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第51話

 澄人のことがネットで騒がれたことにより、第一研究所の荒山を含めた上層部の人間達、そして澄人は、翌日に謝罪会見を行った。

 荒山は第一研究所の総主任である自分の責任だと、カメラに向かって頭を下げ、今後このようなことが起きないよう努めていくと伝えたが、それで騒ぎが収まるわけもなく、澄人を辞めさせろというクレームやネットへの書き込みが相次いだ。

 ペンダントを盗られたからという理由があっても――それが澄人にとって、どれだけ大切なものであっても――第三者からすれば、たかがペンダント。

 ペンダントの中身が澄人にとっての子供達で、人質にとられていたから警察を呼ぶことができなかった状況だったとしても、映像を見た者達にはそんなことがわかるはずもなく、なぜすぐに警察を呼ばなかったのか? という声が多数あがった。

 ただA.R.Bをしたかっただけじゃないのか?

 黒邊という男から、多額の賭け金を提示させられたから話に乗ったのではないか?

 施術を施したアーティナル・レイスの性能を、バトルで確かめたいという思いがあったのではないか?

 憶測が飛び交い、澄人に対する世間や久重重工の社員、実習生達からの目は、一気に冷ややかなものになっていった。

 謝罪会見後、澄人は具体的な処分内容の決定が下されるまで、二日間の自室待機を命じられた。

 その間、荒山は関係各所に謝罪をして回り、澄人を辞めさせないように説得を行った。他の社員達……他の研究所の総主任……久重重工の代表にまで。

 その甲斐あって、澄人は辞めることにはならずに済んだ。けれども、それなりの処分が言い渡された。

 評価の減点と外出禁止。それと一ヶ月間、毎日第一研究所の敷地内の掃除。

 減点によって彼の実習成績は最下位。こうなってしまうと、久重重工の出世コースに乗れる可能性は、ほとんどゼロ。良くて副主任補佐止まりだ。

 外出については、よほどのことがない限り、最低三ヶ月は第一研究所の敷地内から出ることが許されない。これには実習による外出も含まれており、その分の評価や経験を澄人は得ることができないということになる。

 掃除についてもそうだ。勉強や運動に使う時間が削られる上、第一研究所の者達に軽蔑の目を嫌でも向けられ続けることになる。

 それを澄人は真摯に受け止め、二日間の自室待機が終わると、第一研究所の社員達に頭を下げて回った。当然、社員達のほとんどから冷たい態度をとられてしまったが、荒山だけは彼に温かいお茶を入れてくれた。
 

 自室待機が終わった次の日の朝。

「…………」

 寮から出てきた実習生や出社してきた社員達が歩き通る中、澄人は本棟の前をホウキで掃いていた。

(澄人……)

 その側で立っているナオは、掃除を手伝いたい衝動に駆られるが、それは許されない。今の彼女は、澄人の監視役として命を受けているのだ。

「よ、よう……澄人」
「澄人君、おはよう……」

 アキラと良美が声をかけてきた。だがそれは、以前よりも離れた位置からだった。

「おはよう」

 仕方がないという、諦めの意が含まれている微笑で挨拶を返す澄人。

「澄人、本当なのか? A.R.Bで賭けバトルをしたって……」
「……バトルをしたのは間違いなく事実だよ」
「で、でも、ペンダントを盗られたこと以外にも、別の理由があったからなんでしょ?」
「……謝罪会見で言っていた通り、ペンダントが盗られたからさ」

 澄人に対する落胆の色を顔に見せる、アキラと良美。それでも二人は、まだ立ち去らない。澄人を信じたいと、心のどこかでまだ思ってくれているのかもしれない。

「……なあ、澄人。理由は本当にそれだけなのか? 俺は、お前がそんなことで賭けバトルをしたなんて思えないんだよ」
「私もアキラ君と同じ考え。だって澄人君は、実習生の中でも特に優秀だったって――トップの成績だって、みんな言っていたくらいなんだよ? それなのに、こんなことをするなんて…………」
「澄人。実は何か深い理由があるんだろ? よかったら俺達に話してくれよ。力になれるかどうかわからねぇけど……聞くことくらいはできるからさ」
「そうだよ。私達、友達なんだし」
「友達…………」

 澄人の手が止まる。話すべきかどうか迷っているのだろう。

 正直、ナオはこの二人が苦手だった。多くの人間と同じ――アーティナル・レイスをモノとして見ているからだ。それでも、彼等は澄人と比較的仲がいい方だ。それならば――マイクロメモリのことは話せないとしても――ある程度のことは、話しても良いのではないか? この二人なら、きっとこの先も澄人と仲のいい関係を続けてくれるのではないか? その末に、アーティナル・レイスをモノとして見る考えも変えてくれるのではないか?

 何より、今の状況に置かれている澄人には、自分以外にも心の支えとなる存在が澄人には必要だと、ナオは思っていた。それが友達と言ってくれる、この二人ならば――。

「実は……」

 澄人が地面に向けていた顔を二人に向けた。その時――

「やあ、おはよう」

 さわやかな笑顔を浮かべている高身長の青年が、澄人達の前に現れた。

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