バナー画像 お気に入り登録 応援する

文字の大きさ

15.痛み分け

 にらみ合う俺たちとデュラン。
 後ろには俺のスキルに耐えて生き残った魔王軍の兵がいる。
 奇襲に成功して三分の一は減らせたのだが、それでも尚、魔の軍勢は地平を埋め尽くしていた。

「プラム、さっきので剣って作れる?」

「まさか、デュランと剣で戦うつもりか?」

「そのつもりだよ。大丈夫、考えはあるから」

「……いいじゃろ。ほれ」

 プラムは剣を生成し、俺の前に突き刺した。
 俺はそれを引き抜き、デュランに向かって構える。

「さて、ワシは後ろの雑兵共と遊んでいるかのう」

「ああ、頼むよ」

 プラムは俺の隣から移動した。
 そしてデュランは黙って見ているだけで動かなかった。

「いいのかよ? 行かせちゃって」

「構わない。むしろ貴様を殺した後で、大群と戦い消耗した奴と殺したほうが楽に終わる」

「なるほど、卑劣な考えだな」

「戦略と言って貰おうか? さぁ、かかってくると良い」

 デュランは腰に携えた剣に手をかけた。
 ゆっくりと抜いた刃は、禍々しいオーラを纏っていた。

◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇

 デュランをルークに任せたワシは、少し上空から大群を見下ろしていた。

「うむ、中々に絶景じゃのう」

 滅ぼされた街を埋め尽くすように、魔物や魔族たちがうごめいていた。
 まるで大量の虫が集まっているようで、人間が見れば背筋の凍る光景だろう。

「ほぉ~ 大きい奴に動きの速い奴、あと異様に硬いのまで揃っておるな。よいよい……これは実に愉快じゃ」

 ワシは大きく空気を吸ってから、なるべく長く吐き出した。
 肺の中に残った空気を全て吐き出すように、最後の最後まで吐ききった。
 そして――

「よし」

 ワシは大群のど真ん中に突撃した。
 衝撃で地面がバキバキに割れ、風圧で弱い魔物は吹き飛んでいく。
 その後、耐えた魔物たちが襲い掛かってきた。

「串刺しの刑じゃ」

 ワシを中心にした周囲に、赤黒い棘が大量に出現し、向かってきた者共を串刺しにした。
 これがワシの能力の一つ。
 ワシは自らの血を自在に操ることができる。
 さらに鏡や剣を作ったように、自分の血を複製することで、操れる血を増やし効果範囲を広げている。

「ちと骨が折れる数じゃが、三百年のブランクを解消するにはもってこいじゃろ」

◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇

 俺には剣の才能がなかった。
 勇者パーティーに選ばれてから訓練はしたけど、自分でもわかるほど無様だ。
 そんな俺が、罪人と争い続ける拷問で手にしたのは剣だった。
 最初の数十年間はボロボロで、俺の剣は誰一人殺せなかったよ。
 だけど、十年百年と続けていくと、不思議なことに俺でも剣で戦えるようになっていた。
 どれだけ才能がなくても、五百年も剣で戦い続ければ、それなりに成長できるらしい。
 今の俺なら、王国の騎士としても働けそうだ。
 しかしまぁ――

「はぁ……うっ、ぐ……」

「ここまでだな」

 どれだけ経験を積んでも、どれだけ努力しても、結局俺には才能がなかった。
 戦闘が開始されて十分ほど経過しただろう。
 全身に複数の斬撃を浴びたことで、才能の違いというものを改めて思い知らされた。

「私に剣で挑んだ度胸は認めよう。だが、残念ながらその程度では、私に傷を負わせることはできない」

 デュランの身体には傷一つ付いていない。
 それに対して俺は、右の肺がざっくりと裂かれ、内臓も損傷して吐血している。
 左わき腹は抉られているし、全身の至る所に骨折もある。
 足元には、傷口から流れ出た大量の血が溜まっていて、文字通りの満身創痍だった。

「くっそ……高々五百年ぽっちじゃ足りなかったかよ……まぁでも――」

 これで準備は完了した。

「貴様はよく戦った。その傷に出血量、意識を保つのも限界のはずだ。痛いだろう……苦しいだろう。わかるぞ、だから今……楽にしてやろう」

 デュランは無警戒に近寄ってきた。
 満身創痍の俺にトドメをさそうとしている。
 自らの勝利を確信していた。
 そんなデュランを見て、俺は不敵に笑った。

「わかるねぇ……」

「何を笑っている……」

 デュランは立ち止まった。

「お前……今わかるぞって言ったよなぁ? 俺の……痛みと苦しみがぁ……わかるって言ったんだよなぁ? だったら、当たってるか答え合わせをしようぜ」

「貴様……一体何を言って――」

「『等活』」

「っ――!?」

 突然デュランが片膝をついた。
 握っていた剣を離し、胸を押さえて苦しんでいる。

「がはっ……なっ、何だこれは……」

 鎧の隙間から、大量の血が流れ出ていく。

「貴様何を……何をしたぁ!」

「言っただろ……答え合わせをしたんだよ。お前が俺に与えたダメージを、そのまま返してなぁ!」

「なっ、返しただと?」

「そうだぜ。これで俺の痛みがわかっただろ?」

 第一のスキル『等活』は、呪詛返しのスキルだ。
 相手から受けたダメージを、そのまま返すことができる。
 このスキルを発動させ、俺はダメージを返した。
 ちなみに返すのはダメージだけなので、仮にこの状態で俺が回復してもデュランは回復しない。

「くっ……」

 デュランは立ち上がろうとて失敗した。
 今の彼は、呼吸器官と消化器官が損傷し、肉の一部が抉り取られ、腕や脚の骨も折れている。
 そんな状態で立ち上がるなど、いくら悪魔でも困難だった。

「どうだデュラン……予想より痛くて苦しくて……満足に動けないだろう?」

「……だがこの状況、貴様も手出しはできないのだろう?」

「まぁな……あいにく俺も動けそうにないよ」

 当たり前だ。
 俺だって全身ズタボロ状態なんだし。
 痛みには慣れてるから耐えられるけど、動こうも身体が言うことを聞いてくれない。
 互いに動けず痛み分けの状態である。
 だから――

「後は任せた……プラム」

「了解じゃ」

「なっ――」

 彼女の声が聞こえた直後、デュランの視界の上下が反転した。

しおり