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ぼっち、授業を始める


 十歳の子どもと同じ。
 そこまで言わなくてもいいじゃないか。俺は……。
 ラングルの言っていた事がグルグルと回る。
 護衛の営業をするなんて考えてもいなかった。
 そもそも、営業なんて嫌いだった。媚びを売るなんてまっぴらだ。
 ダカートは英雄になりたかったのだ。
 翌日、朝の講義が終わると、ダカートはベルンツハイムとガウルに申し出た。

「手合わせして欲しい」
「……別に構いません。ポーションありますし」
「お前……いや。もういい。とりあえず、俺とベルンツハイムは組むからな。ベルンツハイム、ポーションはダメだ。負けるのは嫌だが、こいつの為に貴重品使うとかありえない」

 ガウルとベルンツハイムは、ダカートと冒険者ギルドの訓練場で手合わせする。
 ベルンツハイムとガウルは、呆れた目をしながらダカートと対峙する。
 大きなレベル差はダカートに有利。
 ただし、ガウルとベルンツハイムは組んでいる。

 そして、手合わせが始まった。

 ガウルはベルンツハイムを守り、ベルンツハイムはガウルを援護する。
 だが、ダカートとて今まで何もしなかったわけではない。
 剣戟が続き、ガウルを降した後はあっという間だった。
 肩で息をする。
 冒険者ギルドの見物人達は、快哉をあげた。

「凄い!」
「格好いい……」
「ああいうのが、きっとルンデルムまで行くんだろうな……」

 あげられる賛辞。ラングルが近づいてくる。

「すげーじゃねぇか……! ガウル。ベルンツハイム! お前ら、祝福を受けて四日目って聞いたぞ! それで既にこの連携……お前ら、商人志望だろ? 冒険者の素質があるぜ!」
「祝福を受けるまで必死に訓練してきましたし、カザ師匠も色々手を尽くしてくれましたから。学ぶことは色々あるので、戦闘訓練の時間はあまり取れませんが……。技術はあるので、少し急いで力をつけても問題ないと言われました。明日にはホーンデルムに狩りに行く予定です。じゃあ、急いで帰らないと」
「ははぁ……。指導方法を教えて欲しいくらいだな。どんな事をやってるのか、聞いていいか?」
「そうですね。初めての戦闘訓練では、ジャンピングラビットを一人につき50匹、三時間以内で倒しなさいと。戦闘訓練をしていて良かったです。昨日は、実際に戦いを見てアドバイスを頂いて、更に50匹とここらへん一帯の魔物の倒し方を習いました。今日はずっと商品の作成ですね。本当は売買の勉強をする予定だったのですが、他の弟子がそこまで行っていないので、それまでは商品作りの勉強と戦闘訓練です」
「ダカート……。キルク、ミリア。済まなかった。俺が悪かった。もっと調べるべきだったな。他の師匠と交代するように掛け合うか? お前らがカザさんの課程を合格できるとはとても思えん……。他の弟子に迷惑かけるのも問題だし、有望で野望を持った奴らが何人かいるからな。6日でホーンデルムに行けるとなったら、なんでもするような子が、ちょうど三人……」
「はいはい! ギルドマスター! 俺、父ちゃんがルンデルムにいるんです! 絶対ルンデルムに帰りたいって思ってて!」
「わ、私、ジャンピングラビットこの前、二十匹倒してきたんです。今日、五十行けたらいいですか!?」
「じゃあ、カザさんにお伺い立てて、一番多く獲物を倒した奴に……」

たまらず、ダカートは叫ぶ。

「俺は、もうカザ師匠の弟子だ! 徒弟の交換なんてダメに決まってるだろ!」
「けどよ、お前ら初めの課題もこなせないだろ」
「出来る! やってやる! すぐにでも狩りに……!」
「阿呆。だからお前は駄目なんだよ。弟子入り中は師匠が一番だ。とにかく、立派な方みたいだから怒らせると大変だ。何かあったら報告しろよ」
「すみません、そろそろ……」
「ああ、引き止めてすまなかった」

 ダカート達が向ける背に、ラングルが声をかける。

「お前、祝福受けて四日目のガキに勝ったから俺凄いとか思ってないよな! 何年も修行してるんだから、開始一分、一撃で倒せないのがもう恥なんだよ」

 ダカート達は、足を速める。逃げ出すように。
 もう、三人の心は決まっていた。

「カザ師匠! 俺達を立派な冒険者にしてくれ!」
「……まあ、いいけど。じゃあ、その前に基礎を教えよっか。アイテムウィンドウの使い方から教えるね」

 三人にアイテムウィンドウの事を教える。
 ゴルド金貨に目を輝かせる三人。

「豪遊しようとか考えてるんじゃありませんよね」

 ベルンツハイムが冷たい瞳で告げる。

「な、なんだよ。これ、神様が俺にくれたやつだろ。師事する前だし……」

 ダカートがアイテムを抱きしめ、言い訳するようにつぶやく。
 
「えーと。ゴルド金貨って何かわかる?」

 多分、ここから教えることが必要なのだろう。

「金貨だろ?」
「金貨よね」
「金貨だな」
「じゃあ、貨幣の説明からしようか。ドルエンは、特別な物、便利な物を買うのに必要なお金なのね。今はもう手に入らない。で、ゴルドは、必要最低限の物を手に入れるための物で、手に入れるのはぐっと大変になったかなぁ……。必要分稼ぐのはすごく大変だろうね。そして、その下に今使われている通貨があるの。で、大事なのは、ゴルドはドルエンで買えるけど、ドルエンはゴルドで買えないってこと。今の通貨も、そうだよね。通貨はゴルドの代わりはしないけど、ゴルドで物を買うことは出来る。ここまでわかる?」
「わからん」
「つまり、通貨によって買える物が違うということですの? でも、一ゴルド二金貨というレートがありますわ」
「二金貨でゴルドを買おうとしたことはあるかな?」
「いいえ? 必要ありませんもの」
「買えるわけ無いだろう。王家が収集しているんだから……あ」

