バナー画像 お気に入り登録 応援する

文字の大きさ

弟子達の将来設計


「あの、私達、できうる限りカザ師匠をお守りしますっ」

 ベルンツハイムがそう言ってくれるのは嬉しいが、貴族相手にどう守るって言うんだろう。ガウルも心配そうな目でこちらを見ている。
 一年かぁ……。
 ちなみに、講義は朝のものを取った。弟子達には毎朝通いつめて貰う予定だ。
 私も取らなくて大丈夫かな、と思ったが、授業……人がいっぱいいるよね……。
 弟子と一緒に受けるっていうのも問題だろう。テキストだけ買って読んでおこう。
 ため息を付いて買い物してから家に帰る。
 そして、帰って脱力した。
三人が買い物から帰ってきていたのだが、明らかに高価そうな魔導書と剣と屋台の軽食の山を持っていたのである。ミリアも、何か装飾品を買ってきたようだ。

「お前達、カザ師匠がいつ私物を買っていいといった! 小遣い帳を出してみろ!」

 ぶちきれたベルンツハイムが言う。おお!? いつもの丁寧口調はどこへ!
 便乗して見せてもらったけど、キルク、ちゃんと書けてるけど全部使い切ってる。
 ミリア、小物を買ってはいるけど、一応書いているし節度は保ってるけど、言うまでもなく修行に装飾品は要らない。
ダカート。目の前で残金を数えて、使った金額だけ書いてきた……。

「何が問題か、わかっているだろうな!?」
「あっ軽食は食費か!」

 ダカートの一言にぶちきれたガウルが殴り、ミリアが反撃に移ろうとするダカートを必死に取り押さえる。もう嫌だこの人達。

「えっと。皆さんには、商人の講習に毎朝行ってもらいます。明日からだからね。ちょっと基礎からわからないみたいだし、予算とか経費の考え方について学ぶのはいい事だと思う」
「だりぃ」
「失礼な」
「えっと、私はちゃんと出来ていると思うのですが……」
「うん、わかったから、明日から頑張ってね。後、一人ずつ聞き取りするから。一人ずつ部屋にきてね」

 そして、ダカートから順に執務室に呼び、ステータスを可視化させる。

「ダカート……は、戦士になりたいんだよね?」

 唖然としながら問う。

「俺は一人前の戦士だぜ!」

 ステータスウィンドウに驚きながらも、胸を張るダカート。ステータスとスキル構成だが、もうめちゃくちゃである。
 何故この人、デバフ系の呪文スキルがあるんだろう……。MPないじゃん。
 魔法耐性が恐ろしい低さだし。
 戦士だから魔力をあげなきゃいいってもんじゃ……魔法攻撃力はあるな……。
 いらん。心のそこから要らんだろ……。
 ステータスポイント余っているし……。どういう事なの?
 あ、システムウィンドウを知らないから、思考制御のみで結果も知らないのか。
 だから、こんな結果になるんだな……。

 うわぁ……。
 私より酷いステータス、初めて見たわ……。ネタですらないじゃない。

「……一応聞くけど、目指すのは?」
「パーティを統率する、立派な戦士になりてぇな! 強い魔物をガンガン倒して、有名になるんだ!」

 暗鬱な気持ちで、ミリアを呼ぶ。

「まあ、この術は初めて見ましたわ。一体どういった?」
「強さを見る事が出来る術。言うまでもないけど、私以外に見せちゃ駄目よ」
「強さ……ですか? なんと書いてあるのか、聞いても?」
「まだ教えない。それで、どうなりたいの?」
「立派な聖職者になりたいです。可能なら、その……一軍を援護してみせた、物語の聖女様みたいに」
「聖職者かぁ……。そのクラスになると、もう仲間選びと忍耐が全てだけど、大丈夫なの?」

 聖職者は基本、育ててもらうことが必要である。回復系なのだから、経験値が得られないのは当たり前なのだ。となると、パーティ組んで経験値を譲ってもらうしか無い。悪い言い方をすれば、寄生だ。
 聖職者の場合は、試練での行動も変わってくる。やはり、協力者が必須になってくるスキルだ。

「え、あの、可能なのですか!?」
「貴方は無理」
「え、さ、才能ありませんか? でも、さっき……」
「あのね。ダカート程酷くないけど、無駄が多いから今からは無理だよ。今の強さを捨てて、一からやり直さない限りね。私の言う事をしっかり聞いて、長い修業が必要だけど。その忍耐と人脈はあるの?」
「あの! でしたら! でしたら、お願いです! 挑戦させて下さい!」

 ミリアを下がらせ、最後にキルク。

「この呪文は一体……!?」
「強さを見る呪文だよ」
「おお……! おぼろげながらに意味はわかるが、これは強いのか?」

 こいつもスキル取得がめちゃくちゃだな……。
 ステータスよりスキルが酷い。あの二人もだけど、思考制御のステータス変動スイッチ、切ったほうがいいな。すぐに教えないと。

「……私はそうは思わないな。目標は? どんな人になりたい?」
「私は、全ての呪文をマスターしたい……!」
「いや、無理だから」
「お前もそういうのか!? 私は諦めたりしない!」
「呪文の覚え方って知ってる?」
「魔導書を読み解く以外に何がある!」
「じゃあ、まずはスキルツリーの考え方から始めようか……」

