バナー画像 お気に入り登録 応援する

文字の大きさ

169話 シルトの覚悟

「……シルト。君の考えはよく分かった。私は軍人故、攻め込まれれば抗うのが当然と思い込んでいたがそういう選択肢もあるのだな」

 アインさんが神妙な表情でそう言った後、目力を強くしてさらに続けた。

「だがシルト。王国が強硬手段に出た場合はどうする? 例えば焼き討ち、略奪、虐殺。戦争となればよくある話だ。そこまでしなくても強制労働や重税、迷宮内での不当な扱い。考えられる事はいくらでもある」

 う~ん。正直、そこまでするのかなっていうのがあたしの思い。それにしてもアインさんだって王国に所属していた騎士だっただろうに、中央の貴族に対する不信が強いよね。
 あたしの表情から読み取ったのか、アインさんの表情が自嘲するようなものに変わった。

「……確かに考えすぎかも知れんが、父上も辺境を治めているというだけで不当に蔑まれたりしてきたらしいのでね。中には蛮族扱いする馬鹿者もいたそうだよ。だから私は中央にいて現場を知らない肥えた貴族は大嫌いなんだ」

 ほえ~……
 貴族ってそんなにも偏見の塊りなワケ? 確かにアインさんも初めは庶民を見下してたけど貴族同士でもそういう事があるのかぁ。ま、そういう腐った貴族があたしの大切な人達を苦しめるなら話は別よね。

「あー、アインさんちょっといいかな? シルトの答えを聞く前に確認したい事がある。というか、シルトの答えは何となくわかるから別にいいや」

 ちょ!? レン君ひどっ!

「む、何かな?」
「仮に、王国がこの迷宮自治区に対して暴挙に出た場合、辺境伯はどうするのかなって。それからアインさん達騎士団も」
「ふむ。いろんな勢力が入り乱れて混沌としているのがこの迷宮自治区だからな。ここにこうしているメンバーも敵味方になってしまう可能性がある訳か」

 そうね……王国の人。帝国の人。それ以外の土地から流れて来た人。冒険者には様々な出自の人が溢れている。それに加えてエルフもいる。
 ……これからの情勢がどう動くかによって身の振り方を考えなきゃいけない人がたくさんいるんだよね。

「すまないが騎士団としての返答は現状では出来ないな。だが……私個人としては迷宮自治区の為に動く事だけは確約しておこう。そして父上は――」

 ん? アインさんがあたしを見る。つられてみんなもあたしを見る。

「え? あたし? なに?」
「父上がシルトとの面会を希望している。領主としての父上と、迷宮自治区の統治者としてのシルト。対等な関係での面会だそうだよ。父上の方からこちらに出向いてこられるそうだ。恐らく、迷宮自治区への対応はその時に行われる会談で判断するのではないかと私は思っている」

 えええ~~~! ちょっとなにそれ!? あたしが領主様と会談!? 会談って、怪談じゃないわよね!?

「ぷっ……あはははは!!」
「フフッ!!」
「きゃはははは!! ちょっとシルト! 責任重大だねえ?」

 むう……みんな他人事だと思って。

「お姉ちゃんうるさい! みんなもちょっと静かに!」

 もう! ちょっと混乱してるんだから落ち着かせてよねっ! むぅ……

「なあ、シルト」

 ん? イングおにい?
 今までずっと静かにしてたから気付かなかったけどいたんだ?

「今ちょっとムカッときたんだがまぁいい。鍛冶師ギルドや錬金術ギルドなんかの職人の立場からの意見として聞いてくれ。この迷宮のお陰で街も周辺も潤ってるが、それは希少な魔物の素材や魔石が流通してるからってのは分かってるな? だがあくまでも希少な(・・・)魔物の素材や魔石であって、ゴブリンやコボルトなんかじゃ大して影響は出やしねえ」

 うん。それなりに使い道もあるし需要もあるんだろうけど安価だからね、ゴブリンやコボルトは。

「仮にここが、王国や帝国の管理下に置かれる事になったとしよう。おそらくお前らフォートレスやお前らの息のかかった冒険者や組織は邪魔者扱いになる」

 んー、なんで? だってあたしらは冒険者だよ? 普通に迷宮に潜って普通に依頼を受けて生活するだけの存在だよ?

