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早朝会議と、犯行声明

「うそ、アルミちゃんが定刻30分前に職場にいるとか」

 会社に到着後、開口一番工場長に言われた台詞がコレだ。
 失礼な、そりゃボクだって、たまには早く来ることはある。
 ……月に一回くらい、なら。
 と言うより、流石に昨日の今日で連続遅刻は避けたいし……

「で、本当の所は?」

 はい、たまたま昨晩は深夜の異世界時代劇がない日でしたが何か?
 そして珍しく早朝から全員揃ったので、急きょ朝礼やるそうですよ?

「朝の報道番組を見た者は既に知ってるだろうが、先日わが社で起きた事件の首謀者と思われる団体が犯行声明を出している」

 皆が集まった会議室でそう切り出すのは、オールバックに口髭の男、ブリキこと鋼谷鉄平。
 昨日は遊精(ユウセイ)(妖精)の製造現場で小竜が暴れて爆発という、大騒ぎの事態だったからねえ。

「んー、報道番組とか見ねぇから良く分からねぇべな」

 と、口にするのは茶髪を後ろで束ねたナマリさんこと潘棚(はんだな)マリ。

「と言うか、そもそも女子寮に平舞台(ヒラブタイ)(この世界で言うテレビ)が無いんですよねっ。仮にあっても朝の支度で見てる暇ないですし」

 そう言葉を続けるのは、うなじの辺りで髪を二つ結びにしている小柄な女子、スズちゃんこと新仲硯(にいなかすずり)

「ワタシ日本語良くワカリマセーン!」

 最後に言葉を閉めるのは大柄で白い肌の外国人女性、シロガネさんことエレン・プラティナスカヤー。

「う、うちの女性社員どもは……」

 ブリキが頭を抱えた。

「もー、みんなダメダメっスねー!自分はバッチリ見たっスよー」
「お前はたまたま、男子寮の食堂に平舞台があったから目にしただけじゃろ!」

 得意げなチャラ男風茶髪、メッキくんこと目木児蹴(めきにける)を、初老の男性、銀さんこと小沢銀次郎(おざわぎんじろう)が嗜めた。

「まぁ実はそうなんスけど、遊精製造会社の主要三社の解説とかわかりやすかったっスよ?
 異世界から来たユーさんも、ずいぶん勉強になったんじゃないスか?」
「……異世界?」

 メッキくんの軽口をブリキが聞き返す。

「い、いせ……伊勢の田舎の出身らしいべ、ユーさんは!!」

 慌ててナマリさんがそう言い、メッキくんの口を塞ぎつつ脇腹に拳を叩き込む。

「そ、そうなんですっ!神具もろくに出回ってない田舎から出てきたらしくて」

 すかさずスズちゃんも擁護する。

「伊勢は帝のお膝元だから、田舎でも神具は出回ってるような気がするが……」
「ま、まぁ話の先を続けようか鋼谷?朝礼だって時間が限られてる」

 納得いかないというブリキの態度に、銀さんがダメ押しする。

「まあ銀さんがそう言うなら……まあとにかく、犯行声明があって。
 事態はそれだけで終わらず、柏崎小型模倣浮遊精霊(カシワザキコガタモホウフユウセイレイ)株式会社、通称カシコモにも、我が社と同様の爆発の被害が出ている」

 えっ。カシコモにも!?

「しかもカシコモでは、残念なことに怪我人も出ている。命に別状はないみたいだが」
「うちは誰も怪我しなくてよかったわー」

 工場長が心底ホッとしたようにそう言う。
 と言うか、昨日ボクがつまらないプライドで作業を無理強いしてなくて、本当に良かったと思う。

「そして犯行声明を出した団体は、”遊精の風”。知ってる者は?」

 ブリキの言葉にメッキくんが手をあげるが、また余計なことを言い出さないように取り押さえられたままだ。

「ワシもユーも報道は見ておるし、ワシ自身も”遊精の風”そのものに浅からぬ縁はあるが……」
「私が解説しちゃってもいいんだけど……」

 そう言って銀さんと工場長の視線が、ボクの方に向けられる。

「うむ、”猫使い”かつ遊精に携わる者として、反遊精派を知らないはずはないな」

 ブリキまでがボクを煽ってくる。

 ――あーはいはい!
 確かに大学の講義でも勉強しましたよ!説明すればいいんでしょ、説明すれば!

 ”遊精の風”は、4年ほど前から活動が活発になった、遊精の製造に反対する団体だ。
 遊精にも意志があり、人間様の命令に勝手に従わせるのは遊精の人権を無視しているというのが、彼ら団体の主張だ。

 でも実際は遊精はあくまで人を模してそう動いてるだけであって、そこに感情とか権利とか存在しない……と、ボクは思う。冷たい言い方だが。
 それを言い出すとしまいには遊精以外の全ての神具に心を感じて敬えって事になるけど、神具に力を与えてる帝も、そこまで望んでいないと思う。
 そりゃ、道具といえど大事に扱えって思うけどさ。

 そして何より遊精の風の動きが不穏かつ不自然なのは。
 その活動が活発になったのが、遊精製造の主要三社で新鋭の外国資本会社”携行奴隷工房”(ケイコウドレイコウボウ)、通称ケドコの創立と時期が重なることだ。
 そして今回もだが、被害にあったのは我が社ユーユーとカシコモで、ケドコにはそんな動きがない。

「名前に奴隷とか入ってるし、本当なら反遊精派が真っ先に叩きに行くべき会社だと思いました、まる」

 そう口にして、ボクは解説を終えた。

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