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第12話

 ショッピングモールの地下一階には、ボウリングやビリヤード、ゲームセンター等のアミューズメント店がいくつも並んでいた。

 その中にある、【定休日】と書かれた看板がドアにぶら下がっているカラオケ店の前で、三人は一旦足を止め、青山はポケットからカードキーを出して解錠すると、

「んじゃ、俺はちょっとスタッフルームに行ってくるぜ」

 レジ近くにある【スタッフルーム】と書かれた扉を開けて中へと入っていった。

 そして広瀬と寺田は、澄人の両腕を掴んだまま――はるが着いてくることを確認しながら、店内の奥へと進み、一番広い――二十人近い人数の使用を想定されている、パーティールームに着いた。

「おっと。ロボットちゃんは、ここに座ってろ」

 入ってすぐのところにある――もはやベッドと言っていいくらいの、人が寝そべることができそうなソファーに座るよう、広瀬ははるに指示し、そして澄人は彼女から離れた位置――部屋の隅の壁際に座らされた。

「ここは、青山の親父の店でな。定休日はいつもここで遊ばせてもらってんだ」

 広瀬が澄人を見下ろしながらそう言っていると、

「監視カメラ、切ってきたぜ」

 青山もパーティールームに姿を現し、カードキーでドアにロックをかけた。

「…………」

 その様子を見ながら、はるはどうすれば澄人を無傷で助けられるかを考えていた。

 今の澄人は、いわば人質状態だ。下手に警察沙汰にしたり無理に助けたりすれば、広瀬達は澄人に暴力を振るうだろう。はるにとってそれは、絶対に避けなければならないことだ。

「んで、どうするよ? 広瀬」
「俺達に逆らったんだ。痛い目を見てもらうさ。ただその前に……」

 聞いてきた青山と隣にいる寺田に、広瀬は小声で何かを伝えると、

「……ああ~、そいつはいいな。ロボットなら、いくらヤッても心配ないだろうしな」
「きっとこいつ、『やめて~!』って、泣き喚くぜ。うひゃひゃ」

 二人は、はるを見ながらニヤリと笑った。

「そんじゃ、順番はじゃんけんで決めるか。最初はグー……」

 そして三人は、じゃんけんを始め、

「よっし! 俺が一番だな」
「っちぇ」
「あ~あ、三番か」

 広瀬、寺田、青山の順になったようだ。

「そんじゃ、お前ら二人は俺が終わるまで、失敗作のことを見張っておけよ」
「りょーかい」
「しゃーねーな」

 広瀬は上着を脱ぐと、はるに近づいて行く。

「ちょ……ちょっと……は、はるに……な、何を……」
「何って、決まってんだろ。お前のかわいい~かわいい~お友達のロボットちゃんに、俺達の相手をしてもらうんだよ」
「あ、相手って……まま、まさか……や、や、やめろ!」
「――っと。お前はおとなしく、あのロボットちゃんが犯されるのを見てな」

