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60話 進路

 場所は移って、再びあたし達の部屋。コルセアさんとイングおにいも居る。

「ボクとしては、母さんがなぜこの迷宮を作ったのか、その目的を知りたいかな。マップは全て網羅した訳じゃないけど、迷宮攻略自体は成し遂げた訳だし、一応ボス部屋までのルートは出来てるからね」

 ラーヴァお姉ちゃんはやっぱり旅立ちたいよね。

「あたしは、お母さんの目的が知りたいのもあるし、本当のお父さんとやらがどんな人なのかも知りたいです。でも、街を守る為の冒険者としての役割も果たしたくて、正直すんごい迷ってます」

 いやホント、すごく迷ってる。

「ふぅ~、メッサー、もう暫くこいつ等の面倒見てやったらどうだ? ラーヴァはともかく、シルトはまだお守りが必要だろう。腕っぷしは強くなったがアタマの方がな……」

 アタマがどうしたってのよ!? しっつれいね!

「でも、いいのかい? 私はすでに何年もインギーを待たせてしまった。また暫く待たせてしまうのは少々心苦しいものがあるのだが……それに私とて、好んで夫と離れたいと思っている訳ではないのだぞ?」

 そうだよねぇ……やっと実った恋なのに早速離れて暮らすなんて……

「そうだな。そこで俺からフォートレスに依頼を出そう。非公式にだけどな」

 ん? 依頼?イングおにいが?

「もう一度迷宮最下層まで攻略して来い。それで素材は全て冒険者ギルドに売却する事。それで……」

 イングおにいの言う事はこうだ。
 あたし達が再び最下層まで攻略した際に入手した素材を、ギルドに売却する事により他の冒険者も購入できるようにする事。
 それで冒険者達は稼ぎに応じて装備を新調する事が出来る。頑張れば、あたし達のようなドラゴン素材の装備だって手に入れる事ができるかも知れない。それは同時に鍛冶師であるイングおにいに仕事が舞い込む事にもなる。

「それから、最下層で拾える例の魔法鞄な、あれもギルドに売却して欲しい。希望する冒険者にレンタルしてやる事ができればな、と思っている。盗難防止や使用者限定やらの制限の方は、コルセアさんに何とかして貰おう」

 ふむふむ、徹頭徹尾、この迷宮に挑む冒険者の為なのね。

「でもこれって、冒険者を強くする為の依頼だよね? イングおにいには確かに仕事が入って来たりするメリットはあるけど……」

 正直、イングおにいが依頼としてあたし達にやらせる意味が分からないなぁ。

「お前らがもう一度迷宮を完全攻略する事が、俺達の街を守る冒険者を強くする事になる。シルト、これはお前が間接的にだが、街を守っている事にならないか?」

 ピコーン!
 そうか。そういう考え方も出来るのか。あたしがこの街を離れても、あたし達が残した物が街を守る事になるんだね!

「でもインギーお兄さん。依頼と言うからにはボクらへの報酬があるんだよね?」

 ふむふむ、冒険者として大事な事を忘れていましたよあたしったら! いくら身内でも依頼という手段を取るという事は、当然報酬も有るという事。

「もちろんだ。俺からの報酬はメッサーの貸し出しだ」
「!!」

 なるほど! とあたしは思ったけど、メッサーさんは苦笑いだ。

「全く、新婚早々、妻を報酬にするとはとんだ外道だな。くくく……」

 そんなメッサーさんの言葉に、イングおにいは憤慨した。

「バカ言え。俺だって断腸の思いだよ。寂しさを紛らわす為に、また仕事に打ち込むんだよ。その為に素材をギルドに提供させるんだ」
「ふふ、分かっているさ……」
「悪いな、メッサー……」
「いや、私こそ……」

 なにやら空気がピンク色になり始めたのよ。

「げふんげふん!! 愛を育むのなら、二人で工房へ戻ってはどうかなぁ? ギルドへの報告はボクがしておくからさ!」
 
 そんなラーヴァお姉ちゃんの言葉に、パット顔を輝かせる二人。

「そうかい? 済まないね、ラーヴァ。」
「悪いな、よろしく頼む」

 あーあ、なんかウキウキした足取りで行っちゃったよ。それにしても、普段は凛としたメッサーさんが、あんなに女の子みたいにニヨニヨするなんてねえ……イングおにい、やるわね。

*****

 そしてさらに場所を移してギルド支所の食堂。六人掛けのテーブルを挟んでセラフさん。対面にあたしとラーヴァお姉ちゃんとコルセアさん。周囲には、あたし達の動向が気になっていると思われる顔見知りの冒険者が多数聞き耳を立てている。みんなソワソワしているのが何か可笑しいわ。
 お茶で喉を潤してからラーヴァお姉ちゃんが話し始めた。

「まず、ボクらフォートレスは再び迷宮最下層の攻略に出向きます」

 おお! とかマジか! とかいろいろざわついている。

「目的は深層の素材採取。持ち帰った素材は全てギルドに売却します。ギルドはそれを適正価格で冒険者に販売して下さい。もちろん魔道具や装備品の類も同様です。冒険者の皆さんも腕を磨いてお金を溜めればドラゴン素材の装備に手が届く可能性があります」

《うおおおおお!!》
《俄然やる気が出て来たぜ!》

 そうよね! やっぱりドラゴン素材は憧れであり夢だもの。これを聞いて燃えない冒険者は正直言ってどうかと思うわ!

「さらにもう一点。容量無制限の魔法鞄を入手出来た場合も、ギルドに売却します。これは迷宮探索をする冒険者に貸し出すなどの、有効活用をお願いします。尚、魔法鞄の不正な使用や強奪等の行為が行われないように、あらかじめ1級錬金術師のコルセアさんに処置をしていただく予定なので、詳細はギルドとコルセアさんの間で詰めてもらえればと思います」

《おいおいおい! 魔法鞄まで使えるかも知れねえってよ!?》
《これは今まで以上に深く潜れるかも知れねえな!》

「ふう、分かりました。何というか、至れり尽くせりですね。運用の方はギルドにお任せ下さい。ですが、迷宮から帰還した後は?」

 うん、些事はセラフさんに任せておけば大丈夫だと思う。だからあたしから冒険者のみんなへ一つだけ。

「皆さん! あたし達フォートレスは、迷宮から帰還した後、しばらくの間旅に出る事になりました。迷宮の素材は置き土産のつもりです! どうか、それを役立てて、あたし達の分まで街を守って欲しいんです! お願いします!」

 あたしは腰を直角に曲げて頭を下げた。だって街を離れるのはあたしとラーヴァお姉ちゃんの個人的な事情だもの。

「頭を上げな、シルトちゃん。誰より街を守る事に拘ってたシルトちゃんが出て行くってんだ。相当な事情なんだろうぜ。なに、ここの事は俺達に任せておけよ」
「そうそう。俺達も腕を上げて迷宮制覇目指すんだ。それもこれも街とみんなを守る為なんだぜ?シルトちゃんに頼まれなくてもしっかりやるさ。」

 みんな、有難う!! そうと決まったら、早速物資の調達をして迷宮突入準備ね!

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