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初デートと、仲の良かった姉妹・2

 その夜ナマリさんとユーさんは宿の最上階、夜景の綺麗な高級そうな料理が出そうな雰囲気のお店に来ていた。

「いいんだか?こんな高そうなお店」

 心配そうにそう尋ねるナマリさんに、ユーさんは前に彼女がこういう場所に来たがってた記憶があったこと、あと工場長から給料を前借りして少し援助もして貰ったことを告げた。
 かくいうボクらも尾行のため、工場長のご好意で、安い食事なら一品だけ注文して良いと許可された上で、店内の死角で二人の様子を伺っているわけだが。

「覚えててくれたんだ、それでわざわざ……やだ、泣きそうだべ」

 ナマリさんはハンカチを取り出して、目尻を拭った。

「こんなに優しくて、カッコよくて……やっぱりうちにはユーさんしか考えられねぇだ。
 あなたの生きる道をこれからも、一緒に歩んで行きたいだべ。うちを、恋人にして下さい」

 ナマリさんの思いが全て詰まった、これ以上ない告白。

 ユーさんは無言で考えた末、しかし首を横に振った。
 気持ちは嬉しいが、その気持ちらは受け取れない、と。

「どうしてですかっ、ユーさん。ナマリさんの何が駄目だって言うんですか」

 スズちゃんが不満げに口を開く。正直ボクも同意見だ。 

「理由、聞かせて貰ってもいいだか?うちの何が駄目なんだか」

 ナマリさん本人も、納得いかないと言う表情でそう尋ねた。
 そんな彼女にユーさんは、静かに重い口を開く。
 ナマリさんに気に入らない所があるから一緒にいたくないとか、そう言う訳ではないと。
 ――ただ。

「ただ?」

 自分が異世界から来たらしい、というのがナマリさんの思いを受け入れられない理由だと説明する。

「うん、それは知ってるだが。それに何の問題があるだべ」

 ユーさんは、自分がその異世界から来たらしいにも関わらず記憶を失っていること、そして記憶が戻ったら元の世界に帰るかも知れない、あるいは強制的に引き戻されるかもしれないことを話す。そしてなまじ仲が深まってしまって、離れ離れになった時に寂しい思いをさせるのは嫌だ、と。

「理由は、わかっただべ。ユーさんは、そういう所まで、うちに優しいだな……」

 ナマリさんはうつむいてそう言った。が、

「だが、馬鹿にすんな!それ、うちの気持ちを全然わかってないだよ!!」

 次の瞬間、烈火のごとく怒りだした。

「離れ離れになるかも知れないから付き合えない、そんな理由でこの想いが収まるわけねぇべ!
 もしユーさんが異世界に戻っても、うちはずっと待ってる!
 いや、そっちに行ける手段があるなら絶対追いかける!
 いやそもそも……ユーさんを異世界に行かせずに済む方法を考えると思うだよ!」

 ユーさんはずっと無言でナマリさんの話を聞いていて、でもずっと彼女から視線をそらさずにいた。

「先の事なんて、そうなった時に考えればいいだべ。
 今この時のユーさんが、うちに対してどうしたいかを聞かせて欲しいだ……」

 見つめ合う、二人。
 そして、ユーさんがその返事に口を開きかけたその刹那。

 空気を読まない歌声が、周囲に響いた。
 この曲は、歌姫・水木朋の?
 その曲とともに、周囲に出現する遊精。
 それは、その歌声の主と同じ水木朋の顔と格好を模してしていた。
 異質なのはそれが一体ではなく、十体、百体、いやまだまだ大量の数の遊精が、どこに隠れていたのかと思うくらいその場に発生したのだ。

「リン?」

 ナマリさんが、そう口を開く。
 いや、リンって誰だ?もし仮にナマリさんが自分の遊精の事をそう呼んで言ってるのだとしたら、こんなに大量発生しているのはおかしい。
 神具の動力は帝から供給されてほぼ無限だが扱うのには精神力を消費するから、彼女がこれほど大量の遊精を制御できるとは思えない。

「リンちゃんてのは、ナマリちゃんの妹さんの名前よ」

 工場長が、そう説明してくれる。
 そう言えば、水木朋そっくりな妹さんがいたんだっけ。

「ええっとそれね、どのタイミングで言おうか迷ってたんだけど……」
「要するに、水木朋はリンちゃんなんスよ。
 水木朋って名前は、ナマリの妹のリンちゃんが歌姫になった際の芸名っス」

 言いあぐねる工場長に変わって、メッキくんが補足説明してくる。
 軽くびっくりしたが、言われてみればナマリさんの名字は潘棚。
 つまり漢字をバラバラにすれば水と木と朋と、番……?

「あれ?それじゃ番、どこいった?」
「あるじゃないスか、バン。今流れてる曲に」

 ああ、そうだ聞こえてくるこの歌声。
 水木朋の初登場(デビュー)曲、”バン!”だ。

「ちょっと待って、メッキくん。この曲、トモちゃんの”バン!”なのよね?」
「ええご存知のようっスが、それが何か?」
「この曲の宣伝映像(プロモーションビデオ)って覚えてる?」
「……あっ」

 そう。曲の映像が、今現実に起きているこの場面と似ている。
 映像では人の集まる宴のような会場に水木朋そっくりの大量の妖精が現れ、その場にいる人たちを取り囲むのだ。

「もしこのまま映像の通りなら、歌のサビの”バン!”の部分で……」
「ま、まさかっ!」
「本当にバン、爆発するって事っスか?」

 工場長の言葉に、スズちゃんとメッキくんが驚愕する。

「はい、ロマンチックなデートは終了!緊急事態よ!!」

 そしてユーさんナマリさんの前に飛び出して、

「二人共!その場に伏せてっ!!」

 そう声を出した刹那……

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