 それでダカートも気づいたようだ。
 
「じゃあ、どういうものがあるんだよ?」
「色々ありすぎて、なんとも……。そうだね。一つは、嗜好かな。例えばギルドキャッスル、この家。これはゴルドで買ってる事は話したと思うけど、ドルエンだと凄くいろんな種類の物があるんだよ。お城とか、可愛いお家とか、自分でデザインする事だってできる。そういう、自分だけの特別を追求できるのがドルエン。それに、リセットや凄く強くなるのが早くなるもの、いい素材とかの特別なアイテムもドルエンだね。ゴルドは最低限の素材の一部、最低限のギルドキャッスル、お家、馬、小さな領地、生産用の施設も買えるね。冒険者になるなら、ゴルド通貨は絶対必要だね」
「でも俺たち、ゴルド通貨がなくてもやっていけたぜ?」
「……どこらへんがやって行けていたのか、についてはちょっと疑問があるけど……。まあ、追々勉強していこうか。どっちみち、今までの財産は全部片付けて、新しく神様から与えられた物だけで勉強していこうね。順番ってものがあるから。修行が終わったら出せばいいよ」

 三人が頷き、私は一冊の本を出した。

「えっとね。三人に、いいものがあるんだ。私はソロでやってたから、わからない事も多いだろうけど……。これがあれば大丈夫だと思う。ウン・チクさんの『運動音痴でも出来る冒険術!』これを教科書にしてやっていくね」
「うんちくさ!? すっげ変な名前。それに俺運動音痴じゃねぇし」
「ウン・チクと言えば、駄目な事で有名な使徒だな。決闘記録がほとんど負けばかりだとか」
「なんか、童話で色々失敗している人ですわよね」

 三人が疑わしい目で見る。

「ウン・チクさんって凄く有名で人気な人なんだよ!? 運営にも書いた本やシステムがいくつも採用される人なのに!」

 その言葉に、私は信じられずに思わず反論した。初心者の神とまで言われた人が非難されるなんて信じられなかったのだ。

「師匠、三人には色々もったいなさすぎるのではないでしょうか。とてもではないですが、使徒様の高度な教えが理解できるとは思えません」
「ウンエイって、最高神のウンエイ様!? すげぇな。俺、読みたい!」
「いっぱいあるよ、ウン・チクさんの本。今度読んであげよっか。でも、困ったなぁ。後は廃神スパーク様の最強への最短ルートとか……」
「スパーク! 英雄スパーク!? それ読みてぇ!」
「スパーク様って、あのスパーク様ですか!?」
「スパーク……! 使徒の頂点に立ったというあの方か!」
「うーん。でも、なぁ……。大変だよ? 三十分で試練を終わらせないのは問題外って書いてあるし。それが難易度Dだしね」
「試練?」
「ジャンピングラビット50匹と、あの巨大なジャンピングラビット一匹を、ですか?」
「ううん。フォッグウルフ50匹とジャイアントフォッグウルフ一匹。それに、コンマ単位でのコツとか、私教える自信がないなぁ……。内容も難しいし」
「それって、祝福したばかりで? 時間内に倒せるんですか?」
「全部一撃で急所を突けばね。確か、最高記録は14分52秒かな。凄いよね、私なんて50分近く掛かっちゃったよ」
「ウン・チク様はどれくらいなんだ?」
「うん、ウン・チクさんはね。どんなに運動音痴でもジャンピングラビットを三時間以内に倒す方法から入ってるね。大体二時間を目指しましょうって書いてあるなぁ」
「私達がそれぐらいでしたね」

 ガウルの質問に答えると、ベルンツハイムが頷く。

「……スパーク様って天値が凄く良かったのか?」

 ダカートが恐る恐る聞く。

「天値も高い値が必要だけど、ステータス以外の技術も必要だよ。プレイヤースキルっていうんだ。言ってたでしょ? 剣の練習は無駄なのかって。当然同じステータスなら、剣の上手い人が勝つって事」
「才能か?」

 キルクの問い。

「才能って言うより、技術じゃないかなぁ。じゃあ、それぞれの人値を読み上げてあげよっか。人値の講評とアドバイスって、凄く勉強になるんだよ。その後、スパークさんの本を読んで、どういう人になりたいか決めて、そのスケジュール通りに動こうか。コンマ単位、ミリ単位、1ポイント単位の指示が多い上に、戦士とかでも50種類くらいにタイプと育て方分かれていて大変だけど、頑張るよ。その代わりちゃんとついてきてね?」
「お待ち下さい、師匠。まずはジャンピングラビットの退治風景を師匠が監督してあげるのはどうでしょうか。師匠はダカート、キルク、ミリアの実力を知るべきです」
「そうだね。そうしよっか。大体人値の講評とアドバイス読めばわかると思うけど。じゃ、初めよっか」
「つーか、馬鹿って羨ましいな。俺らの時はこんなに詳しく習わなかったぞ」
「そうですね。師匠、私達も基礎からみっちりお願いします」

 カザはそれに頷く。やれやれ、大変になりそうだ。
 













 ……どうしよう。アドバイス欄と実際の戦闘を見てちょっと途方に暮れる。ウン・チクさん出番ですっ!

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