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93話 仲がいいですね

 イングヴェイ工房。イングおにいが独立して、迷宮街に開いた工房。
 イングおにいは1級鍛冶師だけど、別に四六時中金槌でカンカンやってる訳じゃなくて、各種細工や制作物一般、手広くやっている。中でも得意なのが武具や装備品。最近はエルフで1級錬金術師のコルセアさんが仕事のパートナーになっているみたいで、二人の合作はすこぶる評判がいい。しかも値段は良心的だし。ただし、高圧的だったり感じが悪い客には死ぬほど吹っかけて心をへし折ってるらしい。主にコルセアさんが。

 それで迷宮帰りのあたし達は、ヒメとレン君の装備の採寸の為に工房を訪れている訳なんだけど……

「ラーヴァさん! 今日拾ったこの吸魔の剣と、この借りているオークキングの大剣、交換してくれないかな?」
「うん、別に構わないよ? どっちみちその剣は予備に持ってただけだし、別にあげちゃってもいいんだけど。」
「いや、ただで貰う訳にはいかないよ」
「ふふふ、そうかい? ならインギーさんが君のカタナを打ち終わるまで、その吸魔の剣は貸しといてあげるよ。でも、大剣よりは使いやすいけど魔法剣は使えないからね?」
「おお、ラーヴァさん、さすが話が分かる! つー事でイングさん! カタナ打って!」

 お姉ちゃんの了解が取れた所でオークキングの大剣をイングおにいに手渡すレン君。要は、今まで使っていたオークキングの大剣をカタナってやつに打ち直して貰うんだけど、その大剣はあたし達の持ち物を貸していたわけで。
 だから、ハイ・ゴブリンからの戦利品である吸魔の剣とオークキングの大剣を交換して欲しいっていう話。なんだか嵐の様に話が進んでいくなぁ。

「構わねえが……ワキザシは後回しでいいのか?」
「うん、取り敢えずはメインのが欲しい。剣術勝負で負けちまったから鍛え直したいけど、どうせなら変な癖がつく前に自前の武器で修行したいしね」
「よし、分かった。とびっきりの紛い物(・・・)を打ってやる。お前さんは愛刀の銘でも考えておくんだな」
「ああ、ありがとう。よろしく頼むよ」
「それとほら、お前さんが言ってた例のモノとカタナのモックアップだ。確認してみてくれ。カタナの方は特にサイズや重さ、バランスなんかを詳細にな。」

 イングおにいがぽいぽいっとレン君に投げ渡したのは、大小二本の木剣? と言うには少し珍しい形のものと、手を握って人差し指だけ伸ばしたような形をした木のおもちゃかな?

「へえ~、流石、良く出来てるなぁ~」

 受け取ったレン君は感心する事しきり。

「ちょっと素振りとかしてくる!」

 なんて言って外に飛び出して行っちゃった。子供みたいね。ヒメなんかまるで慈母の微笑みで見送ってたわよ。

 そして暫くして……

「ちょっ、レン! どうしたの!? キャーーーッ!! 痣だらけ! ヒール! ヒール!」
「ははは……ただいまぁ……」

 ボコボコになったレン君が戻って来た。どうしたのかしら?

*****

 いや、外で素振りしてたらさ、絡まれたんだよ。初めてこの迷宮街に来た日、ギルド支所でアイギスを虚仮(コケ)にしたヤツいただろ? あの野郎が仲間と一緒でさ。ちなみに全部で五人な。
 んで、なんやかんやと模擬戦をやる運びになった訳だ。一対五で。ギルド支所の訓練場でセラフさん立ち合いの元でだ。

 結果、全員のしてやったけど、俺もこのザマだ。こんな事ならオークキングの装備着てくりゃ良かったぜ。採寸の時に外したままだったんだよな。

「レンさん、大丈夫ですか? 随分と無茶をしたようですが」
「あー、ハイ。大丈夫っす。俺よりそっちで転がってる奴らの方が酷そうですけど」

 俺も結構やられちまったが、五人の方はさらに酷い。重傷といっていいレベル。まあ、仕方ねえよな。身から出た錆だ。これが実戦だったら命はないトコだ。有難く思え。

「ああ、彼等なら暫く放っておくのでお気遣いなく。これに懲りて少しは人間としてのレベルが上がってくれればいいんですけどね。カスが群れていい気になって、最近また目に余るようになってきていたので、そろそろ制裁が必要かなーと思っていた所なんですよ」

 セラフさんは相変わらず、ああいったチンピラ紛いの冒険者には辛辣だな。深読みすればその群れたカスに大苦戦した俺もまだまだって事を言いたのかもしれないけど。

「レンさんは魔法使えましたよね? なぜ使わなかったんです?」

 そう、俺は五人相手に魔法なしの縛りプレイをした。相手を舐めての事じゃなくて、自分が剣だけでどれくらいやれるのかを推し量るため。それに……

「俺、まだ未熟なんでうまく加減が出来ないんすよ。魔法は相手を殺す時かハッタリで通すか、どっちかの時ですね。魔法使ったらあいつら一秒で即死です」

 という理由もある。

 でも、ちょっと見えて来た気がするんだ。俺の目指す方向性が。
 こっちに来て身体能力が上がっている今の俺なら、多分行けそうだ。やっぱ人間痛い目に遭うと学習するもんだな。

 ……と思ってた俺だけど、工房に戻って全く学習していない事を思い知らされた。

*****

「……というわけで、五人相手に模擬戦やってこのザマです」

 ああ、あの冒険者の人が仲間を作ってねえ……

「もう! またレンはそうやって心配ばっかり掛けて! もう知らない!!」

 と、ヒメは立て続けに怪我を負うレン君にお冠。この子、ホントにレン君の事好きなのねぇ。レン君はペコペコしっ放し。

「わかった! 分かったって! 次からは怪我しねえように強くなるから!」
「うう……そうなんだけど何かちがーう!!」

 そんな感じで痴話喧嘩を続けるレン君とヒメに、お姉ちゃんが悪魔のような微笑みを浮かべながら言った。

「レン君はワザと怪我をしてヒメの膝枕で介抱して貰いたいんじゃないのかい? ヒメはご機嫌斜めみたいだからボクの膝を貸してあげようか? ほら!」
「なっ!? ちがっ!」
「やーっ!! ダメです! それはダメなんですっ!! ほら! レン! 私の膝! 空いてます!!」

『ふにゃ~お』

 あら、アイギスは欠伸なんかして退屈なのね。よしよし。お昼寝しようか。

 ヒメが自分の膝をぽんぽん叩いて促すものだから、アイギスがヒメの膝に顎を乗せて寝始めちゃった。あははは!

「ええ~??」

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