 立ち上がろうとした澄人の両腕を、寺田がすかさず掴み、

「お前だって、どうせあのロボットと毎日ヤッてんだろ? 自分がヤッてんのに、他人にやめろとか言うんじゃねぇよ」
「むぐ……っ」

 青山が澄人の口を手で塞いだ。

 その間に、広瀬ははるの隣に座ると、彼女の顔をジロジロと見る。

「これが最新型のヒューマノイドか。う~ん。見れば見るほど、かわいい顔してるぜ」
「んむーー! むぅむーー!」

 青山に口を塞がれながらも叫ぶ澄人。だが、それをあざ笑うかのように、広瀬の手はどんどんはるの体に近づいていく。

「胸も俺好みで小さめだし……性処理ができるってことは、ここは男の物を気持ちよ~くさせるように造られてるんだろ? へへへ……楽しみだぜ」

 そうして広瀬がはるの服に触れ、他の二人の目もそこへ注目した――まさにその時だった。

「――やっ……やめろーーーー!!」

 澄人は思いっきり体を振り、寺田から腕を振りほどくと走り――

「――うぉわ!?」

 そのまま両手で広瀬を押してソファーに倒した。

「澄人さん……!?」
「は、はるに……はるに、さ、さわるな……!」

 両腕を広げて、はるの前に立つ澄人。だが……

「てめぇ……」

 なんのダメージもない広瀬は起き上がると、寺田と青山と共に澄人の前に立ち、睨みつけた。

「……どうやら、先に痛い目を見たいらしいな?」
「う、ううぅ……うう……」

 ボキボキと指の関節を鳴らす広瀬達を前に、澄人は涙目でブルブルと震えていた。それでも、はるの前から退こうとはしない。

「失敗作の分際で……この俺に歯向かいやがって――!!」

 広瀬の拳が澄人に襲いかかる。が――

「…………」

 その拳は、はるによって掴み止められていた。

「……澄人さんに、危害を加えようとしましたね?」
「い――いでぇででででっ!?」

 はるが指に力を入れた途端、広瀬は左手で右手を引っ張り、彼女から逃れようとする。

「い、いつの間に失敗作の前に!?」
「てかこいつ、人間に手を上げやがったぞ!」

 寺田と青山が騒いでいると、はるは左手の力を緩め、広瀬の右手を離した。

「手を上げた? わたしは広瀬さんの手のツボを押して差し上げただけです。痛がったということは、便秘か肩こりでも患っているんでしょう」
「っつ……おい、失敗作! てめぇ、人間に手を出せるように違法改造したな!?」

 左手で右手を擦りながら、広瀬は澄人とはるを交互に見る。

 広瀬がそう思うのも無理はない。現在、一般的に販売されているヒューマノイドは、人間の目に見えないほど速くは動かないし、如何なる理由があろうと――例えそれが暴力だとしても、それを止めたり反撃したりすることはない。

 もし意図的に、人間を傷つけるような違法改造をヒューマノイドにすればそれは重罪だ。

「違法改造をしたヒューマノイドで、俺にケガをさせやがって……タダで済むと思うなよ? いいか? 俺の親父は――」
「弁護士……ですよね?」
「――え?」

 おもむろに口を開け、はるが発した言葉に、広瀬達三人は静かになった。

「名前は広瀬純一。年齢は四十四歳。AB型の牡牛座。政府関係者や映画俳優等から依頼されることが多い、腕利きの有名弁護士。そしてその息子であるあなたは、父親のコネのおかげで、一流大学への進学が既に約束されている身」
「な、なんで知ってんだ!?」

 続いてはるは、広瀬の後ろにいる青山と寺田に視線を移す。

「寺田さんのお父様の名前は寺田優一。年齢は四十七歳。警視庁刑事部参事官で、階級は警視正。近々昇進の予定。その息子である青山さんも、中学の陸上部で優秀な成績を収めたことにより、広瀬さんと同じ大学に進学予定……で、合っていますよね?」
「ど、どうしてそれを……」
「それから、青山さんのお父様の会社はカラオケ店だけでなく、飲食店や衛星放送等の事業も経営していますよね? それで得たお金で一千平米を超える土地に新しい家を建てて、来月にはそこへ引っ越し予定。そして将来、その家は息子であるあなたの物になって……なるほど。ずっと遊んで暮らすつもりというわけですか」
「なっ……」

 表情が固くなる三人。

「……今言ったことは、ここにくるまでの間に、わたしが調べたうちのほんの一部です」
「調べた、だって……?」
「まさか、ハッキングして俺達の個人情報を……?」

 寺田と青山がそう言うと、はるは目を少し細めながら、うっすらとした笑みを浮かべた。

「そ、そんな訳あるか! きっと失敗作が、俺達のデータを予め入力していたんだよ。だいたい、いくら違法改造しているつったって、ヒューマノイドが命令もなしに……」

「確かに通常のヒューマノイドであれば、何をするにも人間の命令が必要です。しかし……自分の意思を持っているわたしには、命令など必要ありません。よって、先ほど広瀬さんの拳を止めたのも、違法改造によるものではなく、わたし自身が判断して行動したものです」
「ロボットが、自分で判断しただと……!?」
「別に信じていただかなくても構いませんよ。その結果、困るのはあなた方なんですから」
「……どういう意味だ」
「わたしは、あなた方が澄人さんに危害を加える存在だと判断した直後から、映像と音声を記録し続けています」
「「「な、なんだって!?」」」