 五人を集め、まずステータス変動を禁ずる操作をさせる。
 その後、私は言い渡した。

「まず、三人とも冒険者の基礎からわかっていないみたいなので、弱くなってもらって一からやり直します」
「弱くなるってどういう事だよ!」
「ちょっと、今のままで物を教える自信がないよ。まあ、貴方がそのままでいいならいいけど。一からやり直すための道具、100ドルエンするし。ドルエンわかる? えっと、捨て値で10万ゴルド、通常取引で百万ゴルドっていえばわかる? ドルエンはもう二度と手に入らないから、私も出来れば使いたくないし。100ドルエン手に入るなら、1000万ゴルド払っても惜しくないし」

 途端に、ダカートが大人しく座り、三人が真面目な顔になった。
 お金の話になると、理解が早くなるのね。
 私はため息を付いて、天地人とスキルツリーについて講習を始めるのだった。


「うー、わけわかんねぇ。なんで同じ名称が二つあるんだよ。つーか、剣を練習すれば剣が強くなるんじゃないのか!?」
「武器の熟練度は上がるね。他にも行動による熟練度はあるよ。単純に剣の扱いが上手ければ強くなるし。けど、まあ基本はステータスの値の操作だね」
「なんだよ、それ! それに、七歳から今までの全部、溝に捨てろってか!?」

 ダカートは不満そうだが、私に言わないでほしい。

「呪文書は必要ないというのか!? 馬鹿な!」
「スキルの必要動作はシステムウィンドウの使い方に慣れれば閲覧できるよ? まあ、初心者は人に聞いたほうが速いかな。魔術書を読んで得られるスキルもあるけど、そういう魔術書は消耗品で、読めば消えるし凄く高価だよ」
「全ての呪文を覚えるのは、不可能だというのか……」
「オールマイテイに使える魔術師は、高レベルモンスター相手には役立たずだね。スキルポイント足りなくて、高度な呪文を取れないから」

 キルクがぬぬぬぬぬ、と唸って紙に大雑把に系統を書いたスキルツリーを凝視する。
 
「全部のステータスをあげる、という事は出来ませんの?」
「私がそのタイプだよ。ソロ……個人だしね。なんでもできるけど、素人に毛の生えた程度。専門職で私に負ける人はいないんじゃないかな?」
「なんで? ステータス振るのに失敗したのか?」

 ダカートの言葉に、ベルンツハイムが凄い目で睨んだ為、ダカートは怯んだ。

「私はソロだからね。誰とも協力しない場合、なんでも出来ないと駄目なの。まあ、一人で弱い魔物をほそぼそと狩りながら生活するには困らなかったかな」
「1000万ゴルド払える人間が、なんでほそぼそと狩りをして暮らすんだよ。わけわかんねぇ……。つーか、俺はこのままでいいから1000万ゴルド欲しい。一生遊んで暮らせるし。つーか、国も買えるだろ」

 その言葉に、キルクとミリアがぴくりと反応する。
 
「その場合、商人にも冒険者にもならない、弟子でも何でもない遊び人ですよね。弟子でもない人間の遊興費を何故カザ師匠が払わねばならないのですか。ありがたくもカザ師匠が師事をしてやろうというのに、何も学ぶつもりはない、金寄越せですか。一応お聞きしますが、御恩金はどうするつもりなのですか。あの馬鹿貴族は問題外として、冒険者ギルドからの出向者が御恩金踏み倒すとか、正気ですか」
「え、あれって家住みの場合は一金貨だろ?」
「この阿呆! 御恩金の相場は、必要経費だろ! 経費から稼いだ金引いて、二倍した分が相場だ! 留学組でも1.5、最低でも等価の礼はする規則があるだろ! 金貨一枚とか、最低ランクじゃないか、アホか! 法律以外にも、その後も便宜をはかるのがマナーだろ? お前ら、師匠にどんな利益を出すつもりなんだよ! 家住みだから費用かからない!? 2万ゴルドでわざわざ教育するためだけに家立ててるんだよ!」

 あ、そういえば徒弟制度のルールに書いてあった気が。どうでもいいから忘れてた。
 そうか、一年の奉公は、やっぱり経費の方が半金貨は赤字になるのがデフォなのか。
 本当、商人ギルドの徒弟制度って師匠に害しかないのね。
 私が遠い目をしている横で、三人組の顔色がざっと青くなる。

「まあ、確かに遊興費なんて払う必要はないかな。弟子って話を聞いているし。でも、ドルエンを返すなんて絶対無理でしょ? 御恩金なら、そうだね……。私、弱いからどうしても碌な素材持ってないし、碌な装備ないんだよね。それをくれればいいかな。グランドルムの地域の素材と装備を供給してくれればそれで。それと、私、人付き合いってあんまり好きじゃないんだよね。建国してもすぐ放り投げるのが関の山だし、面倒みないと維持費かかるし、そんなつもりはないかな」
「……何その伝説の地。悪しき神々の住処じゃんか。冗談だよな?」
「え? だって、冒険主体でやるんだよね? パーティリーダーやるんだよね?」

 沈黙が落ちる。

「……冒険者としてもやる気無いようだし、意味分かんないよ」
「カザ師匠、あまりにもやる気がない場合は、破門の条項があります。遊ぶ金をくれというぐらいですし、破門でもいいのでは」
「っカザ師匠はどれくらい強いんだよ!」
「ウルグルムまでしか行けなかったなぁ。いつの間にか廃墟になってたけど」
「……お前ら、まだ目の前にいる方がどういう方かわかんないのか? 無礼しかしないんならマジ帰れよ」

 冒険者三人は青ざめ、先を争うようにダカートの部屋に入っていった。

しおり