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172話 同盟?

 あたしの発言にみんな目を丸くしていたけど、すぐに真剣に何かを考え始めた。

「……遅かれ早かれ、と言ったところか」
「ここまで発展した迷宮の街を、みすみす譲り渡すのも何だか癪ですしね。俺はいいと思いますよ」
「領民のみなさんに是非を問うては如何でしょうか?」
「ならば父上には時間稼ぎも同時進行でお願いせねばなりませんね」

 ミハエル様が口を開くと、続いてレン君、ヒメ、アインさんも意見を口にする。
 既に何かが決まってしまったかのような流れ、そして口ぶりなんですけど?

「シルト君。俺からの提案だ。さっき君が言った独立宣言、進めさせてもらおう」

 え? 
 ええ?

「その上でお願いしたい。シェンカー領と迷宮自治区で同盟を結んで貰えないだろうか? いや、いっその事連邦国家樹立というのもいいかも知れないな」

 ちょ!?いやいやいや!待ってくださいな!
 ミハエル様、そんな面白そうに笑ってないで!

「ミハエル様? どうせ独立するんだったら以前みたいに迷宮街も支配下に置けばいいじゃないですか?」
「う~ん、シルト。それは迷宮自治区に住む人達の心情的に難しいと思うぞ?」

 そんなあたしの言葉に、レン君が眉を顰める。

「なんでさ!? レン君だってその方が手っ取り早いと思わない?」
「そりゃそうなんだがな……」

 レン君が困ったように頭を掻く。するとヒメが落ち着いた空気をもたらす様な、静かだけど良く通る声で話してくれた。

「はじめは森の中で迷宮の入り口がぽっかりと口を開けているに過ぎなかったこの地を、切り拓き街として発展させた人達には誇りがあるのですよ。魔物がうごめく深い森で文字通り命懸けで切り拓いた街。もちろんミハエル閣下の庇護の下に発展してきた事は皆も重々承知しています。ですが、実際に迷宮に潜って街を発展させる礎を築き上げ、莫大な利益をもたらす事ができたのは、迷宮調査隊の第一陣のパーティの皆さん、そして何よりもメッサーさん、ラーヴァさん、そしてシルト。あなた方三人の力に寄るところが大きいのは、ここの住人達の共通認識です。だからこそ、ここが自治区として王国から切り離された時に、フォートレスをリーダーに、という声が上がったのだと思います」

 それは……確かに否定できない、かな。あたしらがリーダーというのはともかくとしても。

「そこで、だ。自治区となった以上は街の運営も自分達でやる必要がでてきた。俺達がエルフを救出している時も、帝国でシャオロンとやり合ってた時も、ここの人達は誰もが皆自分に出来る事を模索して頑張ってたはずなんだ。王国の支配から脱しても、これと言った混乱もなく街が日常を謳歌してるだなんて、普通だったら絶対にありえない事なんだぞ?」

 レン君が、幾分表情を柔らかくしながら話してくれた。
 そうだったんだ……
 あたし、知らなかった。みんなを守る為とか言って、あんまり深く考えもせずに突っ走ってただけだった。

「そして、街の住人達や出入りする者達も皆、フォートレスがこの街に関わるもの全てを守る為に戦っているのを分かっているのさ。だからこそ、自分達がリーダーとして認めた君達が遠征したり長期に渡り迷宮に潜ったりしている間、迷宮街を守ろうと必死に頑張ってきたんだ。実際私も騎士団を指揮しながらその様は見ているからな。だが、フォートレスを、シルトを中心にこの街を盛り立てて行こうと団結した矢先に辺境伯領に併呑されるような事になってみろ。今までの自分達の頑張りを、誇りを、全て踏みにじられたように気持ちになると思わないか?」
「アインさん。それはつまり、後で美味しく食べようと必死で頑張って作ってたお菓子を、隣のおじさんがひょっこり来てぱくっと食べちゃってあたしガッカリ、そんな感じですか?」
「よしよし、ちゃんと理解出来てて偉いな、シルト」

 えへへ♪ レン君に褒められた。

「……シルト、それでいいんですか?」

 ちょっと。なんでヒメはそんな可哀そうなものを見るような目で見るのかしら!?

「ふふふっ、分かり易い例えだな。まあそんなところだよ」

 アインさんも笑ってる……やっぱり残念な答えだったのかしら?

「くくくく……俺が隣のおじさんか。はーっはっはっは! 面白いな! 言い得て妙だよ! はっはっは!……いや、失礼した。概ねシルト君が言った通りでな。下手に我が領内に組み込むと暴動が起きかねん。それほどまでにこの街には自立心が育っている。だからこそ、同盟をお願いしたいのだ」

 ミハエル様がテーブルに手を付き頭を下げる。

「ちょ!? 頭を上げて下さいミハエル様! あたしみたいな平民の娘に頭を下げるなんて!」

 かなりパニクってしまった。いくら無礼講な雰囲気でやってた会見でも、さすがにこれはないよ。

「これが俺なりの誠意なのだ。身分など関係なかろう? 国と国との交渉だ。我が領民を守る為に有益な事ならばこのような事、些細なことだとは思わんか?」

 国と国との交渉、か。
 今までの話だと、本当にあたしは担ぎ上げられる以外に道はなさそうね。

「最終確認です。ここや辺境伯領が王国直轄地になった場合、本当に街の人達は不幸になりますか?」

 これだけは聞いておかなくちゃならない。ぶっちゃけ、ミハエル様が犠牲になる事で戦争が回避され、王国の統治下でみんなが今まで通りの生活を営めるならば、ミハエル様に犠牲になってもらうのもやむを得ないと思う。

「ここに迷宮が存在している以上、間違いない」

 即答だった。

「わかりました。アインさん、こちらの段取りをお願いしますね! あたしってばただのお飾りですから、なんにもできないので! ミハエル様は今夜はこちらで仲間達(ガーディアンズ)と親睦を深めていって下さい。例のお肉を振舞います! ただし、冒険者の流儀での食事ですから上品とは言えませんけどね」
「う…仕方ないな。任せてくれ」
「ん、俺からも頼んだぞ、アイン。それにシルト殿()、是非ご馳走になろう。冒険者風の晩餐とは楽しみだ」

 よーし。とりあえずドラ肉食べて強化作戦だねっ!

 

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