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<第58話> あの子とランデブー そして、


ネコミミ一家とお昼ご飯を食べた後は、部屋に戻って、”聖女ちゃん観察日記”を始める。

と言っても、【地図上プレビュー】で聖女ちゃんを覗き見ながら、基本、タマと一緒にゴロゴロ、ダラダラして、日付が変わる直前まで、ただ待つだけなのだが。

そうしてひたすら覗いていたが、聖女ちゃんとその周辺に昨日と変わった様子はなく、特に注目すべきことも起きなかった。

(まあ、相変わらず聖女ちゃんの顔からは、表情が抜け落ちたままだったけど……。)


そうこうしていると、何だかんだで、目の前の半透明の地図の時計は、【18:54】。

時間がたてば、特に何もしなくても、お腹は空く。

夕食を取りにお宿の1階に降り、例によってどこからともなく颯爽と現れたネコミミウェイトレスに夕食を頼む。

出てきた夕食は、お肉入りのコーンポタージュっぽいスープと、昨晩と同じ”げんこつ”丸パン。

(このお宿の料理のレパートリー、かなり厳しそうだね。)

そんな感想を抱きながら、さっさと完食してしまう。

そして、食堂の席を立とうとしたところ、刺すような視線を感じる。

(何だこのプレッシャーは!)

軽くク〇トロ・バ〇ーナ大尉が憑依しかけたが、視線の正体はすぐに分かった。

ネコミミ姉妹からの期待の眼差しが痛い。

しかし、今晩はやることがある。

ということで、昨晩のような宴会(餌付け)は、今晩は”なし”、である。

代わりに、スーパーの出入り口付近でデモ販売していた”石焼き芋(紅は〇か)”を4本取り出し、姉妹に渡した。

(これ、本当に焼いただけ?)

そう漏らしてしまうほど、とにかく甘いお芋である。

「後でみんなで食べてね。甘くてしっとりしていて、美味しいと思うよ。」

そうして、2階の5号室へ引っ込んだのだった。


そして引き続き【地図上プレビュー】で聖女ちゃんを覗き見ながらダラダラしていると、目の前の半透明の地図の時計は、【23:54】。

聖女ちゃん救出作戦! 本番5分前である。

まずは準備。

万が一の場合のために、準備できる装備は身に着けておくことにする。

収納の指輪から使っていない魔道具の指輪を取り出し、がら空きの右手の指に、使えそうな魔道具の指輪をはめていく。

(”照明の指輪”と”俊足の指輪”と”持久の指輪”、あとは、”遮音の指輪”、”擬態の指輪”ってとこかな。)

左手の”鑑定の指輪”、”収納の指輪”、”身代わりの指輪”、”障壁の指輪”、”洗浄の指輪”と合わせて、魔道具の指輪を10本の指にフル装備状態である。

(全部の指に指輪とか、何か、中途半端な成金みたいだね。)


ハンチング帽を被り、準備万端。

後は実行あるのみである。

今夜の作戦の基本は、【地図上転移】の連続使用。


【地図上転移】
    地図上の任意の場所へ瞬間移動できる
        対象:操作者及び操作者に直接触れているモノ
        制限:1日1回


1日1回しか使えないという制限がある【地図上転移】。

しかし、タマに確認したところ、日付が変われば使えるようになるという。

その条件を利用し、日付が変わる前後の短い期間に、繰り返し【地図上転移】を行うことで、2連続の【地図上転移】を実現するのだ。


まずは、日付が変わる直前に、聖女ちゃんの部屋に直接【地図上転移】する。

ただし、聖女ちゃんを刺激しないように。

そして、現状に不満がないか、やんわりと、されど手短に話しかける。

聖女ちゃんが騒いで入り口へ飛び出そうとしたり、僕の助けは不要であると意思表示したら、日付が変わるとともに、何もせず、即、【地図上転移】で撤退。

助けてほしい、と、聖女ちゃんが意思表示してきたら、日付が変わるとともに、一緒に【地図上転移】でここに戻ってくる。

こんな感じだ。

つまるところ、無理やり連れだすのではなく、あくまで聖女ちゃんの意思次第である。


目の前の半透明の地図の時計は、【23:59】になった。

(それじゃ、いっちょ、やってみますか!)


