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19.恨みの矛先

 ルリアが名乗った直後、俺はシンクとの会話を思い出していた。
 そういえば、彼には妹がいるって話を聞いたことがあった。
 魔法使いを目指していて、危なっかしいから心配なんだと笑いながら言ってたな。
 そうか、この娘がそうだったのか。
 誰かに似ているなと思ってたけど、シンクだったんだな。

「何じゃこの娘、勇者小僧の妹だったのか」

「……そうらしいな」

「ふむ、じゃがどういうわけじゃ? なぜルークを狙っておる?」

「それはたぶん……」

「決まってるだろ! お前がお兄ちゃんを見殺しにしたからだ!」

「何を言っとるのじゃ。主の兄を殺したのは魔王じゃ、ルークではないぞ」

「違う! こいつが見捨てたんだ! その証拠にこいつだけ生きているだろ! 返せよ! 私のお兄ちゃんを返してよ!!」

「……」

 ルリアは涙を流しながら叫んだ。
 俺は静かにそれを聞いていて、プラムは呆れたように言う。

「言い掛かりじゃな。ルークは主の兄を見捨ててはおらんぞ。むしろ同じ気持ちじゃよ」

「そんなの知るもんか! お前が……何で、何でお兄ちゃんが死んで、お前だけ生きてるんだよ……何でぇ……」

「はぁ……困った娘じゃのう」

 プラムの言う通りだとおもう。
 ルリアの俺への憎しみは逆恨みもいいところだ。
 でも――

「ルーク?」

 俺はルリアの拘束を解いた。
 ルリアはすぐに立ち上がって、俺たちから距離をとり、涙を流した瞳で俺を睨んでくる。

「殺したいなら殺してもいいぞ。俺は死んでも復活するから、気が済むまでやればいい」

「どうしたんじゃ……今の主らしくないのう」

「そうかもな。だけど……こいつの気持ちはわかるんだよ。今の俺はともかく、昔の俺は役立たずで足手まといだった。形はどうであれ、俺は何もできなかった……俺が殺したようなもんだよ。だから、こいつには俺を殺す権利があると思う」

「……そういうなら勝手にするが良い。じゃが、敵になるというならワシは容赦せんぞ」

「ああ……たぶんそれは大丈夫だと思うよ」

「ふんっ、ならば速う済ませるのじゃ」

「ああ……。ほら、かかってこいよ。俺は無防備だぜ」

 言葉通り武器を持たず、両手を広げてルリアに近づいた。
 本当ならこんなことをしている場合じゃない。
 一分一秒でも速く、魔王を倒さないといけない状況だ。
 それでも無下にはできなかった。目を背けることはできなかった。
 俺がここで向き合わなきゃ、きっと彼女の心は永遠に晴れないと思ったから。
 それにたぶん……。

「さぁ……」

「……っ――!」

 ルリアは素手で殴ってきた。
 杖は拾わず、魔法も使わず、ただの拳でポカポカと俺の胸を殴ってきた。

「お前がっ! お前が……」

 この時には、もうほとんど殺意は消えてきて、一発殴るごとに殺意は薄れていった。
 流れる涙と一緒に消えてしまったように……いや、そもそも彼女の殺意は本物じゃない。
 自分でもわかっているんだ。
 恨みの矛先を向ける相手が、俺じゃないんだってことに。
 わかっていてもどうしようもなかったんだと思う。
 やるせない気持ちがあって、どうしていいかわからなくて……ただ辛かったんだと思う。
 ああ、やっぱりだ。
 思った通り、彼女は俺を本気で殺したいとは思っていなかった。
 当たり前だよな、だって彼女はルークの妹なんだから。

「うっ……うぅ……」

「ごめんな……俺が弱かった所為で……」

 一頻り殴ったあと、ルリアは崩れるように俺の胸で涙した。
 俺はそっと抱きしめながら謝罪の言葉を口にした。
 とても悲しい気持ちでも俺は涙を流せなかった。
 俺の分まで、代わりに彼女が泣いてくれているようにも思える。

 それからしばらく経過して――

「落ち着いたか?」

「……うん」

 枯れるまで涙を流したルリアは、ようやく落ち着きを取り戻したようだ。
 街道の木陰でちょこんと座り、泣いて赤くなった目を擦る。

「さて、そろそろ行くか」

「じゃな、随分道草をくってしまったからのう」

「ま、待って!」

「何じゃ娘、まだルークを狙うつもりか?」

「ごめんなルリア。俺たちは魔王を倒すために旅に出たんだ。俺に怒ってるなら、全部終わったあとで好きなだけ殴らせてやる」

「違う! もうお前は……狙わない。でも許したわけじゃない! だから、私も一緒に行く!」

「一緒にって、まさか魔王のところまでか?」

 ルリアはこくりと頷いた。
 彼女の表情からは、冗談ではないことが伝わってくる。

「いや……さすがにそれは」

「私だってお前と一緒なんだ! お兄ちゃんを殺した魔王が許せない!」

「だからって危険だ」

「勝手についてくる分には構わんじゃろ」

「プラム?」

「それに、さっきの魔法は中々じゃった。戦力にならんわけでもなさそうじゃ」

 意外にもプラムはルリアの同行に賛成だった。
 ただ、どちらかといえば仲間にするというより、囮くらいにはなるだろうという考えなんだと思う。
 足手纏いになるなら、すぐにでも切り捨てるつもりだ。
 俺も赤の他人ならそうすると思うけど……。

「わかった。じゃあ勝手にしろ」

 俺はしぶしぶ了承した。
 こうして、勇者シンクの妹ルリアが仲間?になった。

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