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「永戸君ーー !やっほー」
 
 下から聞こえてくる、若い女性の声に、僕らは足を止める。見下ろす先には、クルクルとしたツインテールの女性が立って居た。
 愛羅(てぃあら)が居る……と思ったが、よく見ると別の女性だった。容姿や雰囲気は、愛羅によく似ているが、この子の方が整った顔立ちをしている。
 丸々とした大きな瞳で、こちらを見上げる女性は、どこかで見た事のある、可愛いクマのぬいぐるみを大切そうに抱いていた。あっ、このぬいぐるみは……永戸がこの前、盗んでいた物だ。そうか永戸はこの子のために、盗みを犯していたんだな。

 永戸はその女性に顔を赤らめ、かなり照れている様子。ギャップがすごい。こんな彼、初めて見た。
「……な、菜月(なつき)。また後で会おうな」
「分かったよー。……あのね、菜月ちゃん……可愛いお洋服とバックが欲しいの。だからね、今夜はファッションビルに行きたいな」
「……じゃあ、そうするか。俺は今からアジトに戻るから、そろそろ行くぞ」
 菜月と呼ばれる女性は可愛く微笑むと、永戸に大きく手を振った。永戸も恥ずかしそうに、菜月に小さく手を振り返し、再び僕らと森へ向かって動き出す。

「可愛い恋人が居て羨ましいぜー。ヒューヒュー」
 優はそう言って、楽しそうに口を鳴らした。
「べ、別に……菜月に照れてなんかねーし」
 永戸って、ツンデレなんだな。口から本音が漏れてしまっているじゃないか。


町を走り抜けて森の中へと入り、木と木を飛び越え、僕らはアジトの近くまでやって来た。

 そこそこの広さがある暗い暗洞窟の前で、優は僕をそっと降ろす。
「ほら、菊谷さんの家に着いたぞー」
 優は僕にそう伝えると、洞窟の前で大きく声を上げる。
「菊谷さーん、居ますか ?」
「ああ、居るぞー。何か俺に、用でもあるのか ?」
 すると、その中から男の声が聞こえ、巨大な影がこちらに近づいて来る。もしかして、この洞窟がボスの住処なの ?
 
 洞窟から姿を現したのは、赤髪の巨大な男。いや、それにしてもでかいな。 この人、二メートル近くは身長がありそうだ。
 菊谷は優しそうな顔つきをしているけれど、イナズマ組のボスというだけあって、迫力がある。
 優は僕を、菊谷さんの前へ突き出した。
「はい、俺達の組に入れたい奴を連れて来ました。こいつです」
「そうか、分かった。君が飛華流君だね。優から、君の話は聞いているぞ」
 菊谷はニコニコと笑って、僕の肩をポンと叩いた。彼のその笑顔は、子供のように純粋で綺麗だ。ヤンキーのボスらしくはない、穏やかな人だったから、彼に抱いていた恐怖心が小さくなった。
 状況整理が追いつかない。ちょっと待てよ。話を全く聞かされていないぞ。僕がこんな危ない連中の仲間になるなんて、絶対に不可能だ。命がいくつあっても足りないよ。

「……それで、その女の子は一体誰なんだ ?」
 僕が菊谷に答えようとすると、ワンダが先に口を開いた。
「俺、ワンダ。……人間だぞ」
「ハッハハ……そうか。俺も人間だぞ。イナズマ組のボス、菊谷茂(きくやしげる)だ。宜しくな」
 発言からして、菊谷もまともじゃないな。ボスまでしっかり、なかなかの変わり者だ。だって普通、自分でボスだなんて言わないだろうしな。

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