タマにお願いして、まず、聖女ちゃんの寝室と思しき部屋に【地図上転移】する。

ただし、聖女ちゃんを極力刺激しないよう、ちょっと距離をおきつつ静かに。

当然、霊視の能力がある聖女ちゃんを刺激しないよう、タマには僕の後ろに隠れていてもらう。

「それじゃ、タマ、お願いね。」

『分かったニャン。』

タマのお返事の直後、視界が変わる。

オペレーション”聖女ちゃんを救え!”、ついにスタートである。


聖女ちゃんは、転移してきた僕にソッコー気づいたようだが、騒ぎだすことはなかった。

(意外と冷静? それとも驚きすぎて声が出なかった?)

聖女ちゃんの態度にまずは一安心して、部屋が薄暗いので、照明の指輪で自身を照らしながら、目の前約5メートル先にいる聖女ちゃんに話しかける。


「僕は【アトラス】、悪いオジサンじゃないよ!」

聖女「え?」

「え?」

まずはつかみが大事! そう思って繰り出した、オッサン渾身のネタが通じなかった。

(なんで? このネタは日本人なら確実に座布団一枚ゲットだぜ! の鉄板トピックじゃないの?)

聖女ちゃんは、多少雰囲気が緩んだものの、いまだにこちらを警戒している様子。

(えぇい、こうなれば、次の手段だ。ジェントルに助けてくれる、女の子の憧れ、”白馬の王子様”改め、”白耳のオジサマ”大作戦だ!)

「……、え~、ゴホン、エホン。えーと、アレです。」

聖女「……。」

「そう、私は、”ココロのスキマ、アレします”でお馴染み、”消防署のホウから来た人”です。」

聖女「……。」

「まずは、最初に一言。」

「この場所は、一般の出入りが極端に制限されている、常に監視されている特別警戒区域にあります。」

「数多の警戒を潜り抜けるには、チャンスは限られます。」

「そんな状況のため、このような時間にこのような私室に直接お伺いしなければならなかったこと、ご容赦願います。」

聖女「……。」

「続けて本題に入らせていただきます。」

「あなたの今の状況、この国に拉致されて、無理やり働かされているのではないでしょうか。」

「逃げ出したいと思っているのではないでしょうか。」

「そんなあなたに朗報です。」

「今なら、この私の手を取るだけで、あなたをお救い致しましょう。」

「こことは全く別の国、あなたを束縛したり強制したりしない街へと、お送り致しましょう。」

聖女「……。」

(あれ? 無反応? ここまで言って、無反応? えぇい、しょうがない。とっておきを出すか!)

おもむろにハンチング帽を脱ぐオッサン。

「更に、今回は特別、私のこの、ネコミミ、こちらをモフる権利をお付けいたしましょう。」

「さぁ、いかがでしょうか。」

「今だけ、これだけ、あなただけ。」

「こんなチャンス、二度とありませんよ!」

最近、似たようなフレーズばかりを口走るオッサン。

聖女「行きます!」

「へ?」

聖女「行きます! 連れて行ってください!」

「えっと、自分で言うのもアレですが、こんな胡散臭い話ですが、本当にいいんですね?」

聖女「はい!」

「それじゃ、早速……」

聖女「はい! あっ、ちょっと待ってください! まだ私のような境遇の人間が他にもいるのですが!」

「……この国で、私のような種族が行動することは、かなり危険だということはご理解いただけていると思います。」

聖女「……はい。」

「そんな私に、これ以上の危険を冒せと?」

聖女「そんなつもりじゃ……。」

「それに、先ほど、こう申し上げました。」

「今だけ、これだけ、あなただけ。」

聖女「……。」

「ご納得いただけないでしょうが、今は緊急時。ご理解いただけたれば幸いです。」

聖女「……はい。」

「それじゃ、お手をどうぞ。」

聖女ちゃんが僕に近づき、僕の右手を両手で掴む。

目の前の半透明の地図の時計は、【0:02】になっていた。

(よし、日付変わったね。それじゃ、タマ、お願いね。)

『分かったニャン。』

タマのお返事と同時に、四つ耳族のオッサンと日本人の少女が、エネミア帝国から忽然と姿をくらましたのだった。

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