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26.嫌われようとも

 攫われたルリアは、領主の部屋で手足を縛られていた。
 隣には領主が居て、武装した人間と魔族数名に挟まれている状態である。

「くそっ、離せよおっさん!」

「黙ってろ小娘! あの男が来る前に殺されたくなければな」

「馬鹿じゃないの? あいつが来るわけないじゃん」

 私はあいつが嫌いだ。
 だからいっぱい嫌がらせしたし、悪口ばっかり言ってきたんだ。
 きっとあいつも私が嫌いになってる。
 助けなんて……来るはずないだろ!

「来たか」

「えっ……」

 領主達が立て篭もっていた部屋の扉が開いた。

「ようルリア、無事みたいだな」

「何で……」

「ようこそ勇者殿! ここへ招くのは二度目だね」

「くそ領主……やっぱり黒だったかお前」

 どうやって俺のスキルを掻い潜ったんだ?
 俺のスキルに間違いはない。
 洗脳されていた……わけじゃなさそうだし、記憶改ざんでもされてたのか。
 もしくはまったくの別人か、まぁどっちでもいいか。

「覚悟はできてるんだろうな?」

「それはこちらのセリフだよ」

 周りの人間が武器を構え、魔族がニヤリと笑う。
 俺も臨戦態勢をとろうとした。

「何で……」

「ルリア?」

「何で助けに来たんだよ! 馬鹿じゃないのかお前!」

「ちょっ、何で怒ってるんだよ! 助けに来たに決まってるんだろ?」

「助けてなんて頼んでない! それにこの状況だぞ! 来たらどうなるかわかんないのかよ!」

「うるさいぞ小娘!」

「きゃっ!」

 領主がルリアの頬をぶった。

「ルリア!」

「人質は人質らしくしおらしくしおれ」

「てめぇ……」

 倒れこんでしまうルリアを見て、俺の頭に血が昇り始めた。

「そんなに怖い顔をしても無駄だ。それより、もう一人の姿が見えないが……もしかて、モルクに殺されてしまったかな?」

「……」

「これは申し訳ない。彼には殺さないように言っておいたのだが……殺すならせめて、同じ場所で殺してあげたいと思ってね」

「ご配慮痛み入るねぇ~」

 後ろの扉が開き、数人の武装した人間が入ってきた。
 さらに、特殊なマントで透明化していた魔族たちが姿を現し、俺は完全に囲まれている状態になってしまう。

「に、逃げろよ!」

「いや無理だろ、この状況……」

「その通りだ。さて、最後に言い残すことはあるかね?」

「ない! 最後にはならないからな!」

「そうか――残念だよ」

 領主が合図をする。
 人間は弓を構え弦を引き絞り、魔族は魔法陣を展開させる。
 矢と魔力エネルギー弾が一斉に発射され、俺の身体を傷つける。

「ぐっ……」

「ほう、耐えたかね。では次だ」

 もう一度合図をする。
 再び同じように弓と魔法で攻撃され、体中から大量の血が流れていく。
 矢が肺に刺さった所為で呼吸がしにくい。
 魔力エネルギー弾が当たった場所が抉られ、もうすぐ骨まで見えそうだ。

「はぁ……ぐっ、ごぁ!」

「中々耐えるじゃないか」

 領主も、周りの人間と魔族も、みな遊んでいた。
 勝ちを確信した笑みと驕り……それらが崩れ落ちるまで、あと少しだ。
 そして、その中でただ一人、悲しそうに涙を流す物がいた。

「何で……私、嫌なこといっぱい……」

「そうだな……お前は、俺が嫌いなんだよなぁ……」

 俺は激痛の走る身体を無理やり起こし、ルリアに顔を向けた。
 彼女の顔は涙でぐしゃぐしゃだった。

「何て顔してんだ……。いいか、よく聞けよ? お前は今の俺に残された……数少ない守りたいものの一つなんだよ。嫌われてようが知ったことじゃねぇ……勝手に死ねると思うな」

「……ルーク」

「何だ……初めて名前を呼ばれたな」

「そうかそうか! あの世へ持っていく良い土産ができたようで、実に喜ばしいことだ!」

 領主が三度合図をする。
 矢と魔法が嵐のように俺へ降り注ぎ、無残な姿をさらしたまま倒れこむ。

「ルーク!!」

「ふっ、終わったか」

 倒れこんだ俺からは、洪水したように血が流れていた。
 身体には矢が何本も刺さり、腹や脚の肉が抉られてる。
 どこからどう見ても、俺は死んでいた。

「さて、君も後を追わせてあげよう」

 領主がルリアのほうを見る。
 一歩近づいた瞬間、一人の男が苦しみ始めた。

「ぐっ……あぁ……」

 バタリと倒れこむ。
 その後、ドミノ倒しのように次々と男たちが倒れていった。

「なっ、何だ! 何が起こっている?」

 苦しみだして倒れていく男たち。
 さらに魔族まで倒れていって、最後は領主一人だけが立っている状態になった。
 そしてもう一人――立ち上がった男に気付く。

「なぜだ……なぜ君が立っている!」

「ルーク!」

 俺は立ち上がった。
 矢を身体から生やし、肉を抉られた状態で立ち上がった。

「ったく酷い奴らだな……躊躇なく打ち込んできやがって……」

「その傷でどうやって……いやそれよりこれは何だ! まさか君がやったのか?」

「俺以外に誰がいるんだよ? 『等活』――俺のダメージを与えた相手に返した。だから皆苦しんで倒れた。お前は何もしてないから平気だろうけど」

 俺は刺さっている矢を自分で抜いた。
 全部抜き終わったところで、傷口が青白く燃えて回復していく。
 これは地獄巡りを終えて身に付いた不死属性の力。
 死んでも生き返って肉体が再生するんだ。

「く、来るな!」

「どうした? さっきまで余裕たっぷりだったのに、冷や汗ダラダラだな」

「来るなと言っているんだ! この娘がどうなってもいいのか!」

「良いわけないだろ? さっさと離れろ。さもなくば、即座に首を刎ねるぞ?」

 俺の言葉と視線に、思わず領主は凍り付いてしまった。

「あーそうだ。一応教えとくけど、地下に隠れてた魔王軍なら、俺の相棒に全滅させられてるぞ?」

「なっ、なぜそれを……」

「この屋敷に入った直後、地下から魔族とか魔物の気配を感じたんでね。プラムに殲滅を頼んだんだよ」

 一度目に来たときはまったく感じなかった。
 不思議なことに、さっきはとてもハッキリ感じられたよ。
 何か特殊な道具でも使っていたのかな。

「信じられないなら確かめてみれば? 何か連絡手段あるなら使ってみろよ。まぁ、聞こえるのは小生意気な神祖の声だけだろうけど」

「誰が小生意気じゃ!」

 ツッコミと一緒に、プラムが窓ガラスを破って入ってきた。

「げっ、聞かれてたか」

「うむ、ハッキリと聞いたぞ? 後で覚悟しておれ」

 おー怖い怖い。

「さて、どうする?」

「……うっ……うわあああああああああああああああ」

 領主は叫びながら逃げ出した。
 俺が入ってきた入り口とは別で、隣の部屋に通じる扉があったらしい。
 そこへ一目散に駆け込んだ。
 

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