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第48話

 念願だった、澄人と手をつなぐことができたナオ。

 その幸福に酔った彼女の瞳には、澄人がより一層美化された姿で映っていた。

「ナオ、着いたよ」

 夕焼け空になったころ。植物園の入り口前に到着すると、澄人は足を止めてナオに声をかけるが、そんな彼女がまともな状態なわけがなく、

「はひゃぁ~……」

 口元をほころばせ、うっとりとした目で澄人を見ている。

「ナオ。ナオ」
「…………っ! な、なんでしょうか?」

 澄人に肩を軽く揺さぶられ、ようやくナオは返事をした。

「植物園に着いたから、チケットを買って入ろう」
「は……はい」

 手を引かれ、窓口でチケットを購入して中へ入ると、澄人は「どのエリアから見ていこうか?」とナオに聞いてきた。

「その……できれば、夏から順番に見ていきたいです」

 そうすれば、日が落ちたころに春のエリアに着く。ライトに照らされた桜の木のところで、澄人に想いを伝えようと彼女は考えたのだ。

「実は僕も、そう考えていたんだ」
「あ……そうだったんですか」

 澄人も考えていることが同じだったことに、ナオの胸はキュンとなる。

 もしかしたら告白が成功するかもしれない。そう思うくらいに、ナオには彼の笑顔が好意を寄せてくれているように思えた。だからそれを離すまいと、ナオはつないでいる右手にちょっとだけ力を入れた。

 各エリアには、ネットに載っていた通り、色とりどりの花が植えられていた。

 アサガオ、ゼフィランサス、ひまわり、アジサイ……などが植えられている、虫の音が流れる夏エリア。

 キク、コスモス、サンゴバナ、ゼラニウム……といった花は、人工落ち葉が敷かれている秋エリアに。

 イソギク、アネモネ、コチョウラン、スノードロップ……は、雪景色が投影されている、冬エリア。

 休日だが、それほど客の数は多くないため、二人は窮屈な思いをすることなく、各季節の花々をゆっくり見ながら歩き……

「ここが春エリアだね」

  一八時半。二人は春エリアに入った。

 暗めの空間の中、植えられた花を引き立たせるように設置されたライト。

 スピーカーから流れているのは、春をイメージした穏やかな曲。

 そして――

「あ、桜です!」

 奥の一番広いスペースに植えられている、桜の木がナオの目に入る。

 このエリアの主役だと言わんばかりに、盛大にライトアップされているその桜は、品種改良を施されているのか、この季節でも満開の花を咲かせていた。

「見事な桜だね」
「はい。とってもきれいです」

 二人はその桜へ向けて、他の花々を見ながら歩いていく。

(もうすぐ……桜の木のところに)

 徐々に近づくにつれて、ナオは自分のリアクターが鳴るのを感じた。

 昨日、何度も伝え用途思っている言葉を口にしたが、やはり緊張してしまう。しかし、この機会を逃したら、もう二度と想いを伝えることはできないだろと、彼女は考えていた。

「澄人。ちょっと先に、桜の木のところへ行かせていただいても、いいですか?」
「うん」

 ナオは澄人の手を離し、数段ある階段を登って桜の木の側へ行く。

 リアクターの高鳴りを抑え、緊張を解くために深呼吸を数回したあと、彼に伝える言葉を声に出さずに口だけを動かして、今一度リハーサルを行う。


“澄人。私は……あなたのことが好きです。愛しています”


 桜の木に願いながら、ナオは何度かそれを行う。

「……よし」

 伝える覚悟ができたナオは、

「澄人――」

 振り向いて澄人の方を向く。だが彼の視線は、ナオではなく別のところにあった。

 前かがみの体勢で微笑みながら澄人が見ていたのは、小さなライトに照らされている、たんぽぽの花。それを見ながら、彼がつぶやいたのは……

「……はる」

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