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第59話

 二週間後の午前。第一研究所に設けられている離陸場に、澄人を乗せる垂直離着陸型の輸送機――VTOLが到着した。

 機材などが入っているコンテナの積み込みが始まり、キャリーケースを持つ澄人とナオは、搭乗する時を待っていた。すると、しかめ面をした荒山が二人の前に現れた。

「柳原澄人」
「おはようございます、荒山総主任」

 荒山は澄人の隣に立ち、詰め込まれるコンテナを見ながら聞く。

「……今更だが、本当に行くつもりか?」
「はい」
「やはり、ナオが廃棄処分されないようにするためと、ここを去らないようにするためか?」
「それだけじゃありません。修理とメンテナンスができる者が必要ってことは、それを必要としているアーティナル・レイス達がいるということですから。僕は、そのアーティナル・レイス達を治してあげたいんです」
「……そうか。役に立つかどうかはわからんが、ナオの武装を用意させてもらった。RAY・プロジェクトが休止になる前に試作された武装だ。データは今、お前の端末に送った」

 澄人はキャリーケースから手を離し、モバイル端末をとり出すと、荒山から送られてきたデータに目を通す。

 空戦を想定した、大型の装翼とスラスター。それだけなら、現在使用されている他の空戦用アーティナル・レイスの武装とあまり変わりない。しかしそれ以外の部分は、他の武装と異なっている。

 試作型A.E.バリア――その名の通り、対エネルギー兵器用のバリアで、低出力のものならば、ほぼ無効化する。

 試作型高出力エネルギーカノン――理論上は、バッテリー式のエネルギーライフルの、約五倍の威力を誇る長砲身の射撃武器。

 試作型エネルギーブレード――高周波ブレードを超える威力を有すると言われている、大型ブレードで、スペック上は戦車の装甲すら可能。

 これだけ見ると、非常に優れた――それこそ、戦局を一気に変えかねない装備ばかりだが、無論欠点が存在する。

 試作型A.E.バリアは、消費エネルギーが激しいため、常時展開し続けることができない。
試作型高出力エネルギーカノンも、発射が可能になるまで、チャージに時間がかかる上、冷却性にも問題がある。

 試作型エネルギーブレードについても、刃の部分を形成するためのエネルギー消費量が馬鹿にならないほど必要で、使用可能な時間は長くて数秒という欠陥品だ。

「見ての通り、最新技術が導入されてはいるが、正常動作する保証はない」
「それでも、何もないよりはマシです。ありがとうございます」
「しかし、どうやってこれを? 私がテストした後、廃棄されたはずでは……」
「書類上はな。だが別のプロジェクトで使われていたことが判明してな。それも終了して、こんどこそ本当に廃棄されるという話を耳に挟んだので、木村専務に頼んで、こちらに回してもらった」

 できれば、もっとまともなものを用意したかったという意志が、荒山の声と表情から伝わってくる。だが、いくら総主任とはいえ、軍用の武装を簡単に用意することはできない。これが澄人にしてやれる、荒山の精一杯であった。

「柳原澄人様。準備ができましたので、搭乗をお願いします」

 VTOLを操縦する、H.M型のアーティナル・レイスが澄人に言ってきた。

「わかりました」

 澄人はモバイル端末をポケットにしまい、再びキャリーケースの持ち手を掴んだ。

「柳原澄人……必ず生きて、ここへ戻ってこい」
「はい」

 澄人が力強く頷くと、荒山はナオにも顔を向ける。

「ナオ。柳原澄人を頼むぞ」
「絶対に守ってみせます」

 荒山に誓い、澄人とナオが搭乗すると、VTOLは三ツ山島へ向かって飛び立って行った。

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