「今多くの冒険者がここに集まり迷宮に潜っているが、第三階層を突破出来るのはほんの一握りのパーティに過ぎねえ。そしてその第三階層を突破した面子は全てお前が(ドラゴン)を食わせた連中なんだよ」

 ……あ。

「お前らにそんなつもりはねえだろうが、お前らの派閥……ってのは言い過ぎかも知れねえが、とにかく結果的に迷宮由来の利益をほぼ独占しちまってるのさ。実力がモノを言う冒険者の世界でそれにケチを付けるヤツはいねえだろうが、後から来るこの街の為政者としては面白くねえだろうなぁ。で、お前らを排除しようとするだろう事は容易に察しがつく」

 ここまで言われたら、流石にあたしも理解出来るよ。あたし達を追い出したあと、自分の息のかかった冒険者なり軍人なりを連れてきて、迷宮に潜らせ迷宮の利益を独占しようとするんだろうなあ……

「もしそんな事になれば、冒険者ギルドとしては看過できませんね!」

 おお、セラフさん。スイッチが入りそう。

「おそらく、職人や商いに関わる各ギルドも同じ意見ですよ、セラフさん」

 コルセアさんも。彼女もエルフの実力者で1級錬金術師だもんね。各方面に影響力がありそうだわ。

「つまり、余所から迷宮の素人を連れてきて探索しても、大した成果は得られず迷宮街は衰退していくだろう、そういう事ですね?」
「そういう事だ。ヒメの嬢ちゃんが言った事は、冒険者ギルドで把握出来てるんだろう?」
「そうですね。他領から来た冒険者パーティは第二階層を突破出来るのが一握りしかいません。無理をして犠牲者も出ているのが実情ですね」

 暫しの間、部屋の中を静寂が包み込む。現状をを把握して先の展開を読み込んでみる。あたしも賢いとは言えない頭で必死になって考えた。みんなもきっと最善策を考えているはずだ。イングおにいの話を聞いて、流れに任されるままになるのはなんかマズい。そんな気がしてきた。

 ……

 よし!
 迷宮は守らなくちゃいけない……んだよね?
 イングおにいが言ってるのは経済の話だけど、弱っちい連中じゃこの迷宮は抑えきれない。魔物が溢れ出したらまたあの悲劇が起きる。迷宮から溢れた魔物と戦ってお母さんもお父さんも死んじゃった。ハウルお父さんも氾濫の時に……だから利益目当てのへなちょこ貴族にこの街を任せてはダメなんだね。

「あたし、覚悟を決めた! 迷宮を、この街を守るよ! だけどあたし一人じゃ何もできない! みんなお願いします! あたしに力を貸して下さいっ!」

 あたしの決意。それを聞いたみんなが頷いてくれる。

「この街の自治権が他者に渡る事の危険性は、今イングヴェイやシルトが言った通りだな。私はこの事をこの街の人々に周知しよう」

 領主様の娘で、迷宮自治区の騎士達を統括しているアインさんなら安心して任せられるわね。

「もちろん冒険者ギルドも動きますよ。ギルドは周辺国にまで影響力がありますからね。国家と言えどもそうそう介入は出来ません」
「生産、商業系ギルドも不利益になると分かっている事は看過できないでしょう。恐らくシルトちゃんの支援に動くハズです。」

 セラフさん。コルセアさんも。ありがとう!

「アインさん。辺境伯様との面会、セッティングをお願いします。ストレートにぶつかってみますよ」

 敵になるか味方になるか分からないけど、やるだけやってみよう。
 

しおり