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67話 勇者を造る。業の深き事。(後編)

「スキルを奪われた人間ってのはどうなると思う?」

 レン君の問いに答えられる人は誰もいない。そもそも、スキルを奪うとか譲り渡すなんて話自体、そう簡単に信じられないし。

「帝国は表向き、スキルを譲渡した異界人には生涯の生活を保障し、戦場に立つ事も強要しないという条件を出した。戦場に出る事を嫌う異界人は多いんだ。多くの異界人はその条件を飲んだ。そしてスキルを奪われ――」

 レン君は、一旦そこで言葉を切る。その瞳は憎悪か怒りか。とにかく、負の感情が燃え盛っているように見えた。
 
 パチパチと、薪が爆ぜる音だけが森に響き渡る。

 そして、彼は重々しく口を開いた。

「……廃人になる。文字通り、息をしているだけの存在だ」

 ――!!

「そして、廃人になった連中はそのまま放置される。衰弱して死ぬのを待つだけだ。そして、朽ち果てていく」

 さすがにこれには言葉を失ってしまう。だってそれじゃあ詐欺だよね!? 望んでもいないのに連れて来られて騙されて……

 でも、この後更なる驚きが待っていた。

「そして、俺も召喚された異界人の一人だ」

 ……え?

 レン君が異界人!? 確かに珍しい黒髪と黒い瞳だけど、それ以外はあたし達と何ら変わらないように見える。
 
 レン君の話では、彼の世界にも色んな国や人種が存在していて、髪や瞳、肌の色なんかもバリエーションに富んでいるらしい。その辺はこちらと同じだと。

「一口に異界人と言っても、様々な国から集められているらしいんだ。俺みたいな黒髪も何人かいたが、それ以外の連中もたくさんいたよ」

 そして黒髪の――レン君と同じ国から連れて来られた内の何人かは、皇帝に胡散臭いものを感じて逃げ出しているそうだ。

「無事に逃げ切れたかどうかは知らないけどな」

 レン君がそう後付けした。実際に彼は追手を差し向けれている。逃げた人達が無事だとは言い切れないよね。

「なぜ、君と同じ黒髪の……同郷の人達でいいのかな? その人達は逃亡するという選択肢を選んだんだい? 召喚された時点では、帝国の企みなど分からなかっただろう?」

 そうね。メッサーさんの疑問はあたしも思う。胡散臭いと感じたのはなぜなのかしら?
 その疑問に対してレン君は少しの間を置いて再び話し始めた。

「俺達の国には、こんな風に、異界へ勇者として召喚される物語ってのが結構あるんだ。その物語にはストーリーにいくつかパターンがあるんだが――」

 国が主導で勇者召喚した場合は、高確率で己の野望の為に勇者を利用しようとする。国の為に戦いを強制する。モノで釣る。女で釣る。名誉で釣る。如何にして勇者を自分の手駒として使うか。
 その物語を知っている人達は逃げ出した。レン君から見ても、皇帝の言葉は怪しかったという。

「まあ、俺から見てもいかがわしさ満点だったからな、あのおっさん。お題目は、魔王から人間を救う為に勇者として戦って欲しい、云々。けど、信じろっつっても無理だぜ、ありゃあ。何しろ、道具を見るような目をしていたからな」

 ここまで聞くと、さすがのあたしもお父さんの話とは無関係じゃなさそうって事に気付く。

「なるほど……シルト。君のお父さんも、もしかしたら異界人で逃亡者だったのかも知れないね。コルセアさんやインギーから聞いた話と結びつけると、すんなりと納得できる話ではある」
「そうだね。異界人の召喚を始めた時期が約二十年前っていうのも、時期的に一致するしね」

 うん。メッサーさんとお姉ちゃんが言うように、エルフの里を追放されたお母さんと、逃亡中だったお父さんがあの森で偶然出会い、あの魔物がたくさんいる森で、身を潜めて暮らし始めた。そしてあたしを身籠って……そう考えれば辻褄は合うよね。

「でも、なぜレン君はすぐに逃げ出さなかったの?」

 あたしの質問に、レン君は少しだけ表情を緩めて話してくれた。

「はは、俺達は勇者召喚されたからといって、初めから強い訳じゃないんだ。確かに素質は桁違いらしいんだが、鍛錬しなけりゃただの素人と同じ。だから俺は、最低限生きて行けるだけの強さを手に入れてから、とんずらしようと思ったのさ」

 レン君の言葉に、メッサーさんもお姉ちゃんも、姫様さえも感心した眼差しを投げかけている。色々と冷静に物事を考えてるし、姫様を守る為に体を張れる男らしさもある。好物件かしら!

《ゴホッ! ゲホゲホガハッ!!》

 その時、姫様が咳き込み……吐血した。

「おい! 大丈夫か! おい!」

 必死で姫様の背中をさするレン君。
 姫様……苦しそう。話を聞いてみよう。あたしのリセットでどうにかなるかも知れない。

「はぁ、はぁ……すみません。大丈夫です……」

 イヤイヤイヤ! 血を吐いて大丈夫とか無いから! 死んじゃうから!

「……コイツ、自分から勇者の器になるなんて言ったけどさ。やっぱり勇者ってのは、異界人じゃなきゃダメらしいんだ。これまで何人ものスキルを移植したけど、殆ど拒否反応が起きちまって……コイツの身体、もうボロボロなんだよ……」

 ここまでの話を聞いたあたし達三人。顔を見合わせ視線で会話をする。
 メッサーさんは『シルトがしたいようにすればいい』って言ってくれた。
 お姉ちゃんは『助けてあげなよ』って言ってくれた。
 うん、あたしも助けてあげたい!

 おそらく、他人のスキルを移植されたことで身体に変調を来たしたのなら、そのスキルがなかった状態にリセット(・・・・)すればいいはず。

「あの! 報酬としては十分な情報を頂きました! なのでこれはサービスです。但しっ!!」

 あたしはここで人差し指をビッと立てる。

「今から起こる事は決して誰にも言わないように! いいですね!?」

 ――コクコク!!

 二人が無言で頷いた。

「でわっ!」

(スキルを流し込まれる前の状態まで、元通りになあれ!)

 姫様に翳した掌に念を込める。姫様の見た目には然程変化は無い。う~ん、焚火の明かりじゃ良く分かんないけど血色は良くなってるかなぁ?

「……どうですか? 何か身体に変化はありませんか? 例えば後天的に使えるようにされた(・・・・・・・・・)スキルが使えないようになっているとか」

 姫様は、自分の身体を確認するように四肢を動かしたり、目を瞑り何かを考えているような素振りを繰り返している。スキルが発動するかどうか試しているのかも知れないわね。
 そして、一瞬驚いた表情をした。

 姫様は、どこか覚悟を決めたような表情であたしを見つめて口を開いた。

「シルトさん。レンの腕を元通り(・・・)にしたのも、私の身体を元通り(・・・)にしたのも、治癒魔法では有りませんよね? どれだけ高レベルの治癒魔法の使い手でも、欠損した部位を再生させるなど聞いた事が有りません」

 ……さすがに、ヒール系の魔法じゃないのはバレちゃうね。

「シルトさん。あなたはもしや『リセット』のスキルホルダーではありませんか?」

 ほう。これはこれは。この姫様、重要参考人だわね。

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