総長達がお前達をこの世界に連れてくるなんて……」
 総長達がいなくなり、神蘭がそう声を掛けてくる。
「ああ、うん……、気にしなくていいよ」
「でも、この塔を守るのはともかく、そいつを守るっていうのはどういうことなんだ?」
「ちょっ……、光輝……!」
 少女を指で指した光輝を見て、花音は慌てる。
 護衛をつけようとしたり、敬称を使っていることから、身分が高いことがわかる。
 その為、無礼とも思われるような態度をとった光輝に、気が気ではなくなったが、少女は気にしていないというように笑っていた。
「ふふ、気にしないで。私は聖羅。この神界の神子をしているの」
「神子?」
「なんだ、それ」
「お姉ちゃんって、偉い人なの?」
 首を傾げる風華、紅牙、蒼牙に聖羅は再び笑う。
「まあね。一応、この世界を治めている神帝の次に偉い地位かしら」
「……成るほど。それだけの地位なら、守られる立場でも無理はないか」
「……でも、皆が私を守ろうとしている理由は、それだけじゃないわ」
 呟いた夜天に聖羅はそう言うと、少し寂しげな表情をした。
「……私は、あまり魔族達相手に力を使う訳にはいかないから。あの女が出てくるなら、力を温存しておかないと」
「あの女……?」
 首を傾げると、神蘭が口を開いた。
「そういえば、まだ話していなかったな。……花音、お前達と別れて神界へ戻ってきてから、此方でもわかったことがある」
「窮姫達の後ろにいる黒幕……、それは黒姫って女だ」
「まぁ、まだ直接対峙したことはないけどな」
 龍牙が言った後、白夜が肩を竦めた。
「……そう。まだ情報は少ないの。だから、私はその女が出てくるまで、余計な力を使う訳にはいかないのよ」
 そう言った聖羅は、花音達に頭を下げた。
「本当なら、これ以上巻き込んではいけないんだろうけど、……どうか協力してください。お願いします」
 その言葉に花音は光輝達と顔を見合わせる。
「私達からも頼む。出来る限りは私達で行うようにはするが、どうしても手が足りないこともあるだろうからな」
「ううん、私達も今まで神蘭さん達に沢山助けてもらったから。お互い様だよ」
「……そうか。そう言ってもらえると助かる」
 花音の言葉に、神蘭は顔を綻ばせた。

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