 三人は驚きの声を上げると、室内にある灰皿やカラオケのマイク等に視線を移す。

 おそらく、はるを壊して記録したデータをどうにかしようと思ったのだろう。しかし、彼女はそうはさせない。

「動かないでください。記録データはすでに圧縮済みで、あなた方のご両親宛のアドレスも調べてあります。そしてわたしは、まだネットワークに繋がっている状態です。この意味……言わなくてもわかっていただけますよね?」
「ハ、ハッタリだ」

 広瀬がそう言うと、はるはカラオケ店のモニターに目を向けた。するとモニターの電源がつき、はるが記録していた映像が映される。

「そ、そんな……」
「これでも、まだハッタリと言えますか? もしまだ信じられないというのであれば、試しにこのデータを寺田さんのお父様に送ってみましょうか? それとも、進学予定の大学にしてみます?」
「や、やめろ! 頼むからやめてくれ!」

 への字口で、今にも泣きそうな顔で言う寺田。広瀬と青山の額にも汗が出て、顔から血の気が引いていた。

「やめてほしいというのであれば、澄人さんとわたしを解放してください。そして今後――二度と澄人さんに、いじめ等の行為をしないことを約束してください」
「わ、わかった。おい、青山! 早くドアのロックを解除しろ!」
「お、おう」

 青山は急いでドアのロックを解除した。

「……これでいいんだろ?」
「ありがとうございます」

 はるは澄人の手を握り、パーティールームから出ていこうとしたが、

「お、おい! 記録データは消してくれるんだろうな……?」

 そう言ってきた広瀬に、彼女は足を止めた。

 このまま記録データを持って警察にいけば、おそらく広瀬達は何かしらの処分を受ける。だが、広瀬の父親は弁護士で、寺田の父親は警察関係者……青山の家庭もかなり裕福だ。仮に逮捕ということになっても、すぐに釈放され、澄人が仕返しを受けるという可能性がある。

 はるはそう考え、別の手段をとることにした。

「申し訳ありませんが、今すぐというわけにはいきません。わたしと澄人さんが立ち去った後、根も葉もない悪い噂をでっち上げて、SNS等で流すことも考えられますので。なので、そうですね……現在高校一年生であるあなた方が大学を卒業し、社会人三年目になった時期に削除させていただきます」
「そんなに先!?」
「いくらなんでも長すぎだ!」
「そ、そうだ! だいたい今日は、そいつを傷つけていない! いくらなんでも――」

 寺田、青山、広瀬……彼等の言葉に、ついにはるは怒りを抑えることができなくなった。

「……何を言っているんですか?」

 三人に背を向けていたはるは振り返ると、澄人には決して見せない――細く鋭い目で彼等を見た。

「……あなた方は小学一年生から中学卒業まで、澄人さんにいじめを続けてきたんですよね? 今言った年数は、それとほぼ同じ――約九年間です。決して不公平な期間ではないと思いますが」
「「「う……」」」
「それに傷つけていないと言いましたが、澄人さんは十分あなた方に傷つけられています。特に心を……」

 はるは深呼吸をして自分を一度落ちつかせると、再び口を開けた。

「……もう一度だけ言います。わたしの要求は澄人さんにいじめ等の行為をしないこと。ただ何もしなければ良いだけの話です。それさえ守っていただければ、あなた方は今まで積み上げてきたもの――今の生活――そして将来を失うことはありません。それを犠牲にしてまで、澄人さんをいじめたいというのであれば、わたしは容赦しません」
「……わ、わかった。もう、失敗作には……」
「澄人さんを失敗作と呼ぶのも止めてください」
「っ……や、柳原には、もう近づかない。いじめも、もうしない……約束する」

 広瀬からそれを聞いたはるは、再び彼等に背を向けると、

「それでは澄人さん。行きましょうか」
「あ……うん」

 いつもの笑顔を澄人に見せ、彼の手を引きながらその場を後にした。

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